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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第47話 異能の限界②

 目を開けると、天井があった。布団に寝かされているらしい。


 「分かるかい」


 やはり泣き出しそうな顔をしている霞城さんに、ぼんやりと返事をする。


 「痛みはどうだい」

 「大丈夫です」


 これくらいで音を上げてはいられない。それより


 「弓弦さんは大丈夫ですか」

 「怪我はない」


 含みのある言い方だな。もう片方の異能者と鉢合わてしまい、なにかあったのだろうか。


 「今は何時ですか」

 「まだ13時だ。明日の心配はしなくても良い」


 駄目だ。日付が変わるまでは約11時間。

 それまでに現状を整理し、次の作戦を理解しなくてはいけない。そしてなにより、まともに動ける様にならなくては。


 「そういうわけにはいきません」

 「駄目だ。傷を負ったあと、無理に激しく動いたんだろう?今無理に動かせば、どうなるか分からない」

 「なんにしても、次の戦闘で動かないわけにはいきません」


 なにか言おうとした霞城さんの声が、扉が軽く叩かれる音に遮られる。


 「目が覚めたんだね。良かった」

 「痛み止めをもらって来ました。飲んで下さい」


 …確かに、外傷はない。だが、表情が少々浮かないか。


 「必要ありません。これくらい平気です。無駄遣いをしないで下さい」


 ため息と吐くと、怪我をした足に触れる。


 「っ!」

 「私は軽く触れただけだよ。強がっていないで、薬を飲んで」


 それでも差し出された薬へは、手を伸ばさない。意地を張っている様にしか見えないであろう私へ小さく微笑む。


 「あのね、飲まなくても返品は出来ないんだよ。それなら飲んだ方が良いと思わないかな?」

 「…戦闘の際にいただきます」


 再びため息を吐くと、布団の脇に腰掛けた。


 「なにを焦っているのかな」


 焦る?誰が?私がか?


 「恭一が関係しているのかな」


 何故ボスがでてくるのか。


 「どういうわけか、私は勘が当たるんだ。それだけだよ」


 いつだったか。いや、いつもか。同じだ。私が抱く疑問など分かっている。そう言うかの様に、笑って言う。


 「勘に根拠はない。過去の戦闘での指示だって、大した理由なんてなかった。そう思わないかな?」

 「それは…命令ですので」


 だが、正雄さんの案にも大した理由などない。そう思うのは私だけだろうか。


 「そうだね。じゃあ、戦闘の報告を聞かせてもらおうかな」

 「今目覚めたばかりです。もうすこ…」

 「私は霞城くんのように甘やかすつもりはないよ」


 鋭い声で霞城さんの言葉を遮ったかと思うと、微笑んだ。


 「今日は話すことが沢山あるだろうからね」


 霞城さんが弓弦さんに視線を向ける。弓弦さんは、小さく首を振った。


 「西によって戦闘が仕組まれているとすれば、日付が変わってすぐに再び戦闘になることも考えられます」


 なにか続く言葉がありそうだったが、口を閉じてしまう。


 「しかし、それでもじか…」

 「霞城さん、私は大丈夫です。弓弦さんが言う様に、同じ手を使ってくる可能性が全くないとは言えません」


 それにもう目が冴えた。黙って眠っていられる性分ではない。


 「正雄くんを呼んで来てくれる?」

 「はい」


 ここでやるのか?私だけ布団に入って足を伸ばすなど…!


