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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第68話 迷子の心⑦

 『これより15分後、東と北の戦闘エリアへの門を開きます』


 時計を見ると、長針が2の上部に重なっていた。


 晴臣さんから1,900のポイント配布をする基地はC3北側2つだと聞いて、昨日と同じ言葉に返事をする。そして駆け出した。

 戦闘エリアに出ても、正雄さんのいつもの言葉はなかった。途中まで同じ道を行くからだ。


 「本当に大丈夫なの」

 「声で気付かれます。静かにして下さい」


 足音で気付くのだろう。だが、声の方が聞き取りやすいことは間違いないはずだ。しかもそれは晴臣さんに聞くべきことだ。

 疑問や不安、不満があるのなら、何故そのときに言わないのか。


 適当なところで正雄さんとは別れて、弓弦さんと並んで歩く。恐らく目的の基地へ着きそうな頃、後方から銃弾が飛んで来た。

 弓弦さんを狙っている。突き飛ばし、銃弾を弾く。


 「ゆっくり歩いて来たんですね」

 「急ぐ必要がありません」

 「30分あれば殺されていたでしょうから、そうでしょうね。でも良いんですか?もうひとりいて」


 異能者だったのか。昨日使わなかった理由は、異能の対象が2人必要だったためと考えるのが妥当か。


 起き上がろうとした弓弦さんが、突然叫び声を上げる。受け身を上手く取れず、足を捻ったどころの騒ぎではない。

 聞いたことのある声だ。あの頃地下で、何度か聞いたことがある。


 通りがかった際に合った目が、忘れられない。助けてくれと、そう言っている様な目だった。

 そんな力などない私は、なにもしなかった。いや、それは言い訳だろう。なにも出来ないことをありありと知ることが嫌で、なにもしなかった。


 「助けてあげなくて良いんですか?」


 思い出していた目と、対峙している者の目は、全く異なるものだった。それをしていた者の様な目でもない。

 面白がってやっているわけではないのだ。


 …今は考えるな。しっかりしろ。


 外傷がある様には見えない。

 幻覚を見せているのだろう。幻覚だと気付けば解けるはず。2人必要だという仮定を元に考えるのなら、触れることは得策ではない。


 「あなたを殺せば解けます」

 「じゃあ早くしてあげないといけませんね」

 「そうですね。拷問は人の心を蝕みます」


 幻覚でした、で終わることではない。異能の幻覚は、実体験だと思える程現実味がある。早くしなければ、不味い。

 だが、弓弦さんを守りながら戦えるだろうか。


 「聞いたことあるんですね、こういう声」


 飛んで来る銃弾を弾く。しかし弓弦さんばかり狙われて、近付けない。これ以上後退すると触れてしまうかもしれない。

 面倒だ、殺すか。

 そうしよう。いざとなれば殺せば良い。死んでも知らん。そうと決まれば離れ…られるか。だが、どうする。このままでは時間が経つだけだ。


 「意外です。守るんですね。でも、どうするんですか?」


 私が聞きたい。触れずに現実から干渉するには、どうすれば良い。


 「にげ、て…」


 こちらの声が聞こえているのか。しかし明確に聞こえている様子ではない。干渉の仕方次第では、異能を解ける。だが、間違えれば私も異能にかかる。

 一か八かだな。


 「名前は」


 左手で弓弦さんに銃を突き付け、右手で銃弾を弾く。


 「弓弦…」


 完全に触れていないため、私も異能に取り込まれずに済んでいるのだろうか。そうだとして、いつまで持つか分からない。


 「では弓弦さん、ここはどこですか」

 「ここは…ここ、は…」


 荒く乱れていた息が、勢いよく吸われる。そして、深呼吸を何度か繰り返す。戻って来たか。


 「今体験していたことは、幻覚系の異能です。早く体勢を整えて下さい。出来ないなら離れて下さい」

 「出来ます」

 「身を任せて死ねば良かったのに。手、震えてるよ?」


 たった今体験したことだ。無理があったか。


 「っざけんな!幻覚で死ぬわけないだろ。大体、あれはどういう人選だ」

 「は?」

 「ボスが俺のこと拷問なんてするわけないだろ」


 幻覚であることが分かっていた。そのため外からの干渉を受け付けた。そういうことか。だが、私も解き方など知らない。何故出来たのだろう。


 「人相がはっきり見えたの?」

 「その質問に正直に答えれば、なにか特典でもあるのか?」

 「ない。僕が本当に拷問して答えさせてあげるよ」

 「勘弁してくれ」


 2人の撃ち合いに、入る隙などなかった。昨日より弾を補充する際の動きに無駄がない。昨日でも十分隙がなかったというのに。

