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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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番外編 知れなかったこと

 ここ数ヶ月、和真が相手をしてくれない。丸栖のくせに、アタシの言うことが聞けないの?


 「珍しく本気ではないかい」


 あれって確か、使用人との子供。ありえない!なんでそんなヤツと遊んで、アタシと遊ばないの!


 「やはり手を抜いていることを気付いてみえましたか。もう接待プレイなんてしている余裕がないのです。それほど上達されたのですよ」

 「そう言って僕が勝つまでが接待プレイかい」

 「霞城、そういう偏屈を言うのは駄目だよ。和真は本当にすごいのだから」


 真白お兄様に似た声だけど、誰…?


 「和真、たまには僕ともやろうよ。文も暇をしているみたいだし」


 誰でも良いから、もっと言ってやって!使用人との子供の相手なんてせずに、アタシの相手をするべきなの!


 「それにしても、霞城は本当に上達したね。すごいよ、霞城。流石は僕の霞城だね。皆に自慢したいよ」

 「真白さん、止めて下さい」


 は――?


 思わず柱から身を乗り出して見た。

 聞き間違いかもしれない。そんな期待があった。だけど、アタシの耳は正しかった。正確に聞いてた。


 和真はなんで慣れた顔してるの!しかも2人を放置して片付け始めた!


 「物陰から見ている者は誰ですか」


 気付かれた。ナメられちゃ駄目。毅然とした態度で。


 「随分前から見学してたよ?」

 「霞城くん、彼女が文だよ。和真を取られて寂しいんだよ」

 「誰が寂しいなんて言ったのかな?」

 「それなら覗きは止めなさい」


 一気にいつもの雰囲気に戻った。なんなの!


 「文さま、良ければご一緒しませんか」

 「和真のリップサービスで良い気になってんの?」


 嫌味を言ったのに、薄気味悪い笑みを浮かべるだけ。シューティングゲーム用の銃を差し出して来る。


 「ご自分で確かめて下さい」

 「必要ないの!百歩譲ってアンタが和真と遊ぶのは良いよ?けど、なんでアタシと和真が遊ぶ予定の時間にわざわざやるの?」

 「文、我儘を言うな」


 アタシと真白お兄様の間に立つ。その表情からは、なにを考えてるのか読み取れない。…なんかこの子、怖い。


 「僕は娯楽のつもりで行っていません。頭首の命により指定された時間に訓練として行っています」

 「訓練?」

 「はい。文さまがいつまでも娯楽として行っているため、時間が削られたのだと思います。なにか反論はありますか」


 真白お兄様が背中から抱き付くと、あからさまに嫌そうな顔をする。


 「そうだね。うん、霞城はとっても賢いね。流石は僕の霞城だね」

 「さっきから“僕の霞城”ってなにかな?」

 「そのままだ。口出しするのか」


 態度が違い過ぎる。この子と一体なにがあったの?


 「違うよ?仲良くなったきっかけが聞きたいなって思っただけ」

 「このシューティングゲームの意味も分からない愚か者に、僕から教えてやることなどない。座学でもして世界を知った気になっていろ」


 使用人との子供は、鼻を鳴らして笑うと銃を片付け始める。


 「貸して。アタシが勝ったらこの時間はアタシのものだから!」


 和真が笑った意味を知るのは、勝負が始まってからだった。


 いつもの銃と違うことは分かってたけど、なんで全然当たらないの。銃でこんなに違うなんて…。


 「すごいね、すごいよ。流石は僕の霞城。圧勝だね」

 「これは銃のせいだよ?いつも使ってるのと違うの。だから――」

 「いい加減にしろ。どんな銃だろうと同じだ。などという甘い考えを持った文の負けだ。認めろ」

 「その様子ですと、ご存じないのですね」


 イラつく話し方。わざとだよ。のらないから。


 「和真が文さま専用の銃を整備していたことです」


 いつも同じ形の銃を適当に選んでるだけ。それに、そうだったとしてなんでこの子が知ってんの。


 「何度か見学させていただきました。ちなみに僕は、銃の整備も自分で行っています。なにかご質問はありますか」

 「し…知ってたよ?でも」

 「でも、なんだ」


 口から突いて出た言葉が続かない。


 「悔しいなら鍛錬しろ。楽しいことは、苦行の先にしかないと僕は思うが。だよね、霞城」


 アタシに厳しい言葉を投げた者と同一人物だとは思えない。


 「真白お兄様の馬鹿!」






                  ***






 見つけちゃった。あの子、絶対霞城のお気に入りだよ。どんな子かな?

 あれからちゃんと鍛錬したんだから、簡単には負けないよ?和真は少し手を抜いてたけど、それも分かるようになった。

 体術を教えてくれた(がく)だってそう。もうA2に着いたかな。


 大丈夫。アタシたちはこれまでだって生き残ってきた。強いんだよ?


 「任せた。早く来て」

 「はい、正雄さん」

 「えぇ行っちゃうの?まぁ別にあなただけでも良いや。本命だしね。――ねぇ、夢を見てみない?」


 異能『舌切り雀』


 どこかの建物の中。真正面の椅子に男が座ってる。霞城じゃない。もっと歳上の男。ただこっちを見てる。

 視界が暗転して、外になる。屋上?同じ建物かな。さっきの男が正面にいる他に、数人の男がいる。

 手に持ったナイフを、正面の男に突き刺す。


 …終わり?なにこの選択。


 「さぁ、どっちが良い?」


 こんなの決まってるよ?ってことは、アタシは勝つんだ。なぁんだ、これまでと同じで簡単。


 「質問に答えるまで、動くのは口だけだよ。ねぇ、答えて?」


 動こうとしたって無駄なんだから。


 「屋内?屋上?どっちの未来がお好み?教えてよ」

 「屋上です」


 淀みなく答えた。嘘でしょ?普通相手が誰だって、人を殺す未来なんて選びたくないものでしょ?


 「理由を教えて?」

 「殺されるのなら、殺すのは私です。これは願望ではなく、決定です」


 なにこの子。普通じゃない。


 「でも、夢に出てくるほど好きなひ――」


 危なっ。距離があって良かった。動き早いよ。でもそれより、


 「なんで動いてるの?」

 「あなたの異能なのですから、あなたの方が知っているはずです。私はただ、動ける様になったので動いただけです」


 異能だって万能じゃないんだから知らないよ!本当になんで!?


 反射的にナイフは防いだけど、他に投げられたなにかは当たった。なにを――ヘアピン?


 「こんなモノ投げて、どういうつもりかな?」

 「決まっています」


 しまった!異能!


 「自らの腱を断ちなさい」

 「はぁ?なに言っ…嘘。勝手に…」


 操作系の異能だ。ヘアピンなんかを当てて発動するの?

 違う!違うよ!解明よりも今の状況をなんとかしなくちゃ!異能を解除する方法は必ずあるんだから。


 「嫌!」


 だって、アタシはまだまだ楽しいことを沢山するんだから。まだ足りないの。全然足りないの。

 今まで努力してきたことが、もう少しくらい報われても良いじゃない?

 ねぇ?真白お兄様、霞城。和真だって岳だって、そう思わない?


 痛い。痛覚なんてなくなってしまうくらい痛い。なんでアタシがこんな目に…。


 適当に口から出る言葉はもう、自分でもなにを言ってるか分からない。死にたくないって、そればっかりが頭を巡って仕方がない。

 はっきりしてるのは、最期に見たのが少女の悪魔的な笑みだってこと。

次回は本編です。

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