表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
40/171

第35話 望んだ茶番③

 「A2とB1とC1も北の者はいなかった。所有されてる基地がある方へ行くべき」


 半ば睨む様に見て言われた言葉に、晴臣さんは小さく笑った。思った通りのことを言ったのだろう。


 「そうなんだけどね…」


 腕を組んで下を向く。なにか言いにくいことがあるのだろうか。


 「A1の南東にある基地を所有している他組織が隣接するB1かA2、もしくはB2を独占に近い形で持っていると、私は思うんだ」


 エリアが違えば、壁に阻まれ音は届かないのでは?それでは、危機を察知したり増援を要請することは出来まい。


 いや、方法はある。


 ポイントで購入可能であるものに通信器具があった。しかし林檎が20個は買える程高額だ。簡単に購入出来はしない。

 近くのエリアで基地を持つことに、どれだけの意味があるのだろうか。


 「どちらなのか、はっきりしてからの方が良いと思うんだ」

 「なにを隠してる」


 顔を上げ、困った様に笑う。

 これでは聞いて下さいと言っている様なものだ。これも茶番なのだろうか。晴臣さんが望んだ、茶番なのだろうか。


 「初めの方に南と当たったときにね、A2の南寄りにあった基地が奪われているんだ。それ以前もA2の基地がえらく狙われていたんだよ」


 通るついでに奪おうという魂胆だったわけか。しかし、戦闘要員がいないのに何故狙われたことが分かるのか。


 「相手の動きが全く分からないのは、流石に公平性に欠けるでしょ?だから所有する基地にポイントが追加されたら、その通知は受け取っていたんだ」


 抱く疑問など見透かしている。そう言うかの様に、不気味な笑みで答えは告げられた。


 戦闘要員がいれば、通知はないということだ。

 ということは、晴臣さんから見て相手の動きはより不明瞭になったのだろうか。


 大体の所在が知れているのは2名。A3とB3に其々1名。そして所在の分からない1名。A1にいたであろう異能者も姿を見たわけではない。


 「A3には無所属の基地があったと考えているんですね」


 首が小さく縦に動かされる。


 「そして――」


 小さくため息を吐くと、私を一瞬だけ見た。

 その瞳を見ても、なにかを思うことはなかった。なにを思えば良いのかも分からない。けれどこれだけは、なんとなく分かった。


 それは大きな間違いである。


 「北の者はB1に、恐らくA2にも現れなかった」


 どこか分からない場所へ向けていた視線を弓弦さんへ向ける。


 「B3で弓弦くんが遭遇した者がどこを目指していたのかは不明だよ。だけど、中央より東であることは確かだと思うんだ」


 4つの首が縦に動くのを確認して、晴臣さんも首を縦に動かした。


 「A1は相性の良い異能があるから別として、A3に2名いたのは必ず来ると思っていたからだとしよう」


 それなら、あの建物にいた者が私と戦闘した方が良いのでは?わざわざ地形を確認せさてやる必要がどこにあったのだろう。

 あの建物から離れたくなかったのだろうか。


 「B3にも2名。これは全体の中央に近い基地を所有していてC3に行くときに通るかもしれないから、守りも兼ねて」

 「C3に北の者はいなかったと考えている。そういうことですね」

 「そうだよ。C2に配置があったのは、北東へ行った者がその方向から来ると思ったから。なにか見られたくないものがあったんじゃないかな」


 炎に関する異能を持っている者もいるのだろうか。しかし晴臣さんの言いたいことが一向に見えないな。


 「残り1名がどこにいて、どんな行動をしたのか。それは全く見当が付かない。だから正しいだろう、と自信を持って言えないよ」

 「回りくどい。早く」

 「ごめん、ごめん。お腹も空いたし、早く終わらせよう」


 小さく笑った晴臣さんとボスは、どこも似ていなかった。けれど、何故だかボスを見ている様な気分になった。


 「A2とB1には、行く必要がなかったんじゃないかな。だから南半分に偏った配置になった。どうかな」

 「それだと、ただ基地がないだけって説明出来る。長々と話す必要あった?」

 「もっと言えば、東の者が行かないと予想をたてただけかもしれません」

 「痛いところを突くね。でも、現状の整理って必要でしょ?」


 大きなため息を吐かれても、晴臣さんは不気味な笑みを浮かべている。そういうところが母親譲りなのだろうか。


 「そういうことだから、変更はなし」

 「ポイントの配布はどうするの」

 「全て絢子さんに振るよ」


 何故私なんだ。それに、基地に振らなくても良いのだろうか。A1とC3は兎も角、A3は…。

