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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第30話 出会いは別れの始まり④

 「私は正雄さんの作戦に賛成します」


 堂々と宣言した私に注目が集まる。


 「基地の場所がある程度特定されている以上、交戦せざるを得ません。例え制限時間間際だとしても、基地の場所が完全に把握されてしまいます」


 しかし“東にはあまり選択肢がなかった”のだから早々に来ると考えて良い。そうなると、悠長なことを言っている場合ではない。


 「だけどね、」

 「僕もそう思います」

 「自分もお2人の意見に賛同します。後手後手の現状を打破出来るのは、素早い行動力ではないでしょうか」


 相手が自分たちを見くびっている内に殺した方が早い。そういうことだろう。しかし相手が北や南であれば少々厄介だ。


 他組織の者たちは偵察にすら訪れなかったが、北は訪れた。そして、偵察に来た者が鍛錬を積んでいることは明らかだ。

 南は異能を使えば詳細まで把握されてしまうかもしれない。


 「少なくとも、弓弦くんは保守的だと思ったんだけどね」

 「基本的にはそうなんですが、守るものがないのでは攻めるしかありません」


 にこりと笑って放たれた言葉に、苦い笑みを返す。責めたわけではないだろうが、そう聞こえたのだろう。


 「決まった。それで、端末っていうのは」

 「その前に聞きたいんだけど、連絡方法はまだ伝書鳩なのかな。違うよね?」


 一言に込められた願望を強く感じる。だが、現実は残酷だ。


 「伝書鳩」

 「じゃあ未知の世界かな」


 あはははは、という乾いた作った笑い声が妙に響いた。


 「掌より少し大きくて薄い機械が、戦闘パート開始時に配布されるんだ」


 思わず掌を広げて見る。同じ行動を取っている自分以外の者たちを見て、晴臣さんは苦い笑みを浮かべた。


 「片面は指を触れると操作することが出来る。片面にはカメラが付いていて、そこで基地を認識させるんだ」

 「理屈は分かりました」


 そういった機械に近いものに触れたことがあったのだろう。霞城さんは小さく頷いた。

 しかし正雄さんと弓弦さんは掌を見たまま。私に至っては、あまりにも理解出来ず放棄して顔を上げていた。


 「絢子さんはどうかな」


 分かってはいたのだろうが、一縷の希望を持って問うたのだろう。


 「きっと見れば分かります」


 正雄さんと弓弦さんが勢い良く顔を上げる。それを見て、晴臣さんは大きくため息を吐いた。


 「大丈夫かな…」

 「情報共有も終わりましたし、戦闘の準備をしておきましょう。合図があってからでは忘れ物があるかもしれません」

 「ん。弓弦くん、絢子さんの化粧道具はどこ」


 首を傾げる晴臣さんに、正雄さんがにやりと笑う。


 「女性がいると、日用品の幅が広くなる。そんな気がする」

 「なにを武器にするつもりかな」


 日用品を一先ず置いたという部屋へ行き、鞄を開ける。そこからは大量の化粧品が出て来た。


 「女性だからたまには髪でお洒落を楽しみたいだろう。そう言って髪を一時的に染めるスプレーを持ち込んだ」


 色は赤だろう。外に文字で書いてあるだろうが、見なくとも話の流れで分かる。


 「戦闘でも必要以上に使わないで。ここに来るまで市場を見てたけど、嗜好品は高い。それから鏡」

 「鏡で相手に認識させるんだね」


 正雄さんが小さく頷く。

 そういえば、車中では話題に上がらなかったな。正雄さんは知っているのだろうか。どちらにしろ晴臣さんに言うべきだろう。


 「言い忘れていましたが、彼女は鏡を見られません。なので仕掛けのある辺りには近付けないで下さい」

 「また制約が増えたね。理由は聞かせてもらえるのかな」


 その部屋には、ただ沈黙が流れた。それが答えだった。


 「じゃあ、どんな感情があるのか教えてくれないかな」


 晴臣さんは不快感を示さない。それどころか、優しく微笑んだ。


 「なにをしてでも、なにを利用してでも、成し得なくてはいけない。そんなことがあるときが、必ずあるからね」


 なるほど、甘やかされていると双葉さんに言われるわけだ。

 私は今まで、やりたくないことは命令でしかやって来なかった。言い訳があったのだ。命令を免罪符にしていたのだ。


 「恐ろしいのです。そして、きっと憤りを感じ、後悔しなくてはいけません」

 「分かったよ。辛いことを聞いて悪かったね」


 私の頭へ伸びて来た手を避けると、霞城さんの後ろに隠れた。


 「嫌われたかな」

 「好かれる要素なないと思いますが、同じように嫌われる要素も大してないと思います。それに嫌なら手を跳ね除けるのではないですか」

 「暴力行為を気にしたのかもしれないよ?」


 そんなことが暴力行為になってたまるか。仮に入ったとしても、正当防衛だ。


