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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章1部 正義の議論
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第73話 どこにいても⑤

 「――ということになりました」


 総代への報告は私だけが共に来ている。大勢で行っても仕方がないと言っていたが、本当にそれだけが理由だろうか。


 「恭一は連れて帰りますか」

 「出来ればその方が良い。けれど、無理なら聞き出せるだけ聞き出して処断しなさい。良いかい」


 視線は私を向いている。私を連れて来たのは、そういう理由か。


 「はい、総代」


 部屋を出てしばらくすると、貿易のボスが立ち止まる。


 「少しは反論するかと思った」

 「すべきでないと判断しました。総代の決定は絶対です。あなたが辛くなるだけではないですか」


 母親が違えど、本当の兄弟の様に、そして思いやりを持って接していたのであろうことは想像出来る。その貿易のボスに非情な判断をさせるのは酷だ。

 私が反論すれば、(たしな)めるだろう。それはつまり、恭一を殺すという命令が貿易のボスの命令でもあるということになる。


 「しなくても良いことは、しなくても良いのです」

 「…案外、晴臣は本当に欲しがったんだな」

 「恭一のためにならなくとも、仮の主のために動けという命令です。それを守ったに過ぎません」


 非情な判断をすべきときはある。だが、命令を理由に逃げても良いことだってある。それを、私は知っている。

 私が、ずっとそうだったのだから。


 「恭一のことは、他の兄弟より分かっているつもりだった。だが、実のところは全く分かっていなかったんだな」


 そんなことはない。

 そう言った方が貿易のボスの心を軽く出来ることくらい分かる。だが、それは誰かのためになるのだろうか。


 「それは分かりませんが、他の兄弟より信頼されていると思います」

 「何故そう思う」

 「会合のあの状況を作ったのは、恭一です」


 一瞬呆けた顔をした後、笑った。その乾いた笑いが、長い廊下に吸い込まれて消えてゆく。


 「初めから俺に()()()つもりだったとでも言いたいのか」

 「そうです」

 「だが、晴臣を選ぶ可能性もある」


 それはない。仮に殺さなかったとしても、私は貿易のボスを選んだ。少々歪んではいるのかもしれないが、慕われる貿易のボスを見ておきたかったからだ。

 私は自らの意志で選んだつもりでいたが、恭一に選ばされていたわけだ。


 「晴臣さんとは、もう十分話せました」

 「念のため、自分が入る棺は用意しておくとするか」


 歩き出した貿易のボスの半歩後ろを、私も歩き出した。




                  ***




 翌日の午前中、弓弦さんと佐治さんと共に、貿易のボスと現れた2人と対面した。片方は背の高い、綺麗な女性。片方は体格の良い男性。


 「恭一くんが裏切者かもって?面白いし、凛ちゃんの頼みだから来てみた。東野(ひがしの)沙也加だよ、ヨロシクね。ちなみに凛ちゃんとは母親も同じな、完璧な姉弟。お嫁に行ったんだ。政略な割には相思相愛度が高いのが自慢かな」