 900ポイント全てを振っても取られてしまう程、他組織は多くのポイントを持っているのだろうか。

 いや、問わずとも分かるはずだ。そうなのだ。


 仮に所持する基地が11のままだったとしても、戦闘の度に1,100ポイントが入ることになる。

 東の基地は奪い放題と言っても過言ではない。少々無駄にしていたとしても、十分余裕があるはずだ。

 もしや、他組織は通信器具を全員所有しているのだろうか。


 「弓弦くんは、ポイントを手に入れたら適当な基地に使って。長距離戦が出来そうならA3が良いけど、判断は任せるよ」

 「…分かりました」


 誰かがA2へ行くと言っている様なものだ。そして、その者を殺せと。弓弦さんが緊張を露わにするのも無理はない。


 「こちらはどうしますか。C2とC3、どちらに基地を得ましょう」


 愚問であることは分かっている。正雄さんの異能を考えて、C3の方が良いはずだ。だが、自分の判断で行動することに迷いがある。

 命令を言い訳にしてはいけない。そう思ったが、そう決めてはみたが、楠英昭のこともあって踏ん切りがつかない。


 楠英昭は本当のところ何故、東の武闘組織にいたのだろう。


 「C3。それより、B2とC2どちらに霞城くんが残るかが重要」

 「そうだね。でもそれは戦況次第だよ」


 にやにやとした笑顔を少し睨むと、顔を逸らす。


 「確認ですが、僕はポイントを得ても使わなくて良いのですね」

 「うん。B2はまた取られると面倒。C2はなんか怪しい。だから使わないでね」


 北が守っていたことを指しているのだろう。感覚というものも大切だろうが、もう少し分かりやすく言ってもらえないだろうか。


 「よーし、ご飯にしよ」

 「いつまで黙ってるつもり」

 「なにを?」


 正雄さんが強く言葉を放っても、やはり晴臣さんの表情は笑顔だ。

 表情というものは、この不気味な笑みしか知らないのではないか。そう思える程、鉄壁で完璧な作った笑顔。


 「地図に印がない」

 「気付いていたなら、どうして黙っていたの?正雄くん」


 不気味な笑みが、更に歪んでゆく。


 「霞城くんだってそうだよ。本当は昨日の戦闘前に気付いていたんだよね?」

 「いつ始まるか分かりませんので、無駄に不信感を抱かせてはいけないと判断しただけです」


 正雄さんが小さく頷くと、馬鹿にした様な笑顔で弓弦さんと私を見る。

 なにが言いたい。言いたいことがあるのなら、はっきり言えば良い。隠す気がないのなら、そうするべきだ。


 「気付いていないのかと思っていましたが、そういう理由だったんですね」


 にこりと笑った顔は、嘘っぽかった。なにかを騙している様な笑みだ。

 南の家で沢山見てきた笑み。あれらほど悪意は感じないが、確かになにかを騙している。


 「ご安心下さい。信頼などなくとも、命令があればその通りに動きます」


 弓弦さんの言葉に小さく笑う声が2つ。それをかき消す様に、ひとつの大きな笑い声が響いた。


 「始めから信頼されていなかったんだね」

 「信頼というものは、長い月日をかけて築くものです。今日会ったばかりの方を、どう信頼しろと言うんですか」


 戦闘能力。言動の大胆さ。命令と信頼の捉え方。

 これらひとつひとつの要素全てが、佐治さんが弓弦さんを推薦した理由なのだろうか。


 「そうだね。絢子さんはどうなのかな」

 「開始時に東のものだった基地の場所を初めに聞いても、混乱してしまうでしょう。後に聞けば良いと思っていました」


 そして、晴臣さんもそういう考えなのだと思っていた。印がないことについては、なにも思わなかった。


 「なぁんだ。みんな気付いていたんだね。それなら早く言ってくれれば良いのに。意地悪だね」

 「なんのつもり」

 「特に意味はないよ?強いて言うなら、暇つぶしだね」


 異能戦場に赴いた者だけではなく、東の者全員の未来がかかっている。それで何故、そんなことが出来る。


 「ふざけるな」

 「私は真剣だよ。昨日まで真剣に生き残ってきた」


 今日や今ではなく、昨日…?ひとりで、という意味だろうか。


 「私の手腕がなければ、東は異能戦場へ赴くことなく負けていたんだよ。少しくらい遊びに付き合ってくれても良いと思わない?」

 「命を懸けて、晴臣くんと遊ぶ必要があるの」

 「命を懸けて守るべきものなんて、この世に存在するの?」


 会話が成立していない。恐らく、前提が違うのだ。

 やはり、どこにでもこの様な者はいるのだ。他者を貶めることが快楽や道楽ですらない者が。


 「お前のせいで亡くした」


 晴臣さんに向けて言われたはずの言葉が、私の肩に重く圧し掛かった。

 俯いた私の耳に届いたのは、晴臣さんの失笑だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