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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第40話 ダンスの相手①

 戦闘エリアに出るとすぐに弓弦さんと別れ、霞城さんと正雄さんと共に東へ足を進めてゆく。

 聞いていた通り、すぐにひとつ東のエリアに出た。確かにサバンナだ。今日は乾期の設定の様子。


 多少見回りながら歩いているが、特になにもない。

 …というのは間違いだ。


 飛んで来た弾丸を刃物で弾く。

 物陰に隠れられては、空気の流れは変わらない。分かるのはなにかが飛んで来たときのみだ。


 「南西の木上部です」


 弾丸が飛んで来た方角とは違う方角を告げる。正雄さんも分かっているはずだが、糸を飛ばす。

 それと同時に、弾丸を放ったであろう者がA2へ向かって行く。


 「止めるんだ。君では敵わない」


 私の手を引っ張って止める素振りをする。追いかけさせないための言葉だとは思うが、不服だ。


 「ここは僕が引き受けます」

 「分かった」


 弾丸の雨は完全に霞城さんを狙っている。正雄さんと私は攻撃されることなく、その場を離れることが出来た。


 「本気で撃っている様には思えませんでした。知っている者かもしれません」


 霞城さんが西の使者であること、とは敢えて言わなかった。


 であれば、もし殺せなければ西を裏切っていることが完全に知られてしまう。

 協力する素振りだけ見せるのだろうか。しかし簡単に信じるとは思えない。追いかけて来て、背後から攻撃してくるかもしれない。


 「ん。でも大丈夫」


 なんの根拠があると言うのか。


 「彼はもう、東の人間。きみも」


 なんとなく、そうか。と思ってしまったのが嫌だ。しかし、私にはこれ以外に返事は見つからなかった。


 「はい」


 A2へ行くと、粘り気のある熱そうな液体が吹き出る穴が沢山あった。これがマグマというものか。

 晴臣さんの予想では北の者が見せたくないものがあるのでは、ということだった。仕掛けなら今はないだろう。


 「出してみて下さい。焼けますか」

 「なにソレ、卑猥な言葉に聞こえるね」


 いつ攻撃して来るのかと思えば、姿を現すのか。情報を与えてやれば満足するのかと思った。


 「こっちにもいるの。聞いてない」

 「へぇ、じゃあノーバッヂの男か霞城を置いて来たんだ。それとも2人とも?」


 霞城さんのことを知って…!


 「霞城くんのこと、なんで知ってる」

 「え?霞城の苗字知らないの?」

 「ないって聞いてるけど」

 「苗字ないヤツに金バッヂ持たせてんの?なにソレ、ウケる」


 腹を抱えて笑ってはいるが、本気ではない。こちらの様子は常に窺っている。

 戦場なのだから当然と言えば当然だ。しかしでは、何故そんな素振りをするのか。隙を見せているつもりか?


