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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第65話 迷子の心④

 今回嘘を吐く必要はないが、なにをどう話せば良いものか。

 初めにA1に3名いたことは、話す必要があれば話せば良いだろう。では、視界を奪われたところからか。


 「水の異能者の異能の本に触れると、突然視界を奪われます」


 机に『池の水の精』という題名の本を置く。


 「近くに人の気配はありませんでした。水の異能者である北辰巳自身や異能の本に別の異能の発動条件があった。そう考え、その異能を解くためA2に向かいます。理由ですが、元西の基地が多くあるエリアであるためです」


 勝手な行動を咎められるのは面倒だ。視界がなくては、端末の操作が出来ない。致し方のないことだ。


 「エリアを抜けてすぐ戦闘になります。戦闘の途中で視界が明けたので、すぐに戦闘を終えることが出来ました」

 「それが“離れた場所で時間軸がはっきり重なる場面”ということだね?」

 「はい。方角を間違えたのか、B1にいました。なのでB1のポイント追加可能な基地に追加後、予め決めていた通りA1にポイントを追加しました」


 B1のポイントを追加した基地。それを地図で指していく。最後に南0.1km東0.2kmの地点にあった基地。


 「ここにあった基地は無所属でしたが、ポイントの追加が出来ない仕様になっていました」

 「なるほどね。以上かな?」

 「いいえ。北辰巳と共に戦闘した仙北谷螢も異能者でした。幻覚系です」


 『天国と地獄』という題名の本を置く。


 「得意なエリアにいる異能者の他にもうひとり。しかも異能者を相手にした。そういうことかな?」

 「詳細は必要ですか」

 「是非聞かせてほしいね」


 言えと命令されれば言う他ない。


 「仙北谷螢に近付くことは簡単でした。異能で水の異能者の名を叫ばせ、北辰巳が来るのを待ち、2人共殺した。それだけです」

 「居場所を知らせるようなことをなんで」

 「辰巳さんだと分かったからですね。自分の話と、ちぐはぐな作戦。辰巳さんは南でいう『アラジンと魔法のランプ』異能者です」

 「はい。以上です」


 正雄さんは私に説教をした。自分で気付かなくてはいけないことがある。戦闘中は誰も教えてくれない。その言葉をそっくりそのまま言ってやりたい。

 面倒だから言わないが。


 「次は自分で良いですか。絢子さんの視界を奪っていた異能者を殺したのは、自分だと思うので」

 「そう。じゃあ弓弦くん、お願い」

 「まずA1にある基地を把握して分配を決めようと考え、一周しようとします」


 A1は把握出来ている基地が少ない。確実さを求めるなら、そうなる。実際私もB1は全ての基地を確認してからポイントを追加した。


 「そのときの自分から見て反時計回りなんで…まず南の方へ向かいます。戦闘を終えてポイントの確認をしながら残り時間を見たんですけど」


 ちらりと私の方を見る。全く心当たりがない。


 「残り時間は43分ありました」

 「へぇ、絢子さんの報告の殆どは20分間程の出来事だったんだね」


 仙北谷螢が戻って来なければ、苦戦していただろう。それか特攻。しかし得策でないことは明らか。実行していただろうか。


 「ふぅん、まぁ良いや。弓弦くん、続けて」

 「A3には北の基地が2つ。無所属の基地がひとつありました」


 北の基地は北0.1km以内東0.4kmと、南北中央で東から0.25kmの地点。無所属の基地は南0.4km西0.1kmの地点。


 「北の基地へのポイントの追加はB3の様子を見てからでも良いかな、と思ったんですけど偽の基地が多くて思ったより時間がかかったんです。それにB3で北の者と戦闘になれば戻る時間がないかもしれなかったんで、追加してB3に行きました」


