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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第46話 異能の限界①

 戦闘が始まり、私はA1を経由してB1へ向かっていた。


 B1へ向かうためにB2を通らないのは、南の者と出来る限りかち合わない様にするためだ。

 戦闘エリアの中心であるB2は、どうしても通らなくてはならない場合がある。それが理由らしい。


 どこまでが晴臣さんの言ったことだか。


 あの様子の喜世さんが嘘を吐いていたとは思えない。だが正雄さんを懐疑的に思うのは、それが理由ではない。

 思えば、違和感は初めからあった。


 …考えるのは後にしよう。


 今確かなことは2つ。

 報告の際齟齬がない様、ある程度は晴臣さんの言う通りされたであろう指示。配布されたポイント。


 霞城さんはA1へ。正雄さんはB2、B3を経由してC3へ。弓弦さんはB2、C2を経由してC1へ。其々向かった。

 配布されたポイントは、霞城さんが800、弓弦さんが1,000、私が1,000、正雄さんと基地には0。


 ――私は亡霊とダンスをする趣味はないからね。


 やはり正雄さんは“それ”の出来る異能を探しているのだろうか。

 無理だ。異能は超常現象ではない。人知を超えたことは確かに出来るが、なんでも出来るわけではない。

 全く理に反したことは出来ない。


 「…雨」


 B2に入ると、雨が降っていた。地形を把握出来ていればもっと良かったが、贅沢も言っていられない。

 明らかに不自然な弾き方をする箇所があれば早く敵を見つけられる。それだけでも良しとした方が良い。


 それにしても、景色が変わらないな。それなりの速さで歩いているはずだ。


 「――――っ!」


 足に鋭い痛みが走り、蹴躓く。目をやると、虎鋏を踏んでいた。

 こんな単純な罠…。しかも足元にも気を配っていたはず。それよりも、この場を離れなくては。だが、外し方なんて知らない。


 「やった、若い女の子だ」


 いつの間に…。


 「あれ?全然驚いてないね。おかしいなぁ。まぁ良いや」


 顎を持ち上げられる。


 「俺が聞いたことに素直に答えたら外してあげるよ。その後は“相手”してね。その足じゃ抵抗出来ないでしょ」

 「相手…?」

 「そんなことも分かんないの?処女だ、処女だね。やった」


 なるほど。この者は頭のネジが外れているらしい。それで食事会の際、小突かれていたのかもしれないな。


 「名前を教えていただけませんか」


 普段なら先に名乗るのが礼儀だと言うところだ。しかし、この者に礼儀など必要あるまい。


 「なんで?」

 「人生最後の“相手”ですから」


 にやりと気持ちの悪い笑みを浮かべると、舌なめずりをした。


 「南瑞人(みなみみずと)だよ」


 南か。不幸中の幸いというやつだな。


 「では、聞いたことがありませんか?東の外れにある建物に、幽閉されていた少年少女について」


 何度か大きく頷くと、刃物を持った。


 「少し幼く見えるけど、まぁ大体こんな年の頃だったね。生きてたんだ。折角拾った命なのに、こんなところ来ちゃったんだ」

 「なにもせず殺す気になってもらえた様子です。痛いので、早く殺して下さい」

 「俺に指図するな」


 劣等感の塊で処女厨か。いや、劣等感から処女厨になったのかもしれないな。南がこの性格に育てたのだ。

 同情してやる気はないがな。


 「そうですね。普段はどちらかと言えば、指図される立場でしょう。()()()()4番目に座っているのですから」

 「コイツ――!」


 異能『赤い靴』


 「動くな」


 刃物を振り下ろす腕が止まる。持っていた刃物が、柄の短いもので助かった。


 「なにをした!」

 「そんなことも分からないのですか」


 髪留めを投げ、再び異能を発動させる。


 「この罠を外し、その場から動くな」


 手際は良いのだろう。容易く外された。問題は、周囲にいる小さななにかだ。

 思考まで制限することは出来ない。これらを使って攻撃して来ることは目に見えている。


 「良いね、痛みに耐えながら必死にもがくその姿。とっても良いよ」


 口も防げないものか。


 小さな人形だが、数が多い。動きに統率もある。予想はしていたが、異能者に近付けさせない様にしている。


 こんなことなら、指示を自害にしておけば良かった。

 待ち構えていたのだから、近くに基地があるはず。それを聞き出そうと思ったのが間違いだった。


 「え?ダメだよ。俺の獲物なんだから」


 独り言?いや、通信機器だ。


 「ビビり過ぎなんだよ。この子、確かに強いよ。でも異能は大したことない。だから大丈夫」


 声の位置が高くなった。もう動けるのか。人形と痛みのせいで集中力が乱れているせいだろうか。


 「あはは、そっちも始まったね。相手は男だろうけど、楽しんでね」

 「他者を気遣う余裕があるのですね」

 「そういうお前は、喋る余裕があるんだね」


 嫌な笑みだ。

