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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第50話 異能の限界⑤

 「まるで担当分けでもされているかのように、戦略的な部分と特攻的な部分がある。…というのはどうだい」


 苦い笑みを返された弓弦さんだが、顔を明るくする。そして何度か頷いた。


 「それです!A3で霞城さんと交戦するのは、現れる方角でスタート地点が割れる危険があります」


 実際私は、B1でのことも合わせてだが、北寄りかつ中央より東だと考えられる。そう思った。


 「だけど、そう思わせるためって可能性もある。その辺りは」

 「それが南の動向が分からない理由なんです」


 担当分けとは、そういう意味か。

 A1に向かわせたのは『アラジンと魔法のランプ』の異能者。戦闘に関する指示をしたのが戦略パートの者。

 だから妙にちぐはぐな動きになった。

 戦闘要員の動きとポイントの配布。これが一致していないこともあったのではないだろうか。


 戦略的な者ではなく特攻的な者が残っているとなると、厄介だ。これまで以上に動きが読めない可能性が高い。

 裏目に出て自滅してくれれば、それで良い。

 しかし“なんとなく”上手くやってきたのであろうことを考えると、それは望めない気がする。


 「ふぅん」


 納得したのかしていないのか分からない。そんな微妙な返事をして、腕を組んで考え込む。


 「弓弦くんは“いい”性格をしている。霞城くんが東にいるのは1年という短い期間。だから気付けた。そういうことかな」


 本当に、東の者には分からないのだろうか。

 時に人は、なにかを守るために他の守りたいものを犠牲にしなくてはいけない。それを、ボスは分かっているだろう。


 では、晴臣さんと正雄さんはどうなのだろう。

 知っているだけで、分かっていないのではないだろうか。だから気付かない。気付けない。言われなくては分からない。


 自分のことを棚に上げていることは十二分に分かっている。だから、決して口にはしない。


 「西と北も気付いてると思う?」


 2つの首が縦に動く。


 「特に北は、南ほどではなくとも同じような状況かもしれません」

 「でも北は戦略的だよ」

 「戦略パートの者の程度と、ひとり緩和剤がいたからだと思います」


 北政宗か。しかし北政宗が死んだ後も、戦死者は出ていない。

 いや、だがそれだけだ。基地を多く奪われたかもしれない。ポイントを多く失ったかもしれない。

 可能性を挙げれば、際限がない。


 「人が減るというのも問題だね。今後の動きの参考にするよ」


 さて、といった様子で手を軽く叩く。


 「弓弦くん、未だに正雄くんを庇うのは何故かな?」


 どういう意味だ?弓弦さんは鮮やかに掌を返した様に思うが。


 「もう良いじゃないですか。責めてなにになるんですか。異能の本は出した。あったことも話した。他になにか必要なんですか」

 「責めてなどいないよ。だけど敢えて“責めている”という言葉を使うのなら、私が責めているのは弓弦くんだよ」


 …もう少し分かりやすく言ってもらえないだろうか。


 「弓弦くんが言った通り、正雄くんが秘密で持っている異能はなくなった。利益が見込めないのに、話題を逸らしたのは何故かな?こうして問われる可能性について全く考えなかったわけではないよね?」