 「部屋を移しましょう」

 「そんなことは気にしない。そう思わないかい」


 栞さんについて本部で話した際とは、状況が随分違うのだが。


 「絢子さん!」


 部屋に駆け込んで来た正雄さんと目が合う。安堵した様子でため息を吐いた。


 「怪我の具合は?大丈夫?」

 「はい。大きな怪我をすると発熱があるとなにかで読みましたが、そういった二次的なものもありません」


 苦い笑みを浮かべると、用意されていた椅子に座る。


 「通常運転で安心した。一体なにがあったの」


 話し出そうとする私を手で制止する。


 「報告は正雄くんからしてもらうよ」

 「俺?なんで」


 疑わしいことは続くものだ。しかしこの場合、単に私が話すのを遮ってまで正雄さんに振ったからだろう。


 「それは話す内に分かるよ。時間は有限だからね、早くしてくれないかな」


 晴臣さんは正雄さんが嘘を吐く可能性を考えているのだろう。だが、霞城さんや弓弦さん、私が嘘を吐かないとは限らない。


 打ち合わせが出来ているかは分からないが、自分に都合の良いところだけ適当に合わせるくらい出来るのだろう。

 これまでにもそういう危険はあった。何故今になって警戒し出したのか。


 「分かった。B3のこの辺りで」


 南から0.4km、東から0.2km。その地点が地図上で指される。


 「南の者と出くわした。瞬間移動みたいな異能を持ってた」


 出された本の表紙には『アラジンと魔法のランプ』と書かれている。


 「C3では誰もいなかったし、来なかった。ここに」


 若干不服そうにしながら地図を指す。南の端、東から0.7km程の場所だ。


 「南の基地があった」

 「この基地は捨てられているか。近くに基地がないためポイントを多く配布しているか。そんなところかな」

 「ん。終わり。俺が最初に報告する理由、あった?」


 霞城さんと弓弦さんが小さく笑う。目を細くした正雄さんに、また笑った。どんな言動をしても可笑しいのかもしれない。


 「話す内に分かる。そう晴臣さんは言ったはずです。落ち着いて全て聞くべきだと思います」

 「絢子さんの言う通りだよ。じゃあ次は霞城くん」

 「はい。最初所有組織のなかった基地はこの辺りにあると予想出来ます」


 A1の北西辺りを指でなぞる。


 「南に行けば行く程、A2にある東の基地を狙う余裕がなくなるはずです」

 「そうだね」

 「場所が大よそ合っていたのでしょうか。東から銃で狙われます」


 少なくとも、南の出入口はA3付近ではない。B1で私を待てていたのだから、北寄りかつ中央より東だと考えられるだろう。


 「姿や血痕を確認することは出来ませんでしたので、大した怪我もなく生き残っていると思います。以上です」


 場所を特定されない様動きながら、姿を見せない。そんなことが出来るのだな。

 霞城さんは私と違い、銃の扱いにも慣れていると聞いた。相手が半端な者でないことは確かなのだろう。


 「そっか。はい、じゃあ絢子さん」

 「はい。この辺りでB1に入ります」


 南から0.2kmの辺りを指す。すぐにエリアを移ることも出来たが、少しA1を見ておきたいと思ったのだ。


 「景色の変化がないことを妙に感じていると、虎鋏を踏んでいました」


 足に注目が集まる。理由が分かると痛みがより想像出来て痛いらしい。しかし虎鋏など踏まないだろう。


 「南の者が現れたので、虎鋏を外させ近くの基地まで案内させました」

 「この異能を所持していた者かな」


 表紙に『フィッチャーの鳥』と書かれた本が置かれる。


 「そうです。死体の一部を使用した人形を動かしていました。使用している量が多いほど精密な動きをするものと思われます」

 「嫌な異能だね」


 死体を“使う”ためにそう思うのだろう。だが、なんとも思わない者の死体など心底どうでも良い。


 「…ところで、虎鋏を踏んだのは不注意でないような言い方だったね」

 「はい。エリアの行き止まりでも、景色は続いて見えます。しかし、壁があることに間違いはありません」


 理屈は分からないが、見えない壁をすり抜けてエリアを越えているのだ。異能なのだろう。


 「空気の流れがすぐ近くで止まっていました」


 移動させられたのであれば、気付くはず。幻覚系であれば、エリアとの堺から離れているはず。つまり私は、移動出来ていなかった。


 事実に近い考察を述べる。

 晴臣さんは首を小さく振って唸り、正雄さんはあらぬ方を見てため息を吐き、弓弦さんは俯いた。霞城さんだけが私を見た。


 「時間を操る異能か。厄介だ」

 「はい。ゆっくりと動く私の目の前で、悠々と虎鋏を仕掛けたのでしょう」


 私自身が殺した異能者に言ったが、殺すことなど簡単だ。何故そうしなかったのか聞かれるだろうか。


 「基地の位置でも聞かれたのかな」


 そうか、私もそうしようと思ったのだった。


 「答えていませんので、通信機器を有している様子でしたが問題ありません。時間を操る異能を持つ者は、友己という様です」


 弓弦さんが僅かに肩を揺らした。南は北ととも交流があったのだろうか。


 「一番近くの基地、というのは余程遠かったのかな」


 霞城さんも言っていた。傷の具合を見れば、激しく動いたことが分かるのか。


 「いいえ。B1に多く基地を有しているのでは、という話しがあったので欲張った結果手こずりました。申し訳ございません」

 「なるほどね」

 「一番近い基地は、初め北に取られた南西の基地です。それ以外は不明です」


 今回の戦果は、これまでに増して芳しくない。


 金の徽章の者が異能を所持していないとは思わないのだろう。戦闘要員の中で上座から2番目に座るだけではなく、戦闘要員自体も少ない。

 姿を見せなければ良いという結論に至るのは簡単だ。


 私とあの者の戦闘をどこまで見られていたかは分からない。

 もし異能を使用したところを見られていれば、詳細は分からなくとも操作系の異能であることは知られている。


 「強力な異能だよね。殺すことだって簡単だよ。そう思わないかな?何故今まで使わなかったんだろうね」


 その笑みは、試しているかの様な笑みだった。だが、そこまで言われて分からない程頭は悪くないつもりだ。


 「『長靴をはいた猫』…ですね」

 「そう考えるのが妥当だろうね。以上かな」

 「はい」

 「じゃあ弓弦くん、報告を」


 何故かまた肩を震わせた。皆戦果は芳しくない。なにを怯えているのだろう。


 「――もうひとつ、隠していたことがあるんです」

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