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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第48話 異能の限界③

 「――もうひとつ、隠していたことがあるんです」


 肩を震わせた弓弦さんの告白。それは、私からすれば全く予想外だった。


 「どんなことかな」

 「霞城さんは、自分が霞城さんを預けた孤児院の責任者を覚えていますか」

 「覚えているさ。彼女が内通者ということが、なにか関係あるのかい」


 流石の晴臣さんも驚くかと思ったが、晴臣さんは状況を知らない。説明すると、微笑んだ。


 「そんなことがあったんだね。じゃあ霞城くんは、弓弦くんが東の者ではないこともなんとなく気付いていたんじゃないかな」

 「全く考えないことはありませんでした。しかし、まさか本当にそうだとは思いませんでした」


 無理もない。西の常識でいえば、殺されて当然の対応らしい。恐らく南も北もそうなのだろう。

 孤児院の責任者の方が内通者だと気付いた理由は、口裏合わせを依頼した際の察しの良さといったところだろうか。


 「自分は不確定でも、彼女は確定だったんですよね。なんで言わなかったんですか?もし知られたら、自身の命だって危険です」

 「あんな辺鄙な場所にいては、双方ろくな情報など入らないと思わないかい」


 ぐうの音も出ないとはこのことか。

 いつ異動になるか分からないが、いきなり本部に異動になることはないだろう。あって農園組織の少し中に入ったところだ。


 「それに、真摯に対応してくれた者を売ることなどしない」

 「言っていることは分かったよ。それで、弓弦くんは何故その者が内通者だと気付いたのかな」

 「霞城さんを車から降ろした際の雰囲気です」


 なんとなくに根拠はない、というわけか。


 「霞城さんがただの迷子でないことは、分かっていました」

 「だから僕の話をろくに聞こうとしなかったのかい」

 「巻き込まれたくなかったんで。それは彼女も同じだったと思います」


 苦い笑みを浮かべ、俯く。悪いことをしたと思っているのだろうか。


 「けど、彼女は霞城さんが役目を果たせるように協力しました。だから家族が参加しているのなら、無事であることを伝える約束をしました」


 何故そうなるのかは分からない。だが、それは私だけの様子だ。種類は違えど、微笑みは3つある。

 呆れた様な微笑み。困った様な微笑み。これは明るいものだ。

 もうひとつの微笑みは、怒っている様に思えた。穏やかに、怒っていた。


 「C1で初め南に奪われた南西の基地は既に南の基地ではありませんでした。他の基地を探して移動していると、ひとりの男が蹲ってなにかをしていました」


 初めに東の基地を奪った組織でその基地をまだ持っているのは、1つ。確認したのは5つ。基地の奪い合いは、激しいのだろうか。


 「これは食事会のときから思ってたんですけど、多分彼女の弟だろうなって」

 「だから殺さなかったのかい」

 「いいえ。名前を聞いていたので確認して、西の外れにある孤児院の責任者として存命であることを伝えました」


 気付かれていないのなら、影から撃って殺した方が良い。そうでなくとも、“話をしようとする”ことには危険がある。

 何故自分を縛る約束を、わざわざしに行ったのだろう。分からない。


 「勘違いしないでいただきたいんですが、自分は()()()借りを返すだけです」


 霞城さんにだけ言っているわけではないだろうが、視線は霞城さんに向けられている。それは、とても冷めたものだった。


 「動けないよう両足を撃ちました。殺さない約束はしていませんし、見捨てられても自分の与り知るところではありません」

 「そうかい。悪かった」

 「話を終えたので殺そうと銃を構えると、沢山あったはずの時間がなくなっていました。戦闘終了の音が響いたんです」


 遅くも早くも出来るということか。厄介だな。もしくは、指定した時間に飛ばしているのかもしれない。

 いや、それでは私が移動出来ていなかったことの説明が出来ないか。


 「南坂友己が蹲っていた場所にはなにもありませんでした。安易かもしれませんが、発動条件は“自分が触れたことがあるもの”や“それに触れているもの”ではないでしょうか」


