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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第55話 掛け違えたボタン①

 『これより15分後、東と西の戦闘エリアへの門を開きます』


 この日、この音が聞こえたのは珍しく夕方だった。


 西か。昨日の戦闘での死亡者はいないはず。晴臣さんが火事場の馬鹿力と言っていたが、そうだったのだろうか。


 「ポイントの配布は、正雄くんと霞城くんと弓弦くんに1,000。A2とA3に200ずつ。3人は必ず基地を取り、絢子さんは必ず基地を守ること」


 返事をすると、戦闘エリアへ続く門へ向かう。道中で、晴臣さんに言いながら渡された痛み止めを飲んだ。


 戦闘エリアに入ると、まず東の基地の位置を確認した。そして、エリアを跨ぎながら西から東へ移動。


 西の者が来る可能性があると、晴臣さんは言っていた。確かに、位置が分かっているのだから手っ取り早い。

 しかし同時に、警戒されていることは分かるはず。戦闘要員にポイントを全て配布しているだろう。200ポイントで守れるとは思えない。

 ポイント配布の理由が分からない。


 「―――っ!」


 突然、手に痛みが走る。痛いのは嫌いだと言っているのに。

 手から先が切り落とされているが、感覚はある。確かに私は、刃物を手に持っている。幻覚系だ。


 痛み止めを飲んでいなければ、気が付かなかったかもしれない。

 薬には効き目が現れるまで時間がかかるらしい。しかし説明された時間は経っている。妙に痛い。それが変だ。


 一度目を瞑り深呼吸をして目を開く。痛みはなく、手もあった。


 効力が弱いためか、姿を現す必要はないらしい。だが、近くにいることは間違いない。どこだ。どこにいる。

 不自然に草木が揺れている部分はない。異能が効かないと思い、移動したか。エリアの堺はすぐそこ。エリアを移動したか。


 A2にはいない。するとB2に行ったのか。知らせる方法があれば良かったが、知らせなくとも問題はないだろう。

 追いかけさせてこの場を離れさせるという罠の可能性もある。安易に持ち場を離れない方が良いだろう。


 「……なにをしているのですか」


 木の根元に蹲っている西の者と目が合った。恐らく動いていないのだろう。それでは分かるはずもない。


 「貴様こそなんだ!何故手を失ってあんなに冷静なんだ!」


 泣きそうな顔で言われて、なんと答えれば良いのか。なにも言う必要はないか。完全に戦意がない様に思える。

 ヘアピンを投げると一応弾いたが、手で弾いただけだ。異能を発動出来る。


 異能『赤い靴』


 「A1から順に、所持している基地の位置を…」


 逃げる気配もない。なにかおかしい。もうひとりはスナイパーだったな。まさか、ここに2人いるのか。


 「動くな」


 であれば、この辺りにいるはずだ。人間なのだから、呼吸はする。微々たるものだが、空気の流れが異なる。


 集中しろ。


 私が背中を向けているのであれば、多少無理をしてでも撃っておかしくない。視界の範囲にいるのだろう。しかし狙うには動く必要がある。

 障害物になりそうなものは、太い木くらいなものだ。生粋のスナイパーということは、腕に自信があるはず。少し距離を取っているだろう。


 右手にある、あの木の向こうか。撃たせて場所を更に特定することも出来るが、当てられるのは不味い。

 どうする。遠距離戦が得意な者と、遠距離にいる。

 この者は囮だろう。盾にしたところで一緒に撃ち抜かれる可能性もある。嘘を吐くことが出来ない私は当然交渉は苦手だ。

 しかし、他に方法があるのだろうか。


 「丸栖和真さん。あなたのことは霞城さんから聞いています。死にたくないことは同じはずです。交渉しませんか」


 反応なしか。見当違いで、近くにいないのだろうか。


 「交渉相手ならここにいる」

 「雄剛というそうだな。お前の異能は効かない。把握している。私はいつでもお前を殺せる。交渉にならない」

 「いつでも殺せるのは間違いだ。一歩動けば和真に撃たれることを分かっている。だから動けない。俺と交渉しろ」


 この者の言う通りだ。太い木が間にはあるが、幹に隠れているわけではない。居場所が特定出来ない状態で動くのは危険だ。

 異能で動けないのだから、殺すだけなら刃物を飛ばしても良い。しかし回収する際、姿を見せなくてはいけなくなる。


 どうしたら2人とも殺せる。考えろ。遠距離戦が得意な者と、遠距離でどうわたり…いや、その必要はない。


 「いいや、お前とは交渉しない」


 ここで殺すことが出来るのは大きい。だが、それに固執するのは良くない。この2人を殺すのは、この闘戦でなくとも良い。そして、東でなくとも良い。


 「丸栖和真さん。交渉ではなく、取り引きにしませんか」

 「同じだろ」

 「難しい話ではありません。あなたが私に攻撃せずこの場を去りこの戦闘でA2に立ち入らないでくれるなら、この者には手出しをしません」