 異能の影響か、弓弦さんの息が少し上がっている。押され始めた。


 私は、どうすれば良い。背後から近付くことは出来ないだろう。

 なんとか赤に触れさせることが出来れば。しかし私が色を把握しているものは、私の持ち物のみ。

 長引かせれば、こちらの手の内が明らかになっていくだけだ。今日で決着を付けたい。残り15分。どうする。


 無理を承知で背後から近付くか。すぷれーを吹きかけた場所に誘導してもらうか。駄目だ。どちらも現実的ではない。


 「絢子さん、早くして下さい!」

 「今考えています。もう少し耐えて下さい」

 「そうか…」


 この辺りに赤があるのか。仙北谷仁が触れる場所に、あるのか。適当に発動してみようとするが、出来ない。


 「もう無理です。でも綺麗な紅葉ですし、最期の景色には良いんじゃないですかね?仁さんは、どう?」


 もう無理。そんな様子ではない。この言葉の中に赤がどこにあるのか指す言葉があるのかもしれない。

 謎かけの様なことはしていないだろう。比喩、特に隠喩は使っていない。では拾うべき言葉は…綺麗なこうよう。最期の景色。

 景色では抽象的過ぎる。こうよう、だろうか。


 「僕は嫌。諦める気になったなら、早く銃を降ろしてくれない?」


 こうよう…辞書で読んだか、図鑑で見たか、なにかした。色付く景色が綺麗だと初めに書かれていて、読み飛ばした。

 思い出せない。こんなことなら、読んでおけば良かった。


 「下を見るより、木を見る方が綺麗ですよ。ほら、見て下さい」


 木と地面にある。地面にあるものが宙に舞う程風は強くない。第一、それでは木にあると聞こえる様な言い方はしない。

 恐らく、木にあって地面にもあるものだ。木から落ちて地面に…分かった。こんなにも近くに、こんなにも沢山あったのか。


 異能『赤い靴』


 「動くな」


 仙北谷仁が放つ弾丸が止まる。


 「異能…!?」

 「そうです。昨日見せた強くなるための秘密道具以外に、発動する方法がないと思いましたか」


 悔しい。そういった感情を抱いていることが、なんとなく分かる。きっと私も仙北谷仁も、侮られること自体が悔しいのだ。

 仙北谷という家柄は、苗字持ちの中ではあまり良い家柄ではないらしい。それを理由に虐げられたこともあったのだろう。


 正当な評価をされない悔しさ、か。私にそんなものはない。だが、侮られることが不愉快であることは分かる。


 「紅葉…この葉たちは、赤いのですね」

 「はい。忘れてました」

 「仁さんはこの景色の中死ぬのは嫌だと言いましたね。そう思える程、美しい景色を見たことがあるのですね」


 私は、どこでも良い。恭一がそこにいるのなら、どこでも構わない。それもまた、仙北谷仁が言っていることとと同じ意味なのだろうか。


 「…貴方と、ちゃんと話してみたかったです」

 「ありがとうございます。さようなら」


 首を掻っ切って異能の本を取り出すと、あのけたたましい音が響いた。


 『戦闘要員の全滅、ポイントの全損により、北の負けが確定しました。異能戦争勝利組織は東です。東の戦闘要員は、各自門へ向かって下さい』


 全てのポイントを仙北谷仁に配布していたのか。何故基地にポイントを追加してから来なかったのだろう。


 「やりましたね」

 「そんなことより、大丈夫ですか。異能の幻覚は、実体験だと思える程現実味があります」

 「大丈夫です。初めから異能だと理解してたからですかね?痛かったは痛かったんですけど、今はなんともないです」


 今も痛いのなら問題だ。異能者が死んだのだから。


 「しばらく道具を見るとドキドキするかもですけど、それくらいです」

 「それは大丈夫なのですか」

 「多分、大丈夫ですよ。病は気からって言いますし」

 「今はいい加減な性格なのですね」


 小さく息を吐くと、にこにことした笑顔で顔を覗かれる。


 「やっぱり優しいですね」

 「やっぱり、ですか」

 「はい。冷たい言い方をすることもありますし、多分冷酷な判断をすることもあるんだと思います。でも、優しいからこそ出て来る言葉があるんですよ」


 楠英昭の母親が言ったことも、そういうことなのだろうか。今度話してみようか。なんでもない関係の私の話を、聞いてくれるだろうか。


 「ありがとうございます」


 戦闘エリアへ続く門の前で正雄さんを待ち、建物へ戻る。扉を開けると、晴臣さんが笑顔で迎えてくれる。


 「お疲れ様。大逆転だね」


 明日の昼前には迎えが来るらしい。建物を綺麗にし、支度をし、眠りについた。戦闘が始まる心配もない。深い眠りについたのは、いつ振りだろうか。

明日は短いですが、番外編を更新します。

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