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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第49話 異能の限界④

 「教訓は――“優しさはときに残酷である”。でしょうか」


 3つの微笑みが私を捉えた。


 「理由を聞かせてもらえるかな?」


 閉じ込めるだけではなく、飢えない様食事と水を用意する。それでは生存本能が働いてそれらを摂取するだろう。しかし、だ。


 「話し相手もいない。太陽の光りもない。人間としての生活を送れるとは、とても思えません」


 いや、或いは弟子を人間扱いしなかったことが己に返って来ているのだろうか。どちらにしても、少年の“残虐的な優しさ”が招いたことだ。


 「君の解釈は、実に僕好みだよ」


 これは喜ぶべきなのだろうか。

 …違うだろうな。笑みが歪んでいる。


 「ところで、物語では無から有を生み出している様に思えます。題名を見れば、そう思っても仕方がないのではないですか」


 題名を知らない際は瞬間移動に見えたとしよう。聞いた部分だけではあるが、この物語から瞬間移動を連想するのは難しい様に思う。

 最初に思い浮かべ、適当な言葉が見当たらなかったため“みたいな”と言ったのだろうか。


 「そう思ってもらわなくてはいけない理由があるんだよね。だから最初に報告させたんだよ」

 「異能を沢山所持している南という組織が、異能者が5名で来ないはずはありません。奪われたにしても、あまり少ないと変です」

 「なにせ我々は、元々何色のバッヂを持つ者が何人いたか知らないんですから」


 徽章の色が上であれば異能を持っている。それは正しくないが、間違いでない可能性は高い。それは他組織でも言えることだ。


 西の異能者は2名。異能者でない者は3名。

 初戦闘時の死亡者が2名。東との戦闘で命を落とした者が5名。残りの戦闘要員は2名。どちらも異能の所持は不明。

 東との戦闘で確実に失ったポイントは3,800。


 南の異能者は3名。異能者でない者は1名。

 初戦闘時の死亡者が4名。東との戦闘で命を落とした者が2名。残りの戦闘要員は3名。1名は異能持ち。1名は恐らく所持していない。他1名は不明。

 東との戦闘で確実に失ったポイントは1,100。


 北の異能者は3名か4名。異能者でない者は1名か2名。

 初戦闘時の死亡者が0名。東との戦闘で命を落とした者が3名。残りの戦闘要員は5名。2名か3名は異能持ち。1名か2名は所持していない。他1名は不明。

 東との戦闘で確実に失ったポイントは1,600。


 B3で弓弦さんに異能を使った者が1名であれば、残りの1名が所持していない。そんな確証もない。

 今のところ、戦力が一番不透明なのは北だ。数も多い。


 「最後に報告して異能を持ってない者がいなければ、嘘を吐いたってこと?俺が遭遇したのは、異能を所持した者じゃなかったって」

 「そうだよ。本当は黙っていようと思ったんだけどね。でもみんな気付いているから、もう無理だよ」

 「なにを…?」


 晴臣さんの視線が向けられる。嫌な役を押し付けられた。


 「正雄さん、異能は超常現象ではないのです。人知を超えたことは確かに出来ますが、なんでも出来るわけではないのです。全く理に反したことは出来ません」


 分かっている。そう言いた気な表情だ。だが、分かっていない。分かっているのなら、そんな異能を探しはしない。


 「もっとはっきり言いましょう。死者を蘇らせることは出来ません」

 「俺はそんなこと…」

 「正雄くん、もう良いから。もう一冊の異能の本を出して」


 手を差し出した人物の表情は、なんと言って良いのか分からなかった。強いて言うのなら、寂し気な笑顔。

 その表情を見ても、正雄さんの態度は変わらなかった。言われた物を出す素振りもない。


 「弓弦くん。南坂友己は、戦闘終了の音が鳴る前に弓弦くんの目の前から姿を消しているね」


 晴臣さんの目をしっかりと見て、大きく頷く。


 「まるで瞬間移動でもしたかのように、忽然と消えました。動けるのなら、自分を殺すべきです」

 「そうだね。つまり状況が分かる者が使った異能ではないんだよ。南坂友己自身の異能ではない。そういうことにならないかな?」

 「だから瞬間移動“みたいな”異能で飛んだ。そうだとして、なんでその異能の本を持ってることを隠すの」


 そもそも、何故弓弦さんは正雄さんを庇う様な嘘を吐いたのか。


 「分からないよ。私には、蘇らせたいと思う者がいないからね」


 弓弦さんにはいるのか。そのため、正雄さんに協力しようとした。

 それなら筋が通るかもしれない。しかし何故、突然掌を返したのか。何故、正雄さんを責める様なことをしているのか。


 「弓弦くんから理由を聞こうか」

 「異能戦争から戻ったら、勝っても負けても目立つじゃないですか。死んでいれば別ですけど」


 冷めた人だ。流石、東に来た理由が“飽きたから”というわけか。


 「東の人って本当に嘘が嫌いなんですよね。なんで自分から嘘を吐くのは嫌。でもこの状況なら、“正雄さんの気持ちを汲んだ”という言い訳が出来ます。なので、利用させてもらおうと思ったんです」


