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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第45話 ダンスの相手⑥

 夜間北の者が訪ねて来るのではないか。そう期待して、眠れずにいた。

 今日は南との戦闘があるかもしれないというのに。…作戦を考えていない。不味いのではないか。

 私には短く伝えられた文章を消化する力がない。ないからと言って甘えるつもりはない。しかし、現状出来ないことに変わりはない。


 軽く叩かれた扉の向こうの人物に返事をする。


 「眠れなくてね。少し付き合ってくれないかい」

 「今日は色々なことがありました。眠った方が良いでしょう」

 「そうかい。おやすみ」


 扉を開け、立ち去ろうとしていた霞城さんの腕を引っ張って部屋に引き入れる。


 「どうしたんだい」

 「なにも知らなくとも、良いではありませんか」


 私だって、言っていないことは山ほどある。どんな事実がありそれを知っても、意味のないこともある。


 「語ることなど、いつでも出来ます。今日は眠りましょう」


 満身創痍で戦闘に挑んでは、勝てる勝負にも勝てない。

 作戦はどうにかなるだろう。不安要素はあるが、まだ言わないと決めたのだ。あれこれ考えるのは止そう。


 布団へと手を引いて座らせるが、横になろうとはしない。


 「僕がここで寝て、君はどうするんだい」

 「霞城さんが眠ったら別の部屋へ行きます」


 当たり前だ。それに、今日は私も妙に疲れた。眠れなくとも、横になって休む必要があるだろう。


 「ここで寝てはどうだい。君の目的は両方とも達成される」

 「止めて下さい」

 「寝込みを襲うなんて野暮なことはしないさ。それに、人肌恋しいことだってあるだろう」


 断るのも面倒だ。それに弱った姿で縋る様に言われては、断りにくい。


 「分かりました」


 力なく微笑んで横になると、そっと手が伸ばされる。その手を取って、私は布団の中に入った。




                  ***




 太陽が昇り始めると、視界が一気に明るくなり目が冴える。霞城さんは、まだ寝息をたてていた。

 起こさない様静かに布団から出ると、建物も出た。


 向かう先は、喜世さんと会ったあの見晴らしの良い場所だ。

 そこなら、喜世さんがいるかもしれないと思ったのだ。上の者を恐れて、訪ねて来ることの出来なかった喜世さんが。


 確かに喜世さんはいた。しかし、もうひとり北の者が一緒にいる。

 北辰巳と仙北谷螢の間に座っていた者だ。弓弦さんが知らないと言っていた者。


 今渡せなくとも良いか。


 「北の御仁、おはようございます。ご一緒しても良いですか」

 「おはよう。どうぞ」


 少し離れた場所に座る。


 「時に少女、昨日のことがあってよく引き帰さなかったね」

 「北政宗さんを殺した私に報復が行いたいのであれば、戦場で受けて立ちます」


 小さく笑うと首を振る。


 「昨日、喜世が少しも反応しなかったことが気になって尋ねたんだ。ここで君と会ったことを聞いてね」


 いつまで黙っているかということは明言していない。食事会で私が言ったため、良いと思ったのだろう。私も問題があるとは思わない。

 それに、家柄で自分を卑下する者に意見が出来るとは思えない。


 「私が来るという保証もないのに待っていたのですか」

 「2人に見つかったらと思うと、直接訪ねる勇気がなくてね。かっこ悪いよね」


 苦い笑みを向ける男に、北政宗の髪を差し出す。


 「いいえ。上の者に半ば恐怖の様なものを抱くのは仕方のないことです」


 実力と権力が見合わない程、態度が大きくなってゆく。力を誇示するため、無茶な要求が増える。それに怯える。

 そして、勘違いした者が好き勝手するのだ。


 「あなたにここでのことを打ち明けた。その事実が、あなたがただの権力者でないことを示してします。かっこいいと思います」

 「ありがとう。まさか敵に励まされるなんてね。名前を聞いても?」


 喜世さんから聞かなかったのか。それとも、聞いているが礼儀として聞いているのだろうか。


 「先に名乗るのが礼儀です」

 「そうだね。北条伊吹(ほうじょういぶき)。君は?」

 「南絢子と申します」


 呆けた様な顔をしたかと思うと、笑い出す。


 「そのチョーカーを誰からもらったのかまでは分からないけど、東はやっぱり変わり者が多いんだね」

 「そう言う伊吹さんは、少なくとも北では変わり者なのではないですか」


 恐らく北政宗もそうなのだろう。

 伊吹さんは、寂しそうに笑っただけだった。


 「最期を聞かせてもらえる。もちろん詳しく聞かせてくれなくて良い」


 当然だ。私の戦闘法や異能の詳細を知らせることになってしまう。


 「地獄で会ったら、ゆっくりお喋りしましょう。そう約束をしました。出来る限り苦しむ時間のない様殺したつもりです」

 「そう。そんな約束を」

 「きっと数人殺したくらいで地獄に落ちたりはしないよ。そんなことをしたら大渋滞だからね」


 ここへ赴くまで実戦の経験がないとでも思っているのだろうか。