 「俺は面白くない」

 「だよね。でもアタシは少しだけ、楽しいよ。だから良いの。ねぇ、もっと楽しいこと、しよ?」


 余程C1に行かせたくないらしい。正雄さんだけ行ってもらうことも出来るだろうが、道中誰もいないとは限らない。

 あまり隔てるものがない。その上、糸と炎は相性が良い様には思えない。


 「任せた。早く来て」

 「はい、正雄さん」

 「えぇ行っちゃうの?まぁ別にあなただけでも良いや。本命だしね。――ねぇ、夢を見てみない?」


 本命?どういう意味だ。

 女がにたりと笑った瞬間、視界が歪む。異能を使われたか。視界がある内に少しでも傷を。

 足を踏み出したが、着地したそこは火孔ではなかった。


 武装本部の、ボスの部屋だ。


 ボスが椅子には座って微笑んでいる。しかし瞬きをした瞬間にいなくなってしまう。椅子には、誰も座っていない。

 探しに部屋を出ると、屋上に立っていた。ボスの他に数人がいる。

 気付くと、手に慣れた感触があった。手元に視線を向ける。手に持った刃物がボスに刺さっていた。


 「さぁ、どっちが良い?」


 女の声がした。ボスを刺した姿勢と同じ姿勢でいる。

 幻覚でも見ていたのだろうか。いや、戻ったのなら、それがなにであろうと今の問題ではない。


 相手は無防備に立っている。距離を詰めて髪留めをあて…動かない。


 「質問に答えるまで、動くのは口だけだよ。ねぇ、答えて?」


 相手は動くことが出来るのなら、多少の動きはあるはず。しかし全く動いていない様に思える。動けないのは相手も同じか。


 「屋内?屋上?どっちの未来がお好み?教えてよ」


 なにを見たのかは知っているのか。


 「屋上です」

 「理由を教えて?」

 「殺されるのなら、殺すのは私です。これは願望ではなく、決定です」


 だから戻ったとき、ボスは生きている。それ以外の回答は認めない。


 「でも、夢に出てくるほど好きなひ――」


 五月蠅い女だ。喉を引っ掻きろうと距離を詰めるが、遮られてしまう。


 「なんで動いてるの?」

 「あなたの異能なのですから、あなたの方が知っているはずです。私はただ、動ける様になったので動いただけです」


 恐らく回答が不十分だと思っていたが、異能にとっては十分だったのだろう。動けないと思っていたが咄嗟に身体が動き、防がれた。

 だが、防いだのは刃物だけだ。投げた髪留めは防げていない。


 「こんなモノ投げて、どういうつもりかな?」

 「決まっています」


 異能『赤い靴』


 「自らの腱を断ちなさい」

 「はぁ?なに言っ…嘘。勝手に…。嫌!」


 私が自ら異能を解除することはない。大人しく転がれ。


 「痛い!痛い!痛い痛い痛い痛いイタいイタいイタいいたいいたいいたい」


 五月蠅い女だ。騒いでもなにも変わらないというのに。


 「お願い!殺さないで!」


 大粒の涙が次々と零れる。それによって、瞬く間に顔が汚れていった。


 「戻れば東の地位を約束するよ?ね?」

 「興味も保証もありません」

 「力ならあるんだよ?そうだ、霞城に聞けば分かるから」


 ああ、そういえば霞城さんのことを知っているんだったな。

 個人の戦闘能力と異能は関係がないとはいえ、警戒し過ぎていたのだ。戦闘能力のない者に、異能を使いこなすことは難しい。


 「霞城さんとはどういった関係ですか」

 「母親は違うけど、姉弟だよ」


 西の総代、頭首の子供ということか。つまり、霞城さんを虐げた者のひとりというわけだ。

 どれだけのことをされたのか。それは当然の様に知らない。言いたくはないだろう。知られたくはないだろう。


 だから実体験だ。地上へ行った際の空気の悪さは、忘れるはずもない。

 幸福を知っていれば、あの空間にいることが辛いものであることは分かる。私でさえ居心地の悪さを感じていたのだ。


 「ところで、ひとつ勘違いしている様子なので訂正をさせていただきます」

 「なに?なにか不満なことでもあった?」

 「はい。“保証がない”というのは、西が異能戦争を制する保証です」


 そうなった際本当に出来るのかは、この際どうでも良い。それ以前の問題があるからだ。

 しかもこの者が他組織に殺されないという保証はない。移動が出来ない今、西の者からも見捨てられるかもしれないのだ。


 「そんなの、東が一番ないでしょ?だったらアタシと約束しよ?」


 命乞いを見るのも飽きた。正雄さんに早く追いつく様言われている。それに聞いてやる義理もない。

 心臓を一突きし、異能の本を手に取り駆け出した。


 C3は本当に建物の内部がエリアになっていた。天井がある。場所によっては雨が吹き込みそうだが、影響は大きくないだろう。

 空気が溜まっている場所へ行くと、正雄さんが誰かを糸で捕らえていた。


 「お待たせしました」

 「本当に少女が参加して…」


 その状態で口が利けるとは驚きだ。右足と両腕がない。腕は指が切り落とされた状態で転がっている。

 …なにを聞いたのだろうな。


 「基地の場所、教えてくれない」


 それなら、さっきの女に聞けば良かった。口が軽そうだったのに、しまったな。心が荒立っていて忘れていた。


 「無駄ですよ。言う者は、爪を一枚剝がしただけで言うのです。言わない者は、なにをしても言いません」


 私は爪を剥がされなくとも言う。

 なんと素晴らしい忠誠心か。感心する気にもなれない。それとも、ただ恐れているだけだろうか。


 「お疲れ様でした。ご冥福をお祈り申し上げます」

 「待ってっ」


 西の者は命乞いが多いな。北政宗の様に、潔く死ねないものか。


 「ひとつだけ教えてほしいことが…」


 ひとつ。

 なんとなく分かる。時間稼ぎではない。死を覚悟した者の目だ。死の間際に知りたいこと。それはなんだろう。


 「答えられない質問であれば直ちに殺します。冥途の土産になれば良いですね」

 「霞城くんがいるって、本当…?」

 「その方とは、どの様なご関係ですか。伝言があれば伝えましょう。探して差し上げますよ」


 一筋の涙が、頬を伝った。それでやっと気付いた。この者は、これまで涙ひとつ流していなかったのだ。

 このエリアに入って、遠くから声が聞こえたということもない。叫び声を上げなかったのだ。


 「――南絢子と申します。お名前をお伺いしても良いですか」

 「小西朔(こにしさく)と申します」

 「その名は必ず伝えましょう」


 小さく微笑むと、そっと目を閉じた。


 「おやすみなさい」


 首を掻っ切ると、服を探った。異能の本は持っていないのか。それにしては、あまり武装していない。

 近接戦が得意な者だったのだろうか。それなら、この配置は間違いだ。


 髪を切り取り、機械に触れてポイントを確認する。900ポイントのままだった。


 「基地に多く配布しているのかもしれません。どうしますか」

 「あっち」


 はっきり言い切ったのだから、なにか考えがあるのだろう。歩き出す背中を追いかけた。

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