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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章1部 正義の議論
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第70話 どこにいても②

 「…違う」


 私を背中から抱きしめる者の手掴んで投げ、首筋に刃物を当てる。

 見らぬ4人は少しの間唖然としていたが、臨戦態勢になる。それを晴臣さんと正雄さんが制止した。


 「何故です!晴臣さま!」

 「絢子さんは恭一を投げ飛ばしたりしないよ。だからあれは恭一ではないんだ。分かるね?」

 「晴臣…本気なの?」

 「そうだよ?」


 捕らえている者が、大笑いし出す。


 「なにが可笑しい」

 「随分金バッヂの者に信頼されているのだな、少女。何故気付いた」


 気付く?ああ――、なるほど。


 「初めから、私に貴様の異能は効いていない」


 一時的にだが、私の意識を操っていた。変身ではなく、意識操作の異能と見て良いだろう。


 「恭一がいないことを誰も指摘しない。随分馴れ馴れしくして来る者だとは思ったが、それも誰も指摘しない。何故か恭一がいるかの様に振る舞われている。何者だ。恭一をどこへやった」


 例によって4人がにわかに信じがたい、といった表情をしている。


 「正雄さん、彼女の言ってることは本当ですか」

 「君にはあの人が恭一くんに見えてるはず。同じように、俺にもそう見える。だから分からない」


 誰も反論しない。ということは、異能が効いていないのは私だけなのか。どの様な異能で、どうしたら解ける。


 「でも久しぶりに会った恭一くんに対して反応が薄いこと、名前を呼ばないこと、話しかけないこと、この人の言動への反応の遅れ。全て説明出来る」


 晴臣さん、弓弦さん、佐治さん、そして貿易のボスが同意する。


 「私見ですが、武闘のボスの振る舞い自体にも不自然さを感じます。まるで即興芝居のようでした」


 舞台と人物の軽い設定と、大まかな流れで自由にする芝居。言い得て妙だ。


 「武闘のボスは、あれほどは狂っていません」

 「“武闘の”とそれほど話したことがあったのか」

 「異能戦場へ赴くことが決まった日に少々お話しさせていただきました。霞城さんのことも、少なくとも玩具として大事にされていました」


 私はそれを知っている。だから霞城さんを殺した。ボスのたったひとつの玩具になるために。

 それなのに…!