 私の身体は、頭の先から足の先まで血で汚れ切っている。新たな汚れなど気にならない程だ。


 「あなたも私を侮るのですね」

 「伊吹さま、2人なので言わせていただきます。――ダメダメです」


 とても呆けた顔をしている。こういった言い方は初めてなのだろう。


 「政宗さまが手加減をして殺されたとでもお思いですか。しかも“出来る限り苦しむ時間のない”形で」

 「あ…」


 私に視線が向けられる。


 「彼女はかなりの要注意人物です。政宗さまを殺し、それを知られても問題ないと思っているのですから」

 「問題はあると思います。けれど北にいれば私はきっと、政宗さんを一番に慕っていたでしょうから」


 他にも北政宗の様な人物はいるのだろう。そう信じたい。現に、ここにも変わり者はいる。

 だが、この者も私を侮った。


 「初めから異能を使用し、武器の出し惜しみもしませんでした。彼は容姿も徽章も見ず、私だけを見たのです」


 そんなことを言えば、より警戒されるだろうか。だが、上座に座っていた2人に伝わることはないだろう。


 「そうだね、良くなかった。ここは戦場だからね。でも本当に幼く見えるから。何歳なの?」

 「答える必要性を感じません。互いに用は済みました。私はこれで失礼します」

 「待って」


 立ち上がろうとした私の肩を押さえ、座らせる。


 「どうしました」

 「上座から2番目に座ってた男」


 正雄さんか。C2で正雄さんが喜世さんを見かけたらしいが、もしや喜世さんも見かけたのか?


 「気を付けて。あの人は――」

 「喜世」


 鋭い声が言葉を遮った。視線を向けるが、表情はさっきまでと変わらない。


 「勝手をして申し訳ございません。しかし彼女は…」

 「黙れ」

 「黙って出て来ているあなた方には、私のことを報告することは出来ません。しかし私は報告出来る。それを気にしているのでしょう」


 しかし、敵に心配されることなどない。


 この島は、元はひとつの組織として統制されていた。そうでなくとも、人間の根幹にあるものが簡単に変わるはずもない。

 東の者も、上位の者の最終決定に逆らうことは出来ない。


 食堂で晴臣さんの正面に正雄さんが座らないのは、晴臣さんの力を誇示させるためだ。つまり、正雄さんも()()()()逆らうつもりはない。


 「今のことは一先ず忘れます。これで失礼します。そう言って、私は立ち去った。そういうことにしましょう」

 「どうして?戦略パートの者には言えるよね」

 「人の気持ちは鏡合わせだ、となにかに書いてありました。慕う方の行く先が心配なのは、私も同じです」


 それが死者でも生者でも、関係はない。


 強い風が吹いた。目の辺りから離れたであろう水が風に攫われる。

 汗でもかいているのだろうか。冷や汗か。嘘が吐けないことがこんなことに影響するとは思わなかった。


 「それは――いや、なんでもない。ありがとう」

 「失礼します」


 伊織さんは、なんと言おうとしたのだろう。

 まさか北政宗だと思ったということはあるまい。では、それが誰か聞こうとしたのだろうか。


 東の建物の近くまで行くと、霞城さんが飛び出して来た。


 「どこへ行っていたんだい」

 「散策です。屋根のある場所にずっといると落ち着かないのです」


 慣れない環境ということも、もちろんあるだろう。だが、確実にあの一週間が強く影響している。

 いつでもボスがいた、あの建物に一週間もいたことが。


 「何故誰にも言って行かなかったんだい」

 「眠っている様子でしたので。なにを気にしているのですか」


 直接攻撃されることはまずない。そうであったとしても、対応出来る。


 「必要ないと、分かってはいる」


 起きたときにいなかった。この事実は、どうやら嫌なことを思い出させてしまったらしい。

 なにを言えば良いのだろう。


 「――泣いたのかい」


 頬にそっと手が添えられた瞬間、あのけたたましい音が聞こえた。


 『これより15分後、東と南の戦闘エリアへの門を開きます』


 作戦を聞いていない。正雄さんの指示のみに従うことは出来ない。しかし霞城さんと正雄さんでは、力関係は明らかだ。

 どうすれば良い。


 「早く準備をす…」


 晴臣さんのところへ慌てて行くと、困った様に笑われた。


 「起きているよ。早く準備をして。今日も無事に戻ってくるんだよ」

 「呑気なことを言っていないで下さい」

 「作戦なら正雄くんには伝えてあるよ。全員揃わないと効率が悪いからね、早く準備をして」


 肩を持って扉の方へと向きを変えられる。耳元で、そっと息を吸う音がした。


 「大丈夫、分かっているよ。正雄くんにはポイントを振らない。私は亡霊とダンスをする趣味はないからね」


 どういう意味か問い質したいが、そんなことも言っていられない。私は前半部分を信じ、戦闘へ向かうしかないのだ。


 「さぁ、早く」

 「はい」


 過去二度の戦闘より重い足を無理に出し、駆け出した。

次回は霞城が弓弦に送り届けられた孤児院の責任者の方視点の番外編です。

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