 余裕などない。大した怪我などしたことがなかった。故に私は知らなかったのだ。痛い。


 「ですので、お仲間に頼んではいかがですか。もう一度協力してほしい、と」

 「勝手に踏んだだけなのに、異能のせいにするの?」


 虎鋏については分からないが、そうなった理由が異能でないはずがない。私は確かに進んでいた。

 では何故、空気の流れがすぐに止まっているのか。


 移動させられたのであれば、気付くはずだ。

 幻覚系であれば、エリアとの堺から離れているはずだ。


 つまり私は、移動出来ていなかったのだ。


 「はい。頼れば私を殺すことなど、簡単なはずです。何故そうしないのですか」

 「そうだね。もう理由がなくなったから、そうするよ」


 どういう意味だ。

 一番簡単な理由は、私を殺さない様に指示されていた。…だが、意味がない。


 なんにせよ、上座2人の内戦略パートの者でない者が死んだのだろう。


 「友己」


 どんな異能だ…?


 「えぇー?」


 移動しているのか。C1には弓弦さんが行っている。そちらへ行かれては不味い。怪我人が増える。


 「俺だけで相手しろってさ」

 「正直者ですね」

 「フリかもよ?どっちが本当だと思う?どう思う?」


 知るか。

 それにしても余程異能の鍛錬をしているのか、人形の動きが鈍ることはない。異能者には距離を取られた。不味い。


 このまま人形を切っているだけでは埒が明かない。切っても切っても動いているのは何故だ。

 原型を留めていない人形もある。操作の条件はなんだ。


 仕方がない。慣れていないが、銃を…なるほど。

 小さい人形が沢山。切り付けた人形が動く。それらに気を取られていて、気付かなかった。

 動いていない人形がある。突然動かなくなったのか、その辺りに転がっている。目立った傷がないものも。


 人形が継ぎ接ぎなのは、操る条件の目くらましだ。条件の部分を取ってしまえば、人形は動かなくなるはず。

 物は試し。こちらに寄って来ない人形を撃つか。


 「ノーコンだね」


 大方外した、という意味だろう。自分に当たらなかったからと言って、狙いのものに当たっていないとは限らない。


 「いいえ。狙い通りです」


 異能者を近くで守っている人形を撃てた。

 中身は綿ではない。臓器だ。突然動かなくなるのは、新鮮なものではないといけないからだろう。


 「…あーあ、バレちゃった。お前もこうして再利用してあげるから大丈夫だよ」


 誰が喜ぶと思うのだろう。しかし指摘してやる必要はない。

 狙うべき箇所が分からなくとも、狙うべき場所が分かった。これは大きい。


 早く止血をしなければ。視界が眩み始めた。出血し過ぎているのだろう。


 出血か…。私は動き回っている。辺りには私の血が沢山ある。なんとかそこにおびき寄せることは出来ないだろうか。

 手段を選んでいる時間はない。


 「もう疲れました。降参です。しかし人形に殺されるというのも癪です」


 座り込んで自分の銃を投げる。


 「近くに来ることを警戒するのは当然です。その銃で殺してもらえませんか」

 「そう。頑張ったのに、残念だね」


 にやりと笑うと、銃を拾い上げる。


 異能『赤い靴』


 「このエリアにある一番近い基地の1m前まで案内しろ。目的地に着くまで、異能を使用するな」

 「クソッ…!」


 抵抗虚しく、身体は動く。


 銃を所持していなくて助かった。所持していればそれで撃てば良い。わざわざ私の血が付着した銃を手に取る必要はなかった。

 もっと言えば、無視して人形で殺すことも出来た。賭けだったが、戦闘は特に結果が全てだ。


 基地が確認出来た段階で殺し、異能の本を抜き取る。


 戦闘要員が動いたということは、ポイントを多く配布している可能性がある。

 この傷と残り時間では他の基地を見つけることは難しい。確実に基地を取るため、1,000ポイント追加するか。


 残り時間は身を隠していよう。

 しかし随分と寒いな。暖を取るものなどあるはずもない。動けば身体が温まると聞く。残り5分、動くべきだろうか。




                  ***




 「――の御仁。東の御仁」


 目を開けると、過去2回私を運んでくれた者がいた。…目を開ける?


 「良かった」


 笑った顔を初めて見た。


 「本日の戦闘は終了いたしました。規則のため手当は出来ませんが、感覚を奪いますので一時的に痛みはなくなります」

 「はい。お願いします」


 手を借りて車椅子に乗ると、感覚がなくなる。

 感覚が戻った際、痛みが戻るのかと思うと嫌な想像をしてしまう。


 しばらくすると、耳元でなにかが聞こえた。他の感覚は戻っていない。着いたのか?どうなっている?


 「―――っ」


 他の感覚が戻る感覚と共に、足の痛みが襲った。

 気遣いだったらしい。知られればただでは済まないだろう。それに気付かず、申し訳ない。


 今にも泣き出しそうな霞城さんが駆け寄って来る。私は再び、目を閉じた。

 …温かい

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