 「実際はそれくらい大丈夫だよ。それも禁止してしまっては、身を守る方法がないからね」

 「では一度叩きましょうか。変わった趣味をお持ちですね。否定はしませんが、肯定したくはありません」

 「やっぱり嫌われていないかな」


 苦い笑みを浮かべた晴臣さんと目を合わせる者はいなかった。


 「本当に、変わった者たちを送ってくれたね。そうだ。恭一が元気なことは想像出来るけど、他の兄弟たちはげん…」


 晴臣さんの言葉を遮って、大きな音が鳴った。けたたましいと表現出来る音だ。

 どこから聞こえているのか分からないが、どこにいても聞こえそうだ。…どこにいても?もしやこの音が。


 『これより15分後、東と北の戦闘エリアへの門を開きます』


 頷き合うと、早々と準備をして駆け出した。早く行けば、端末を長い時間見られる。そう思った。


 しかし現実は残酷だ。

 手渡された掌程の大きさの機械は、触れても動かなかった。


 「端末に基地を10秒間、30m以内から認識させると、30秒間操作出来るようになります。戦闘エリアに入れば、方位磁針として使用が可能です」

 「試しに画面を見ることは出来ませんか」

 「どの組織も、初戦は未確認のまま戦闘を行っています」


 状況が随分違うのだが、いつ赴くかは自由。認められることはないのだろう。しかし、それは大変だ。全く扱いが分からない。


 「ではふたつ質問を良いですか」

 「お答え出来るかはお約束しかねます」

 「ポイントを所持しない者が自陣の基地へ向けた際も、同じことが出来ますか」


 なるほど、それで試せるのなら問題は少々解消される。


 「可能です」

 「どのエリアに出るのか、教えてもらうことは出来ますか」

 「出来ません」

 「分かりました。ありがとうございます」


 質問に答えてくれた者ににこりと笑うと、正雄さんを見る。

 そういえば、誰がどこへ向かうのかまだ決めていなかった。未知のものに必死になり過ぎていたな。


 「霞城くんは北西、絢子さんは南西、弓弦くんは南東へ。俺は北東へ向かう」

 「はい」


 3つの返事と、門が開いたのは、同時だった様に思う。まるで誰かが見て操作しているかの様で気持ち悪い。

 門をくぐり洞窟の様な狭く暗い場所を歩いて行くと、光りが見え始める。戦闘エリアに出るらしい。


 「無理のない範囲で――死守」


 矛盾している正雄さんの発言に小さく笑う声が、後方に反響した。眼前には、草木が生い茂った空間が広がっている。

 端末の片面に軽く触れると、方位磁針の映像が現れる。


 「散会」


 その合図と共に、決めた方角へ散らばる。


 西寄りにあるのなら、早く西の端に着くはず。そうなれば、端から少し距離を置いて南へ進む。

 東寄りにあるのなら、東の端に着くよりも先に基地を見つける可能性もある。


 なにより、北の者より早く基地へ行かなくてはいけない。地形を把握しているだけではない。数ヶ所に絞れているはずだ。不利が過ぎる。


 歩幅65cmで、背丈程あった草木を掻き分けて進む。

 普段は75cmの歩幅で歩いているが、少し大きめの歩幅だ。ゆっくりしてはいられないのだが、歩きにくい。

 距離を正確に把握するためには、歩幅を一定に保つのが手っ取り早い。無理をして大股で歩くより、歩幅を小さくして素早く確実に動いた方が良いはず。


 108歩目を踏み出すと、急に拓けた場所へ出た。


 エリア毎に地形が大きく異なるのか。

 ここも武闘組織周辺と同じく、一色だ。しかし、色は明るく感じる。日差しが強い。地面は足が沈んで歩きにくい。

 恐らく、これが砂漠というものだろう。図鑑で読んで想像していたよりも、体力の消耗が激しい。




 このエリアに入ってから70歩目。

 やっと空気の流れがおかしくなった。西に空気がぶつかっている。このエリアはAの列だろうか。


 ひとつのエリアが1km四方という前提がある。108歩で別のエリアに出たということは、0.7km程最初のエリアを歩いたことになる。

 斜めに歩いたのだから、出入口の場所は…エリアの東側、南北は同じくらいの距離。A1のそんな場所に出入口を設けるだろうか。


 こうそう考えている内に、見えない壁に当たる。奥に続いている様に見えるが、ここで終わっている。

 この壁から距離を取りつつ南へ向かう。200m程で良いだろう。その後は真っ直ぐ南へ。エリアの端に着いたら少し北東へ。そこに基地があるはずだ。


 しかし、その通りに行って良いのだろうか。基地を特定されているのであれば、そうして現れることなど分かっているはずだ。

 一度B3エリアの方、南東へ進んでエリアが変わったところで引き帰す。そして再び南西を目指す。

 いや、それも読まれている可能性がある。交戦するのは問題ないが、その者が足止めの役割では困る。


 「よし、決めた」


 南東へ212m。つまり東に0.2km程度進んだところで方向を真南に変更した。

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