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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第29話 出会いは別れの始まり③

 小さな食堂の様な部屋に移動し、腰掛ける。奥から男性、正雄さんと霞城さん、弓弦さんと私が向き合う形で座っている。


 「正雄くんは良いから、少年から聞かせてよ」

 「西霞城と申します。初めは西より、ルール伝達の使者として参りました」

 「少年だとは聞いていたけど、本当に少年だね」


 他に言うことがあるだろう。そう思ったが、戦闘要員なしで東を守って来た。その事実が、私を納得させた。

 言われなくとも、聞かなくとも、分かっているのだろう。


 「少女は?」

 「南絢子と申します。幼少より地下に幽閉されていたのですが、命辛々逃げ出して彷徨っていたところを拾っていただきました」

 「あの報告書の子かな」


 あの会合では、誰もなにも言わなかった。それがすぐに思い浮かぶのか。

 いや、他のボスたちは正雄さんを気遣って言わなかっただけかもしれない。きっとそうだ。


 「そう。次、弓弦くん」

 「はい。自分は弓弦と申します。籍は貿易組織にあります」

 「変わった者たちを送ってくれたね」


 軽くため息を吐くと、居直る。


 「僕は東晴臣(あずまはるおみ)。恭一とは母親も同じ、正真正銘の兄だよ」


 だから呼び捨てなのか。それにしても…


 「ボスと晴臣さんの母君は、作り笑いが下手なのですか」

 「初めて言われたよ。大抵、恭一の方が兄だと思ったと言われるだけなんだよね。これでも、身長の低さは気にしているんだよ?」

 「そうですか」


 身長など大した問題ではない。


 「年齢にしては小柄であろう絢子さんには意味のない言葉だったかな。ところで、何歳?」

 「17から19歳だと推定出来ます」

 「うん。霞城くんは?」


 寂しそうに、優しく微笑んだ。そうかと思えば、霞城さんを薄気味悪い笑顔で見ている。


 「16です」

 「霞城くんは大人っぽいね。子供ながらに、使者に抜擢されただけのことはあるという感じかな」

 「あまり褒められている気がしませんが、褒め言葉として受け取っておきます」


 抜擢された理由を考えれば、そうも言いたくなるだろう。そこは分からないのだろうか。それとも、分かっていて言っているのだろうか。


 「あの、今は世間話?よりも現状の共有をお願いしたいのですが…」

 「そうだね。異能を持たない弓弦くんは特に不安だよね。ごめん、ごめん」


 やはり分かっていたか。


 「これが戦闘パートで使うエリアの地図だよ」


 地図の右端には数字、下部にはアルファベットが記されている。


 「戦闘のエリアに出る場所は固定だけど、当然どこにあるかは分からない」

 「ポイントは」

 「東は500。他は発表されないから分からないけど、増やしているだろうね」


 大負けしているということだ。笑顔で言うことではない。


 「一昨日の食事会の時点での戦闘要員は、西が7名。南が6名。北が8名。其々死亡者は2名、3名、0名」

 「念のために聞くけど、異能者の数や異能の移動は分からないの」

 「当然分からないよ」


 それが分かれば苦労も少なく済んだのだが、そうもいかないか。

 東は場慣れしていない上に、数で劣っている。どの様な異能があるか分からない以上、異能を過信するのは良くない。


 「基地を奪うためにはポイントを追加する、とルールにあります。それはどの様に行うのですか」


 なにかに記入するのなら、そこに罠を張っておけば良いだけだ。しかし死亡者があまり多くないということは、そういった方法ではないのだろうか。


 「端末に基地を一定距離から一定時間認識させると、一定時間操作出来るようになるんだよ。だから特定の場所に現れることはないんだ」

 「その端末というのは、どの様なものですか」

 「正雄くん、そんなことも教えなかったの?良くないよ」


 知っているのなら教えてくれるはずだ。道中、十分時間はあった。なにより霞城さんも正雄さんも、弓弦さんも首を傾げている。


 「騙された。最低限の知識は教えてもらうように言ったんだけどね」

 「異能戦場の外にはルールがありません。口約束なのでしょう。それを鵜呑みにしたご自身が悪いと思います」

 「反論出来ないね」


 大きくため息を吐くと、小さく頭を下げる。


 「こればっかりは僕のミスだよ。悪かったね」

 「そうしていても、なにも変わることなどありません。東が現在所有している基地はどこですか」


 小さく乾いた笑いが部屋に響く。

 発しているのは、頭を下げたままの晴臣さんだ。急にどうしたのだろう、気持ち悪い。


 「実はね、もう3つなんだ」

 「ポイントもない。基地もない。絶望的。ちなみに、どこ」