 あの量を全て確認したのか。私には出来ない芸当だ。ここへ来た初日にA3へ行ったが、私はそんなことをしなかった。単に面倒だった。

 朝からやって日が暮れても出来そうにない。


 「A3と同じく反時計回りに一周していくことにします。B3では北の者と遭遇することはありませんでした」


 北0.4km西0.1kmと北0.3km東0.4kmの地点。2ヶ所を指す。


 「無所属と北の基地でした。以上です」

 「うん、お疲れ様。じゃあ正雄くん」

 「ん。中央付近、南西、北東、それぞれ無所属で、北東の基地はポイントが追加出来なかった」


 南0.3km東0.1kmの地点と、北の端で西0.3kmの地点。この2点が地図上で指される。


 「この2つは北の基地。B2は北の基地と無所属がひとつずつ」


 北の基地が北の端で東西ほぼ中央、東寄りの地点。無所属の基地が南0.4km東西中央の地点。


 「北の者も含め、誰にも会ってない。C1南東とC2北中央にはポイント追加してない。取れないと思ったから。終わり」

 「はい、お疲れ様。北の戦闘要員は残りひとりだね」

 「自分が戦闘したのが銀バッヂの者だったんですが、絢子さんはB1で誰と戦闘になったんですか?」

 「喜世さんです」


 正雄さんが驚いた様子で勢い良く私を見る。自分が戦闘を避けた者と視界のない状態で交戦していた。その事実は、驚くべきことなのだろう。


 「正雄さんが見た際喜世さんの様子が変に見えたのは、北政宗が心配だったからです。拠り所と自信を喪失した喜世さんは、弱々しいものでした」

 「そう…」


 それはどういった表情なのだろう。どういった感情を抱けば見せる表情なのだろう。…どうでも良いか。正雄さんには特に興味がない。


 「手に入れた基地は17つ。奪われた基地はひとつ。現在の所持ポイントは25,000」


 A2北東の基地が指される。


 「ここだよ。ここだけである理由が分からない」

 「それなら、仙北谷螢がA1へとんぼ返りしたからだと思います」

 「どういう意味かな?」


 やはり最初から説明した方が良かっただろうか。しかし必要もないことに時間を割くことは、無駄だ。


 「A1には初め3名いたと思われます。しかし戦闘要員が私しか見当たらなかったため、A2とB1に散らばった。そう考えられます。喜世さんは通信機を持っていませんでしたが、仙北谷螢は持っていました」


 小さく頷いて、なるほどね、と呟く。

 さっきそう口にした際も、私の報告で予定外であろうB1の基地を得ていたことについて納得したのだろう。

 そして今回は取られると思っていた基地が取られなかったことについて。


 「さて、次の戦闘だけど…」


 建物の扉が軽く叩かれる。


 「招待状かな。私が出て来るよ。彼女に言いたいことがあるんだ。3人とも、この部屋から出ないでね。これは命令だよ」


 貼り付けた笑顔というわけではないが、作り物の笑顔を浮かべて食堂を出て行く。余程聞かれたくないらしい。


 「正雄さんって、異能戦場で…いや、誰も殺したことないですよね」

 「だからなに。基地や基地の情報は得てる」

 「自分たちってなんでもない関係じゃないですか。だから話題がなくて。ただそれだけですよ。怒らせちゃいました?」


 ここへ来る道中の霞城さんがした様な、安い挑発だ。弓弦さんも私と同様のことを思っているとは、正雄さんは少しの信頼もないらしい。


 「安い挑発。なにがしたい」


 対応自体は変わらないが、明らかに不機嫌になっている。自分でも思うところがあるのだろうか。


 「だから、なんでもないですって。絢子さんはどう思いますか?」

 「興味がないです。正雄さんが少なくとも異能戦場へ赴いて以降誰も殺していないことなど、気付きませんでした」


 弓弦さんがくすくすと笑う。それは、明らかに馬鹿にしていた。


 「この短い間に、なんで険悪な雰囲気になっているのかな?」

 「正雄さんが聞きたそうだったので、椅子から立たないようにしただけです。あなたは今、晴臣さんの部下ですよ。命令は絶対です」

 「言われなくても分かってる」


 分かっていないと思われた。だからこうなったのだ。私も正雄さんが扉に耳を付けるのではないかと思った。


 「もう少し平和に頼むよ」

 「申し訳ございません」

 「いいや、良いんだよ。3人も優秀な部下が()()んだからね。私は恵まれている。そう思っているよ」


 3人が過去形。正雄さんが入っていないことを、ありありと伝えている。正雄さんも分かったのか、目を細めて視線を逸らした。


 「さて、やはり届いたよ。明日はゆっくり出来るね。だけど次の戦闘について話してしまおうか」


 姿勢を正し、晴臣さんを見る。


 「正雄くんはC列を数の順に行ってC3を巡回。絢子さんはA2、B1へ。C1を巡回。弓弦くんはB2、B3へ。そのまま巡回。ポイント配布はA1とA2の基地9つにそれぞれ2,000」


 北のポイントは残り少ないはず。そんなに配布する必要があるだろうか。いや…、だからひとつずつ確実に、と思っても変ではない。

 ただ、直情的な指示を出す者の方が残っている。守るより攻めた方が早いのではないだろうか。


 「正雄くんに3,300。絢子さんに1,200。弓弦くんに2,500。弓弦くんは、B2の基地を最優先に。2人は良いね?」


 200ポイントは換金か。


 「はい」

 「ん。終わり?部屋戻る」


 晴臣さんの返事を聞くと、早々に食堂を出て行く。

 直情的で嫌な人だ。しかし他組織の者に比べれば可愛いものなのだろう。要するに中途半端ということだ。


 「正雄くんはいつまでも子供だね」

 「絢子さんは一昨日の戦闘後から特に、正雄さんに厳しいですね」


 そうだろうか。…そうかもしれない。正雄さんは私に似ている。だから嫌だ。それ以外にも要素はあるが、一番はそれだ。

 初めは、だからよくしようというか、大切にしようというか、そんな様なことを思っていた。鏡を見られない私が、鏡を見ている気になったから。


 人の気持ちは鏡合わせだ。


 そう、なにかに書いてあった。それとは少し違うだろうが、己と似ている者を好いている様に見せることで、己を好いていると思いたかった。

 だが、正雄さんを好いている様に見せることは、もう限界だったのだろう。自覚はないが、恐らくそういうことだ。


 「初めから無理があっただけです」


 晴臣さんは、羨ましいね、という言葉と笑顔を残して食堂を出て行った。

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