 概ね予想通りの位置から銃を構えた男が現れる。要求があるためだろう。


 「和真!」


 本当に心配していそうな顔だ。良心はあるらしい。


 「こちらには人質がいますので、検討します。怪しい行動をすれば、この者の命はないと思って下さい」

 「分かっています。A2以外のエリアでここから一番近くの、人が配置されてない基地を教えて下さい」


 距離だけで言えばA3だ。だが、取りに行かれると面倒だ。しかし嘘を言うのは公平ではない。

 A1は取っても仕方がないと思うだろう。誘導出来れば良かったが、生憎そんな話術はない。確認も兼ねて、意味深に言っておこう。


 「それだけで良いですか」

 「…加えて、ポイント配布のない基地を」


 …言ってみるものだ。


 「A1の北西です」

 「嵌められましたか」

 「勝手に勘違いをしただけです」


 これでは、それより近くに基地がないと言っている様なものだ。いや、それで良いのか。頭は働かせたくないものだ。


 「そうですね。では、取り引き成立です」


 背中を見送り、雄剛さんの隣に腰掛ける。


 「暇つぶしに、雑談をしませんか」

 「仲間のところに行ったり、基地を探したりしないのか」

 「今日はもう良いです。疲れました」

 「そうか。その方がこっちも助かるけどな」


 元々私は戦いたくて戦っていたわけではない。死にたかったから戦っていたのだ。死ぬ理由がなくなった今、戦う理由も本当はない。

 他の5隊の者も、戦いたくて戦っているわけではないだろう。


 「ここからの会話は誰にも言わない。そう約束出来るなら付き合ってやっても良い。俺も暇だからな」

 「はい。雄剛さんも、そう約束して下さい」

 「ああ、約束する」


 こうして穏やかに話せるのだから、悪い人ではないのだろう。そう思うのは、短絡的なのだろうか。


 「霞城さんの幼少期は、どんな様子でしたか」

 「この間の食事会で初めて会った。文…は食事会にいなかったから知らないか。腹違いの妹から聞いて存在を知っていただけだ」


 他に誰もいなかったのだから、私が殺したことなど知る由もないか。わざわざ言うことでもない。黙っていれば良い。


 「想像より可愛らしい見た目の少年だが、同時に少年らしくない少年だな。目付きが違う」

 「そうでしょうか」

 「君も少女らしくない。言っても分からないことだったか」


 私は少女ではない。少女らしくなくて当然だ。


 「霞城さんのことを知らないのなら、話すことがありません。暇です」

 「では俺から質問しても良いか」

 「仕方がないです。認めます」


 会話の主導権を渡したわけではない。それを主張しておく。


 「君は誰を殺した」


 あの光景が頭を過った。唐突な質問に、心の準備が出来ていなかった。


 「申し訳、ございません…」

 「責めてはいない。そういう場所だと理解している。ただ、文は霞城に会えたのか気になってな」


 もっと早く私が行っていれば。いいや、正雄さんをひとりにしなければ。小西朔は。あんな、風に…


 「おい、大丈夫か。答えなくて良いから。な?」


 善い人。でも駄目だ。私は負け知らずのはず。だから今まで、死にたいと思って戦って来たのに死ななかった。

 そうだ。殺さないと駄目なんだ。私は戦場で、なんて甘いことをしたんだろう。戦場で弱い私を知っている人は、いてはいけない。


 「―――――」

 「え?なんて言ったん…」


 気が付くと、刃物でめった刺しになった雄剛さんがいた。私が持つ刃物は血で汚れていて、私がやったことは明らかだ。


 「…約束。約束を、なかったことにしないと」


 A1へ向かったが、いない。時間はそれなりに経過している。次に行くならどこだ。B2は通れない。外回りを順に見て行くしかないか。

 B1の南西とB3の北西、B2とA3にいる可能性は極めて低いはずだ。C3へ行く前に見つけられれば良いが。


 小さな塊が向かって来る。銃弾だ。丸栖和真だ。


 「見つけた――」


 一直線に走っているはずだが、撃ってこない。おかしい。

 背後から向かって来た銃弾を刃物で弾く。仕掛けをしていたのか。今度こそと思いそこへ向かっても、誰もいない。


 「雄剛さまはどうした。やっぱりお前も、約束を守る気なんてなかったんだな」

 「いいえ。約束を破ってしまったので、約束をなかったことにしに来たのです。会話をすることなく、A2で2人とも殺したと報告出来ます」


 だから早く殺されて。


 「お前――さっきの子か?」

 「そうです」

 「いいや、違う。あの子は、そんな虚ろな目をしてなかった」


 言い切るのか。東の戦闘要員は食事会で会ったのだから知っているはず。それ程印象が違うと言いたいのだろう。


 「雄剛さんは、善い人ですね。だから、殺さなくてはいけなくなったのです。善い人だから、駄目だったのです」


 ああ―――なるほど。

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