 「A1とA3とC3…端のエリアである、その更に端辺りの基地だよ」


 隅3つが残っているということか。容易く移動出来る距離ではない。そこを守るにしても、援護を期待してはいけない。


 「連携が取りにくいのは相手も同じだからね。戦闘要員のいなかった東にはあまり選択肢がなかったんだよ」


 地図上の印を指していた指が頬をかく。


 「今今言ったはずです。責めてもなにも変わりません。次は所持している異能についてでしょうか」

 「詳しく話すより、先にひとつ」

 「なにかな」


 晴臣さんの微笑みは、明らかに力がない。


 「僕の異能は仕掛けが出来る。3人に基地を守らせて、僕は地形把握のために動くのがまずは良いと思う」

 「分かったよ。じゃあまずは、そんな正雄くんの異能から聞こうか」


 晴臣さんは自分を不甲斐ないと思っているのだろうか。

 戦闘要員がいなければただポイントが減っていくしかない様に思えるルール。その中で基地を守り、ポイントを得てきた。

 その手腕は褒められるべきものなのではないだろうか。


 しかも現在の基地が3つということは、前回の戦闘開始時は200ポイントだったことなる。一歩間違えれば、東は負ける。

 いいや、前回だけではない。500ポイントの現在だってそうだ。とんでもない重圧だっただろう。




                ***




 3つ全ての異能の詳細と弓弦さんの戦闘方法を聞いた晴臣さんは、笑った。涙が出ている程、笑った。


 「確かに正雄くんには人を道具として使うことなんて、出来ないよね。変わってなくて良かったよ」

 「うるさい」

 「色彩感覚がないのに赤で人を操る絢子さんと、互いに姿を認識しないと操れない人形遣い。良いね、絶望的だよ」


 それでも、この異能で赴くしかなかった。結果論だが、実際に戦闘要員がいないままは限界だった。


 「僕だって死にたいわけじゃないからね、みんなには期待しているよ。もちろん弓弦くんにもね」

 「はい」

 「ところで、どんな銃を持つとどんな性格になるの?」


 不自然に口角が上がり、あらぬ方向へ視線が向けられる。

 まさか知らないはずはないだろう。弓弦さんが言うには、言動をある程度は覚えているはずだ。


 「スナイパーライフルのときは寡黙な感じで、ショットガンのときは気弱な感じで、ハンドガンのときは……オラつきます」


 初めて聞く単語だ。


 「反骨精神を持って強がり、悪態をつくという意味だよ」

 「なるほど。随分変わるのですね」


 顔を赤くして俯いている。なにか恥ずかしがる様なことらしい。


 「自陣営の基地には、ポイントを配分しなくても相手にポイントが追加されなければ自陣営の基地のまま。合ってる」

 「そうだよ。基地にはポイントを配分せずに守る、ということかな」

 「そう。地形を把握しがてら、奪えそうな基地があれば奪う。最初の戦闘はこれしかないと思う」


 腕を組んで俯く。しばらくして、小さく首を振った。


 「500ポイントで奪える基地があるとは思えないよ。少ないポイントを基地に配分しても意味がないのは分かるよ。でも」

 「出来る。俺が殺せば良い」


 確かに他組織の戦闘要員を殺せば、その者に配分されていたポイントが手に入る。だが、正雄さんが自らそんなことを言うとは思わなかった。

 晴臣さんもそうなのだろう。少し驚いた顔をしている。


 「人の配置が必ずあって、必ず基地がある場所がある」


 地図が、正雄さんの指先でなぞられる。B2エリアと隣接するエリアの堺だ。

 確かに、失いたくない基地かもしれない。だが、どの様な異能があるのかも分からないのに、単身で行って大丈夫だろうか。


 「勢力も戦闘スタイルも分からない内に、それは危険だよ。基地を守れば少なくとも800ポイントになる。一度様子を見よう」

 「でも他組織は東の基地の場所に見当が付いてる」

 「そうだろうね。だから、正雄くんは2つの基地や周辺に仕掛けをし次第、霞城くんの基地へ行く。それが良いと思うんだ」


 正雄さんが攻めの戦法、晴臣さんが守りの戦法か。予想外だ。

 晴臣さんは、展開として守りに徹するしかないのだと思っていた。あの気味の悪い笑顔を見たとき、好戦的なのだと感じたのだ。

 理由は特にない。


 しかし守りの戦法でも、やはり無駄にここで過ごしていたわけではない。

 相手に認識されなければいけないという、異能『白雪姫』最大の弱点を異能『眠れる森の美女』で補う。

 遠距離攻撃が可能な弓弦さんと私は単身。


 「私は正雄さんの作戦に賛成します」


 正雄さんの作戦には危険がある。しかし様子見などという、悠長なことを言っている場合ではない。

 ルールがある勝負は、いつか終わる。今動かなければ、次の戦闘かその次の戦闘で東は終わる。

 その未来は断言出来るほど、ほぼ確実なものだ。

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