 確かに、次されるべき質問はあった。何故『靴屋の小人』を隠したのか、だ。だが、これは明らかだ。


 大きなため息を吐くと、晴臣さんではなく正雄さんを見た。


 「その異能を使って死者となんらかの形でコンタクトを取れる。そういう見込みがあるんですか?」

 「時間を戻す。助けられればそれで良い。そうでなくとも、話すことが出来る」

 「なんだ、それだけですか」


 再度大きなため息を吐いて、大きく伸びをする。天井を見つめたまま、ぽつりと呟いた。


 「簡単です。自分にも、いるんですよ。一度短い時間で良いから、また会いたい人がいるんです。それだけです」


 異能のことを聞いても、無理だと思ってなにもしなかったのだろう。考えない様にしていたのだろう。

 だが、正雄さんが嘘を吐いたことによって、夢を見た。

 それでも“救いたい”と言わないのは、その願いが叶うことは決してなく傲慢だと分かっているからだろう。


 「今詳細を話されると、自分も出来ないかもしれないじゃないですか。だから逸らしたんです。もちろん、提供するのは実のある話。どうでした?」


 満面の笑みを浮かべている。だが、その瞳からは涙が零れている様な気がした。


 「言っていることは分かるよ。なるほどね。だから“なんとなく”は分かっても、理由が分からなかったんだね」

 「だから俺と弓弦くんに付き合って、順番に聞いたってこと」

 「そうだよ?」


 当然だ、とでも言いた気に首を傾げる。


 「羨ましいよ。私には会いたい人がいないからね」

 「晴臣さんは全て納得したのですか」

 「そうだね。弓弦くんの会いたい人について聞くつもりはないけど、言いたいなら聞くよ」


 誰が言いたいと思うのだろう。だが、それは私の押し付けだ。


 「言いません」

 「じゃあ今度こそ終わりかな」

 「いいえ、まだあります」


 疑問に思わないのだろうか。それとも、聞かなくとも答えが分かっているのだろうか。だったら教えてほしい。


 「弓弦さんは何故、持つ銃によって性格が変わると嘘を吐いたのですか。私には、場面によって性格が違う様に思えます」


 嘘を吐くにしても、もっと持っていて不自然でないものを選ぶべきだ。

 更に言えば、ルールを聞く前ならまだしも、ルールを聞いた後のことだ。いくらでも選択肢はあっただろう。


 「嘘…?」


 目の焦点が合っていない。声も心なしか震えていた気がする。


 「今すぐ話さなくてはいけないことではありません。改めましょう。まともに話せるとは思えません」


 弓弦さんの、震える肩にそっと触れる。


 それを見て私は、水面だけが茹っている様な感覚を覚えた。


 これが“気持ち”だということは、すぐに分かった。

 けれど、なんという気持ちなのだろう。一体、どんな辞書を引けば載っているのだろう。


 今すぐに、この感情を口にしなくてはいけない気がする。けれど、一体なんと言えば良いのだろう。


 「勝手をして申し訳ございません。しかし――」

 「しかし、なんだい」


 言葉の続きが見つからない。なにを言っても、変わらない気がする。けれど、なにか言わなくては。


 「なにもないなら良いかい」


 伸ばした手はなにを掴むことがなかった。体勢を崩した私を支えたのも、霞城さんではなかった。

 霞城さんは、弓弦さんを連れて部屋を出るところだった。


 「子供だね。すぐに喧嘩をするのは止めてくれないかな。来た初日の片付けがどうの、という可愛らしい喧嘩が懐かしいよ」


 霞城さんは怒っていたのか?何故?

 分からない。


 霞城さんは弓弦さんを庇ったのか?何故?

 分からない。


 霞城さんは私がもう、必要ではないのか?何故?

 いや、そもそも、私は霞城さんに必要とされていたのか?

 分からない。


 分からない。


 何故分からない?それも分からない。

 分からないのは何故だ?分からない。


 堂々巡りだ。

 なにも分からないが、ひとつだけ明確なことがある。それは、霞城さんへ手を伸ばさなくてはいけないということだ。


 「――嫌。行かないで」


 伸ばした手を掴んだのは、霞城さんだった。


 「それが君の、嘘偽りない気持ちかい」

 「…はい」


 正直、自分がなんと言ったのかは全く自信がなかった。けれど、嘘であるはずがなかった。


 「弓弦くんは大丈夫なの」

 「しっかりとした足取りで歩いて、目の焦点も合っていました。ひとりになりたい。そうはっきり言ったので、そうしました」

 「霞城くんもたまに事務的な回答をするよね」


 つまり、今の回答は事務的らしい。そして“も”と言った際に私を見たということは、私の回答は多くが事務的なのだろう。


 「君が不用心に口にしたことは間違いないさ。けれど、いつか知らなくてはいけないことだった」

 「申し訳ございません」


 優しく私の頭を撫でると、小さく微笑む。


 「弓弦さん自身は、持つ銃によって性格が変わると思っていたのでしょうか」

 「あの反応を見るに、そうだろうと思う。銃を持っていないときは、無意識の内に変えていたのかもしれない」


 だとすれば、相当余計なことを言ってしまった。なにか“そう思わなくてはいけない出来事”があったのだ。


 霞城さんはいつ気が付いたのだろうか。

 目が覚めた際、弓弦さんの安否を確認した。そのとき霞城さんは含みのある言い方をした。そのときには気付いていたのか?


 それなら、何故止めなかった。

 今が良いと判断したのだろうか。だが、内容を知っていそうではない。単に、明日余裕がありそうだからだろうか。


 そういえば、弓弦さんが元別組織の者であったことを悟ったのは、霞城さんだけだ。しかしその際指摘はしなかった。

 なにかに気付いた素振りをしただけだ。


 まさか、本当はなにも分かっていないのか?


 「本人に聞けば分かることで推理大会するつもりはない。部屋に戻る」


 立ち上がり歩き出そうとしたが、ふと出しかけた足を止める。


 「それに、俺たちがどうしても知るべきだとは思えない。弓弦くん自身で解決出来たなら、別に知らなくても良いと思う」

 「他の物が役割を果たしていたとしても?」

 「戦闘に影響が出ることなら、その事実は把握するべき。でも、理由は知らなくても良いはず」


 その理由に関する人物は恐らく亡くなっているだろう。きっと思い出したくないのだ。それを無理に聞き出す必要はない。


 「私もそう思います」


 霞城さんが優しい笑みで、私の頭をゆっくりと撫でた。

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