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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第53話 不用心な噓吐き②

 「南と当たったら――」


 そう言った口が、嫌な形に歪められた。なにを言うつもりだ。


 「どうしようか」


 だから初め、曖昧な返事をしたのか。

 南の動きは予想出来ないかもしれない。だが、だからこそしっかりと対策を考える必要がある。


 「南の動きは昨日の話の通り、ちぐはぐだよ。今後の動きがどうなるか分からない。様子見と言いたいところだけど、捨て身で来られると困るよね」


 可能性は十分ある。恐らく、一番命令に忠実であるのが南だ。上の者に意見など言えない。


 「本当はB1に行きたいところだけど、恐らくスタート地点が近い。セオリー通りの動きをするなら、待ち伏せされるのは目に見えているんだ」


 セオリー…確か、定型という意味だったか。

 北の作戦を考えれば、行けと言いそうなものだ。


 「“なんとなく”なんだけどね、駄目な気がするんだ」

 「勘で振り回さない。どうしても気になるなら、北の作戦みたいに複数人で行けば良い。違う?」

 「今回ばかりは絶対に駄目」


 強く放たれたその言葉に、正雄さんも黙ってしまう。


 「ごめんね、ちゃんと説明出来なくて。でも駄目なんだよ」

 「分かった。みんなで考えたいってことで良い」

 「そうなるかな。でも正雄くんは決まっているんだ。C3だよ」


 一度南の基地の場所を確認している。更に、正雄さんに有利なエリアでもある。妥当か。


 「あ、でも霞城くんはA3が良いかな。大体の見当は付いているんだよね?」


 頷くが、少々不安そうな表情をしている様な気がする。どうしたのだろう。


 「それから2人の内ひとりはB2ね。もうひとりはどうしようか」

 「霞城さん、なにかあるのなら早めに言った方が良いのではないですか」

 「ああ…」


 妙に歯切れが悪い。本当に、どうしたのだろう。


 「北と南が手放したくない基地は、同じエリアにあるという意味になります。それは良いですか」

 「少し違うけど、聞かせてほしいな」

 「あまり手を広げたくない。そういう考えかもしれませんが、東の基地が狙われないのは特に不自然です」


 少し躊躇う様子を見せたが、小さく頷いて話し出した。


 「なので、“なにか”あるのでは。と思った次第です」

 「霞城くんは、A3が苦手なのかな?」

 「言ってしまえば、ただそれだけです」


 他の者が苦手なエリアへ行くか行かないかは置いておいて、ただそれだけで発言するのが嫌だったのだろうか。なんの意地だ?

 苦手なら苦手と言った方が良い。より適任の者がいるのであれば、その者に行かせた方が良いのだから。


 「男の子だね」

 「若いですね」

 「青い」


 晴臣さんと弓弦さんは、なにを分かり切ったことを言っているのか。

 なんと返すのかと思ったが、言葉は返されなかった。気不味そうに視線を逸らしただけだった。


 「話を進めましょう。手放したくない基地でないのであれば、なんのために守るのですか」


 晴臣さんは微笑みを見せると、小さく頷いた。


 「北も南も、そして西の建前も、東への対応は恐らく同じだよ。基地を奪いに来る戦闘要員を待ち構え、殺す」

 「基地が奪われないことから、そう考えたのですか」

 「そうだね。でもそれだけじゃない」


 薄く笑みを浮かべる。


 「私は初め、わざと基地を守ろうと言ったんだよ」

 「俺たちを試したの」

 「そうなるかな。ポイントを増やさなければ、問題を先送りにしただけになる」


 口の端が、不自然に歪んでゆく。


 「だって、ポイントを得なければその先には破滅しかないからね」


 それは私も考えたことだ。だが、方法自体はいくらでもあっただろう。もしその案が通っていれば、どうするつもりだったのか。


 「だから必ず基地を奪いに来る。自分たちは、それを待っていれば良い。ポイントが少ない内に4人殺せば、同時にポイントの全損も狙える。なんの苦労もしなくて良いんだ。楽でしょ?」


 戦うために守っていたということか。遭遇しなかった者は、どこか特定の基地を守っていたのだろう。


 「ところが、東と戦闘した組織はこれまでにない大きな損害を受ける」

 「では対応を変えよう。というのが一般的な思考だと思います」

 「どちらにしろ西と南は進むしかないよ」


 南も北も、得た基地やポイントが僅かだと思っているのだろうか。

 そうだとして、北の対応はこれまでと変わらないのか?