 地面なら攻撃を躱させて誘導することも可能だ。

 だが、それでは疑問が残る。時間の速度を遅くして殺さなかった理由だ。


 考えられるのは2つか。

 それぞれ異なる条件で、遅くする方の条件を満たしていなかった。

 弓弦さんの時間を遅くしたとしても自分が動けない。そのため意味がないと考え、殺されないために早くした。


 いや、結果は同じでも可能性はもうひとつある。

 時間を遅くすることしか出来ず、周囲の時間を遅くした。その結果弓弦さんの時間が早くなった様になっている。

 どちらも出来ることと、遅くすることしか出来ないのでは違ってくる。


 「質問なんだけど、戦闘終了の音は過去と違う聞こえ方をしたかな」

 「いいえ、違いは認識出来ませんでした」

 「では、迎えはどうですか。戦闘終了の音が聞こえてから妙に時間が空いていませんでしたか」


 なにかに気付いた様子だ。驚いた様な顔をしている。


 「…空いているように感じましたが、自信はありません」


 急に時間が進んだように感じれば、混乱もするだろう。時間の感覚がおかしくなっていることはすぐに分かることだ。

 音が鳴った瞬間、端末は使えなくなる。時間を確認する術はない。


 「音を聞いて以降、端末は確認していません。南坂友己はずっと視界にいましたが、そのような素振りはありませんでした」

 「距離はどれくらいだったんだい」

 「5mほどです」


 人の声が届くのは5mが限界だとなにかで読んだ。しかし危険な距離だな。5mであれば私でも狙い通り撃てるだろう。

 ただ、もし弓弦さんだけの時間の流れが変わっているのであれば疑問もある。


 「弓弦くんの時間の流れだけが早くされた。そういう仮定で聞いてくれるかな」


 4つの首が縦に動く。


 「そうすると、南坂友己は弓弦くんが戦闘終了の時間になっても戦闘終了の時間になっていなかったことになるよね」


 そう、それがおかしいのだ。

 いくら足を撃たれたからといって、全く動けないわけではない。反撃出来ない弓弦さんの視界に、何故ずっといたのか。


 「南坂友己は異能を手に入れたばかりだという仮説がある」

 「使い慣れていないため偶然助かった。そう言いたいんですか」

 「お姉さんについて教えてくれた今回だけは殺さない。そう決めたっていうなら別だけどね」


 南の者であれば容赦はしないだろう。そう無条件には思えない。北にも西にも、変わり者はいる。

 どちらも有り得るだろう。


 「そんな者なら良いんですが。どちらにしても考えはここで打ち止めです。他に南の者とは遭遇していません」


 他の場合は検討しなくても良いのだろうか。


 「A2の北に奪われた基地は、現在南の基地でした。A2は正雄さんの異能、接近戦にも長距離戦にも不向きです。なので、ポイントは追加しませんでした。報告は以上です」


 一度大きく頷くと、居直った。


 「奪われた基地はなし。得た基地は1つ。現在のポイントは3,600」


 B1には2名の異能者が配置されていた。守ることを前提として、基地や守る者にポイントは配布されていなかったのだろう。

 三度の戦闘で500が3,600になった。他組織もこの調子で増やしているのなら、ポイントの全損は狙えないのでは?


 「しばらく西の戦闘が少ない。東が2日前なのは分かっているね。南は5日前に戦闘しているんだよ。だから明日は北と西だよ」

 「そんな読めることはしないと思う」

 「どうかな。絢子さんの予想も当たったよね」

 「あれは、絢子さんじゃないと分からなかった」


 特殊能力の様に言われてもな。

 出来ることと出来ないことがある。その出来ることが発揮しやすい環境と発揮しにくい環境がある。それは誰でも同じだと思うが。


 「違うよ。色々な条件が重なった結果。それが今、私に当てはまる。それだけのことなんだよ」


 妙に自信気に言われた言葉に、ため息を吐く。


 「分かった。そういう仮定で進める。それで?」

 「だから少しゆっくり考えたい」

 「今回みたいなことになったらどうするの」


 確かに正雄さんを全面的に信用するわけにはいかない。しかし東にとって全く不利なことをするとは思えない。

 望む異能を手に入れたとして、自分が使えなければ意味がないからだ。


 「明日の昼までにまとめておくよ」

 「分かった」


 ため息と共に、再びその言葉が放たれた。


 「じゃあ解散。そう言いたいところだけど、正雄くんのことが解決していないから駄目だね」

 「最後まで聞いたみたいだけど分からない」

 「本当に分かると思っていたんだね」


 嫌な笑みだ。だが、言葉自体には賛成だ。

 晴臣さんは報告の内容を全く知らない。それが、報告について順を追えば分かると言うのは変だ。


 「どういう意味」

 「正雄くんは異能『アラジンと魔法のランプ』を瞬間移動“みたいな”異能だと言ったよね」

 「それがなに」


 自分の質問が無視された上に、先の見えない話しをされている。少しもイラつきを見せないという方が無理なのだろう。


 「絢子さんは物語を知らないだろうから軽く説明しよう」


 要約するとこうなる。

 なんでも願いを叶えてくれる魔神が出て来る。そんな魔法のランプを手に入れた少年が魔神に頼り切って欲しいものを手に入れる。

 それが面白くないかつての師匠はランプを奪うが、やり返されてしまう。

 やり返しの内容は、その者をかつて自分が閉じ込められた洞窟に閉じ込める、というもの。

 少年は幸せに暮らしました。めでたしめでたし。


 「教訓は――“優しさはときに残酷である”。でしょうか」


 3つの微笑みが私を捉えた。

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