 色々な意味で強そうな人だ。


 「沙也加さまの護衛をしています、(しん)です。宜しくお願いします」


 想像したよりも柔らかい声で、落ち着いた話し方だ。

 こちらも自己紹介をすると、沙也加さんは私をまじまじと見た。


 「この子が噂の、恭一くんの…へぇ、アタシは嫌い」

 「まだ自己紹介しかしていないだろ」

 「だって、折角可愛がってくれる人がいたのに殺しちゃったんでしょ?しかもひとりは晴臣くん。恭一くんに捨てられたらどうするの?」


 折角可愛がってくれる人…か。それは間違いではない。私などに積極的に関わってくれる人すら少ないだろう。

 黙ったことをどう捉えたのか、嫌な笑みを向けて来る。


 「ほら、なにも言えない」

 「私は玩具です。より魅力的な玩具が見つかれば、捨てられるでしょう。しかし、そんなものが簡単に見つかると思いますか」

 「やっぱり嫌い。余裕があるもん。人に好かれるために努力したことないでしょ。どれだけ思い合ってたって、努力なしに築ける関係なんてないんだよ」


 それも間違いではない。南にいた頃、私にはそういった努力が足りなかったのだろう。だから誰も積極的に救おうとしなかった。

 だが、恭一は違う。私は恭一のために剣術や体術を覚え、強くあろうとした。恭一の願いを叶えられないこともあったが、それは多くなかった。


 「私は恭一のために努力しています。知らないことを、知ったことの様に言うのは止めて下さい」

 「アンタを捨てるっていう目的も含まれてるって微塵も思わないんだ?」


 恭一が私を捨てるはずなどない。


 「思わないんだ。…分かった。見届けたげる。異能の本は?」


 4冊、5冊、4冊と分けて置く。どう分けたかと、分かっていることをまとめた紙を貿易のボスへ渡した。


 「これを見せて問題なければ、そのまま沙也加さんへ。間引きしたいものがあれば書き写しますので、言って下さい」


 詳細不明4冊

 『赤ずきん』対象者に認識される必要がある可能性あり

 『雪の女王』人の心を読む、覗く等

 『靴屋の小人』異能戦場にて持ち主が変わり、異能が大きく変わった可能性あり。戦闘した南坂友己以前の持ち主は不明。南坂友己は時間を操る様な異能

 『金の斧銀の斧』対象者に嘘を吐かせ様とした可能性あり


 幻覚系5冊

 『手なし娘』手が切り落とされた幻覚を見る。風景は変わらない

 『舌切り雀』2種類の幻覚の内、どちらが良いか選択させられる。選択の理由を言うまで異能者対象者共に身体の自由が奪われる。異能者も同じ幻覚を見る様子

 『シンデレラ』特定の動作をした人物の視覚を奪う。全く見えなくすることも、特定のものだけを隠す様に見えなくすることも可能

 『天国と地獄』詳細不明

 『鉄の処女』拷問されている幻覚を見る。少なくとも異能者はその間自由に動くことが出来る


 その他4冊

 『アラジンと魔法のランプ』瞬間移動の様に物体を移動させ、出現させる

 『フィッチャーの鳥』死体の一部を使った人形を操る

 『池の水の精』水を操る。弾丸や盾を作ることが出来、汎用性が高い。植物や人間等の水分は水に含まれないと思われる

 『白雪姫』7つまで生命体を操ることが出来る。ただし発動するには、互いに認識し合う必要がある


 「いつの間にこんなものを。無礼は承知だが…勝手に、言われたことしか出来ないと思っていた」

 「人が関わることは、その場合の方が圧倒的に多いです」

 「沙也加、お前は間違えたようだな。人に気に入られる者に、秀でているものがない者は多くない」


 詳細不明の4冊と『手なし娘』『舌切り雀』『天国と地獄』『フィッチャーの鳥』『白雪姫』を除け、私の方を見る。


 「この4冊だ。沙也加、言っておくが弓弦には持たせるなよ」

 「どんな功績を残したって、余所者は所詮余所者だもんね」

 「そう思う者もいるだろう。用心に越したことはない。それに、弓弦なら異能がなくとも戦える」

 「佐治くんが嫉妬しちゃうよ?」


 あの目は既にしている。貿易のボスがいなければ無難にやれるだろう。私には関係のないことだ。

 貿易のボスに渡したものとは別の紙を沙也加さんに渡す。


 「『シンデレラ』『鉄の処女』『アラジンと魔法のランプ』『池の水の精』…今残ってるものだね?」

 「貿易のボスならこの4冊を選ぶと思いましたので、予め用意しておきました」


 不明瞭なものは選ばない。幻覚系2つは、持つメリットが少ない。死体蹴りをしない。互いに認識し合うことは危険。残るは4冊。


 だが、この中でもなにを選ぶかは確定している様なものだ。

 『池の水の精』は水がなければ使い物にならない。異能戦場に水源となる場所は多くなかった。水道はあったが、使えるかは不明。


 『鉄の処女』は簡単に異能を解くことが出来る可能性がある。

 『シンデレラ』も同じではあるが、一部を奪うものであれば異能だと分かりにくい。対して『鉄の処女』は異能だとはっきり分かる。それは大きな違いだ。


 結論

 沙也加さんが『アラジンと魔法のランプ』。後方から4人を自由に動かせる方が良い。更にいざというとき、どこかへ移動し逃げることが出来るためだ。

 そして新さんが『シンデレラ』。佐治さんは持たないだろう。弓弦さんへの意地もあるだろうが、ない方が便利な場合もある。


 「貿易のボスは止めろ。仮でも主である者への呼び方ではない」

 「分かりました」


 私の持つ異能『赤い靴』や色彩感覚についても説明した。あとは沙也加さんの決定を待つのみだ。

 ここ最近、割とまともに眠っている。やることがなくなり、眠くなってきた。それで、ついつい大きな欠伸が出た。


 「なんだ、眠いのか?子供だな。寝ていろ」

 「では遠慮なく」


 扉が開いた際死角になる、扉の横に座る。


 「待て待て。そこで寝るのか?」

 「はい。ここなら扉からの敵襲があった際、反撃しやすいです」

 「凛ちゃん…この子、やっぱ嫌ぁ」

 「そう言うな。ほら、せめてソファで寝ろ。敵襲なら佐治と弓弦がいる。大丈夫だ。な?」


 差し出された手を取り、椅子に座る。一気に睡魔が襲って来る。


 「こうして見ると、本当にただの子供だな。ずっと南にいれば、ゆっくり眠ることも知らず殺戮や拷問を繰り返していたのかもしれないな」


 ―――死への恐怖を、君は知ってるはず


 会合後、正雄さんが貿易のボスへ言っていた言葉だ。南海人と過去なにかあったことが嘘でないとすれば、それに関係することなのだろう。


 死の恐怖ではなく、死への恐怖。


 ゆっくりと死へ向かっていて、それを自覚させられていた。そういうことにならないだろうか。

 拷問されていたが助けられた。

 そうなると、助けたのは弓弦さんと佐治さんだろうか。いや、いくらなんでも2人では無理だ。しかし大勢で向かえば、戦争になる。


 「まどろんでいるだけだな」


 背中が一定の拍子で優しく叩かれる。私は、眠りに落ちた。

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