 「北が攻めの姿勢になったとしたら、A1は危ないんじゃないですか?」

 「そうかもしれないね。A1を攻めようとすることを考えて、他に人員配置があってもおかしくない」


 何故黙る。霞城さんも正雄さんも、気付いていて言わなかったのか。


 「来てくれるなら、探す手間が省けて良いじゃないですか」


 発言しないと思ったら、性格が変わっている。


 「絢子さん、良いね?」

 「勝ちに興味はありませんが、負けないためなら危険に身を置くことも仕方がありません」


 もっとも、勝たなければ負けることは分かっている。だが、こんな言葉しか見つからないのだ。

 何故言わなかったのだろう。


 「最後まで君がなにも言わなければ、言うつもりだったさ。自分で気付かなくてはいけないこともある」

 「戦闘中にあれこれ解説してくれる者はいない」

 「申し訳ございません」


 ぐうの音も出ない。


 「しかし弓弦さん、分かっていますか。水の異能者には銃火器が効かないかもしれないのですよ」

 「なんとかします。自分、近接戦も一応出来ますから」


 殺す以外の選択肢はなさそうだ。無鉄砲に飛び込むことは勇気とは言えないというのに。

 5-Eの隊長は、その辺りをはき違えていたな。懐かしい。


 「頼もしいね。南と戦闘になった際の動きに話を戻そうか」


 小さく微笑んだ顔を真剣なものに変える。


 「正雄くんがC3、霞城くんがA3、B2にどちらか。もうひとりをどうしようか」

 「B2は私が引き受けます」

 「もちろん理由はあるよね?」

 「はい。B1に仕掛けがあるとすれば、B1まで誘導してくる可能性があります。B2を得意としない弓弦さんでは危険です」


 視線が4つ、下の方へと向く。

 そんなことを言っていては、なにも出来ない。第一、西と北の戦闘にそんなものは考慮されていないではないか。


 「足の怪我なら手厚く手当をしていただきましたので、問題ありません」

 「それじゃあ、そうしようか。弓弦くんはどうしようね」

 「C2は放置しておいて良いんですか?」


 放置していた理由はこれまた、晴臣さんの勘だったな。

 正雄さんの異能が使えないエリアではあるが、特に危険もなさそうだ。考えは変わらないのだろうか。


 「じゃあ弓弦くんはC2に行こうか。南寄りを通ってね」

 「はい」


 勘はもう良いらしい。最初にそれを言ったのは、北との戦闘の後だったか。

 喜世さんがいたから。正雄さんが見た、喜世さんがいたから。しかしあれは、本当のことなのだろうか。


 「やっと終わったね。霞城くん、今日のお昼はなに?」

 「その前にもうひとつ良いですか」

 「どうしたのかな?」


 また余計なことではないだろうか。だが、問わずに進むことが出来るだろうか。


 あのとき晴臣さんは正雄さんの願望に気付いていた。

 北の女性がひとりであることは知っていたはず。適当に合わせることは出来ただろう。加えて、戦闘要員は来たばかりだ。


 「北との戦闘で正雄さんが見たという、女性についてです」

 「北政宗が無理を言って連れて来たと伝えたら慌てていたね。どうかしたの?」

 「どうにも、正雄さんが言っている様な人物には思えません。北政宗の髪を渡す際、少々話しをしたのです」


 晴臣さんが驚いた様な顔をする。白々しいとは、こういうことを言うのだな。


 「正雄さんに気を付ける様言われました。本当は、なにかあったのではないですか。何故晴臣さんは、正雄さんの嘘を本当にしたのですか」


 嘘を吐いたのは、自分も同じだというのに。


 「嘘だと決め付けるのは良くないよ。弓弦くんみたいに、性格が変わる人かもしれない。それに、()()嘘を吐いていないよ。正雄くんに“交戦しなくて正解”としか言っていないんだからね」


 そう聞こえる様に言っただけ。そう言いたいのか。だが、意図して言ったと言っている様なものだ。なにがしたい。


 「あの戦闘のとき、北の女性が変だったのは本当。落ち着きがなくて、俺に気付いたけど見向きもしなかった。纏ってる空気が…説明しにくいけど兎に角変で、俺は距離を取った」


 自分に気が付いたにも関わらず攻撃して来なかったため、おかしいと思った。それだけなのだろうか。

 違う気がする。確かになにか情報を持っている。そんな雰囲気だった。


 「距離を取って、そのまま離れることは出来たのですか」

 「なんでそんなに疑うの」

 「質問をしているのは私です。答えて下さい」


 晴臣さんにも違和感がある。引き下がるわけにはいかない。


 「戦闘終了の時間になった。だから距離は縮まることも離れることもなかった」


 具体的な時間は言われていなかった。少々不自然であっても、問い詰める材料にはならないな。


 「では、晴臣さんに問います。何故、喜世さんが危険人物だと聞こえる様な物言いをしたのですか」

 「正雄くんの嘘に付き合ったつもりだったんだよ」


 ちらりと正雄さんを見ると、小さくため息を吐く。


 「抱く願いが無理だと思っていても、もし叶うなら叶えてほしかったんだよ。少しも私のせいでないとは、流石に思っていないからね。でも本当だなんてね。だけど絢子さんは、今更どうしたのかな?」


 悪役を演じた。そう明かす前なら、別の言い訳があったのだろうか。それとも、本心なのだろうか。

 もう出来る質問が…


 「あの、ちょっと良いですか?」

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