 異能の本を手に入れてなにかするつもりだったのか?目的があるにしては、あっさり白状するな。


 「東泊ではあるけど総代の子供。そして金バッヂ持ち。そんな人を脅せるんですよ。良いと思いません?」


 己の目的のために組織にとって不利益なことをする。そんな者が殺傷能力高めの異能を持っている。殺されるのが目に見えているが。


 「もちろん、使うのは一度きり。自分ももう東の人間なので、約束は守りますよ。正雄さんは、それなら殺さないでしょう」

 「余程のことがない限りは、そうだと思う」

 「自分の報告では時間を操る異能の詳細を特定することは出来ません。なので、問題ないと思います」


 清々しい程、己の正義だけを貫いているな。妙に良い笑顔を浮かべているのが、気味が悪い。


 「組織に対して全くの反逆となることはしない。その中で己の利益を最大化しよう。そういうことだね」

 「はい。平和に過ごすことが出来れば良いと思ってたんです。けどここに来たら良い意味でも悪い意味でも、もう望めませんから」


 ふと、寂しそうな笑みを浮かべる。


 「もう英雄には、なりたくないんです」

 「ふぅん、なるほどね。はい、じゃあ正雄くん。まさか逃げられるなんて思っていないよね?」


 圧のある笑みに俯く。

 しばらくそのまま動かなかったが、やがてゆっくりとした動きで一冊の本が出された。『靴屋の小人』という題名だ。


 「これが時間を操る異能?」


 なんと表現すれば良いのだろう。素っ頓狂、だろうか。そんな声で言われた。


 「晴臣さんが知っているのは、第1部だけじゃないですか?第3部まであるんです。内容は覚えていませんけど」

 「2人は知っているかな」


 答えは私と同じだった。もっとも、私は問われていないが。


 「一度退避して、また仕掛けてきた。その間に異能で移動させたんだと思う」


 何故退避したかも分からないのに、“なにか”を探し回ったのか?通るだけで見つけられる場所にいるとは思えない。


 「瞬間移動って言ったけど、引き寄せてるみたいだった。多分、無から有を生み出してるわけじゃない。だから自分が移動させられて人間も出来るんだって分かっても、本当は分かってた」


 本当にそんな異能を探していたのか。あるはずもない、そんな物のためにこんなところまで来たのか。


 「隠れていたであろう南坂友己を見つけたのは何故かな?」

 「退避したのは、急に移動させなければならないものが出来たから。2人はB3に行ったことがあるから分かると思う」


 弓弦さん、私、それぞれと視線を合わせる。

 もちろん正雄さんの言いたいことは分かる。だが、そんな不用心な。


 「反響して話し声が聞こえたとでも言うんですか」

 「そう。すごく短いやり取りで、小さい声だったけど。大怪我をして逃げて来たと予想出来る。そんな相手を見過ごす理由はない」


 罠かもしれない。というより、罠を疑うべきだ。独り芝居かもしれない。相手がいたとしても、怪我をしていないかもしれない。


 「焦ってた。多分、心配してた。だから隙が生まれて、殺せた」


 心配…?南の者が他者を?全く想像出来ない。余程仲良くしていたのだろうか。


 「なるほどね。危険を冒してでも探す方が良いと思ったのだね」

 「ん。厄介な異能なら、余計そうして良かった」


 ちらりと私を見るが、目が合うと逸らされてしまう。


 「絢子さんに絡もうとしてた人を止めてた。多分、あの人も例外なんだと思う」

 「なるほど。南の動きがよく分からなかったのは、2人が同じくらいの力を持っていたせいかもしれないね」


 南で言うところの“普通”の考えをしている者と“例外”の者。なるほど。

 指揮を取る者が2人だったのが、1人になった。これからは読みやすくなるということだな。


 「ところで絢子さん、『フィッチャーの鳥』の異能者は女性でしたか?」

 「いいえ。何故ですか」

 「単に今残ってるのって、銀バッチの女性と銅バッチの男性かなって思っただけです。なんか不穏じゃないですか?」


 頷いたのは、霞城さんだけだった。

 どういう意味だろうか。晴臣さんと正雄さんも、意図を測りかねている様子だ。


 「行動に歯止めが利かなくなる可能性が考えられます」

 「どういうこと?戦闘要員が減ったからこそ、慎重になるべきだよね」

 「そうなんですけど…」


 感覚的なもので上手く説明出来ないのだろう。しかし晴臣さんの様に“なんとなく”ではなく、説明をしなくてはいけない。

 視線で霞城さんに助けを求めた。


 「まるで担当分けでもされているかのように、戦略的な部分と特攻的な部分がある。…というのはどうだい」


 霞城さんも自信がないのだろう。苦い笑みで弓弦さんに返す。


 「それです!」

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