 「霞城さんの望んだ結果だと言うのなら、ボタンを掛け違えたのは絢子さんではなくあなたです。凡人は狂人にはなれません」

 「それを理解しているお前はなんだと言うのだ」

 「半狂人です。一応立場はわきまえていますが、ボスで遊ぶのが大好きなんです。満足ですか」


 捕らえている者が、再び大笑いする。


 「流石東と言うべきなのか。皆が皆狂っている」

 「貴様の感想などどうでも良い。私の質問に答えろ。恭一はどこだ。台詞はある程度指定されたはずだ。無事なんだろうな」


 刃物を持つ手に少し力を入れる。


 「生きている。だが、俺が死ねば死ぬ。そういう異能だ」


 例え嘘だとしても、嘘だと判明するまでは手出し出来ない。


 「手に入れた異能の本と元の持ち主を教えろ。それからお前たち3人の異能も見せろ。そうしたら居場所を教えてやる」

 「晴臣、弓弦に異能を持たせたのか」

 「いいや。嫌がるのは分かっていたからね、聞きもしなかったよ」


 小さくため息を吐く。大切にされている。まさか貿易のボスがこの様な人柄だとは思わなかった。恐らく内心はいつもこの様な態度だったのだろう。


 「総代」

 「その前に、異能を解いて姿を現し名乗りなさい」


 ニヤリと笑って、弓弦さんの方を見る。


 「姿が変わったな。弓弦、それは分かるか」

 「はい」


 私にも姿が変わって見える。

 弓弦さんが答えた瞬間、一瞬だけ視線が不自然に動いた。弓弦さんに変えた姿が見えることは予定外ということか。


 「その姿に変わってなにがしたい。俺を煽ってんのか?」

 「この姿が見えるとは、悲しいやつなのだな」


 化けた姿の者を大切に思ってれば見えない。条件は最も簡単なもので、そんなところだろうか。


 「なめるなよ。どんな姿になっても、見つけられないはずがない。今すぐ自分の姿を見せろ」

 「自分で殺しておいて、愛を語るのか」

 「そうだ。助けてやれるなら、お前が助けてやれば良かった。俺には出来なかったから殺した。二択だったんだ、仕方がないだろ」


 皆真剣な顔をして聞いている。この雰囲気では言うのが躊躇われるな。だが、いい加減腕が疲れた。

 誰か代わってくれないだろうか。


 「お前はここに来たくて来たのか?違うだろ。俺たちは命令に逆らえないように出来てんだよ」

 「北園に生まれておいて…!」

 「余程上でもない限り、苗字なんて関係ない。それが北だ。さて、絢子さん、代わります。ずっと同じ体勢でいると、いざというとき動き辛いですから」


 言いたいことを言ったのだろう。この女性が、弓弦さんが会いたい人なのだろうか。諦めていても諦め切れなかった、会いた――


 「っと、離すのが早いです。逃げたらどうするんですか?」


 瞬きをした瞬間だった。


 「…あれ?この人、異能戦場にいましたよね?」


 そうだ、約束をなかったことにしたときの様に、早くしなければ。早く、早く、恭一の心に少しでも住まう者を殺さなくては。


 「晴臣さま!逃げて下さい!」


 次を考える姿勢ではないが、この距離で咄嗟に庇えるのか。平和ボケの東では良い筋なのかもしれないな。


 「西の負けが確定したときの戦闘から戻って来たときと、同じ目をしているね。無暗に欲しがったわけではないよ?だから少しくらいは分かるつもりだよ」

 「ではご自分が殺される可能性を分かっていたのですね」

 「そうだね。仁彦(きみひこ)、どきなさい」


 正雄さんに制止されていた護衛が駆け出す。だが、それを佐治さんが止めた。貿易のボスの指示はない。どういうつもりだ。


 「命を助ければ救える、なんて思ってる?」

 「どういう意味だ」

 「そのままだよ。今晴臣さまを救えるのは絢子さんだけ。最終的な結果として間違っていたとしても、今正しいか正しくないかなんだ。だから邪魔は駄目だよ」


 狂った遊びをする。そう弓弦さんに言われ、自ら半狂人を名乗るだけのことはある。壊れている者の思考が少々分かるらしい。


 「これ以上晴臣さまの邪魔をするのなら、命令違反で射殺する。命令通り、そこをどけ」


 捕らえた者から手を離さないまま、銃を構えた。弓弦さんの腕なら、片手でも狙い通り当てられる距離だ。


 「君までなにを…!総代!」

 「好きにしなさい」


 私の刃物を遮っていた物がなくなる。そのまま一歩踏み込んで、晴臣さんの首筋を切り付けた。

 引き寄せられ、抱きしめられる。浅かったか。霞城さんのときといい、何故だ。出来るはずのことが出来ない。


 「双葉さんの髪飾りは赤だよ。恭一のこと頼んだよ」

 「はい」


 晴臣さんをそっと寝かせる。

 すぐにでも双葉さんを殺したいところだが、今のところ殺したことを問題にされる様子はない。少し様子を見るか。


 「仲間割れとは傑作だ」


 室内にいる生存者が一斉に笑い出す。


 「主がいてこその関係。横の立場の者の中で稀に友人もいるはいるが、物語のように美しいものではない」

 「簡単で陳腐な言葉。そんなもので片付けないもらえるかな。全ては己の主のために。僕たちに仲間なんていないよ」


 弓弦さんと佐治さんの言葉に、貿易のボスが満足気な表情をする。自分のために全てを捧げる。そう聞こえることだ。愉快なのだろうか。


 「異能を解け。恭一の居場所を教えろ」

 「金バッヂのボスを呼び捨てとは、随分偉いんだな」

 「自分の立場が分からないのか?」


 弓弦さんに銃を向けられるが、笑みを見せる。


 「お前こそ分かっていないのではないのか。言ったはずだ。俺が死んだら東恭一は死ぬ。無事に連れ戻したいなら、俺の言う通りにするしかない」


 恭一ひとりを助け出すために、言いなりになるとは思えない。

 この者が死ねば恭一が死ぬ。これを嘘だと証明出来れば、なんの問題もない。だが、どうやって。


 「君は捨て駒だ。それは分かるかい」

 「お前らとは違う。そんなものは存在しない」


 狂信…そうか、この者も楠巌谷の差し金か。南以外にも“仲間”はいるかもしれないが、まずは南の者として考えるか。


 異能戦争に対して不満を持っているのでれば、異能を持たずに赴いた者の親しい者の可能性が高いか。知っている限りでは、角南響か南坂友己。

 そして、この者の名前を当てることが出来たのなら、異能が解けるかもしれない。他者に化ける際は、相手が自分のことを知らない方が上手くいく。


 「だからかい。見捨てるという選択肢を取らないと思っているのは」

 「本気か。俺は寄越せとは言っていない」

 「嘘だよ。でも本当の姿を現さないのなら、それも良いと思わないかい」


 軽く舌打ちすると、瞬きをした瞬間に姿が変わった。


 「―――よく、私の前に姿を現せたな。南海人(みなみ かいと)

 「だから嫌だったんですけどね」

 「良心が芽生えたか。そうか。身体と違って、遅い発育だな」


 肩にでも刺しておけば、押さえていなくとも動けないだろう。私は建物の中を知らない。知っている者が拘束道具くらい持って来られないものか。

 振り下ろした刃物が、同じ様な短い刃物で受け止められた。力が流され、手に持っていた刃物が飛ばされる。


 肩に優しく、布が被せられた。


 「もう大丈夫だ。心配ない」


 そう言った人物の瞳は、はっきりと“私”を映し出していた。

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