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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第2章 学びを持ち寄る場にて
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第28話 出会いは別れの始まり②

 「こちらがお部屋でございます。では、失礼いたします」


 荷物検査の後案内されたそれは部屋ではなく、建物だった。作戦会議などを聞かれてはいけないという配慮だろうか。

 市場から少し離れたところにある。そのため、喧騒もない。


 「案内ありがとう」


 明らかに正雄さんの元気はない。しかし置いて行けと言われた相手にお礼を言う元気はあるらしい。あれで塞ぎ込まれては、戦場が不安だ。良かった。

 真子さんを含む門番は不憫という他ない。いくら言葉を見繕っても、私が門番たちにしてやれることはない。


 「…東の御仁。彼女が生きてゆける道を提示して下さったこと、お礼を申し上げます。ありがとうございます」

 「見てるなんて悪趣味」

 「申し訳ございません。それも命ですので」

 「いや…八つ当たりした。ごめん」


 小さく首を振る正雄さんに頭を下げると、背を向けて歩き出す。


 あの者はこれから、見聞きしたことを誰かに報告するのだろうか。

 真子さんが南の者であるのなら、あの者も南の者ではないのだろうか。そうなると、あの者の行く末もどうなるか分からない。


 「真子さんとは、同郷ですか」


 私の質問には答えなかった。ただ、聞こえていたとは思う。聞こえないフリをしたのだ。答えてはならない事情があるのだろう。

 それ以上背中にはなにも投げかけず、建物へ視線を向けた。


 「まず自分が中の確認をしますので、ここでお待ち下さい」

 「…ん。よろしく」


 暴力行為や異能の使用が禁止されているからといって、なにも起こらないとも思えない。霞城さんと正雄さんを2人にするのは危険だ。


 「まとまって行動した方が良い。僕も行こう」


 並んで歩き出し、建物に入って行く2人を見送る。

 なんだか、嫌な気分だ。


 正雄さんは今使い物にならない。別れるのなら、これが最適だろう。しかし霞城さんの隣を歩く弓弦さんを見て、私はなにを思っただろう。


 「今からでも、なにか出来ることはないの」

 「祈りを捧げる程度でしょうか」


 つまりなにも出来ないという意味だ。

 正雄さんが言う“なにか”とは、真子さんを供養することについてだろう。無理なものは無理だ。


 「…そう」

 「ああ、なんということだ!少女ではないか」


 芝居がかった男の声が、どこからか聞こえた。反響する様な建物の類も、隠れられそうな遮蔽物もない。

 ふと視線を感じた気がし、建物を上を見た。


 「うぅーん?しかし私に気付くとは、もしややり手かな?」

 「どなたか存じ上げませんが、かっこ悪いですよ」

 「不意打ちで実力を測る。それのどこがカッコ悪いのか、教えてほしいものだ」


 その発言もかっこ悪いが、私が言っているのはそこではない。

 見つからない様にだろうが、男は屋根の上に寝そべっている。その格好は、図鑑で見た魚という生き物を彷彿とさせた。

 とてもではないが、かっこ良いとは言えない。


 「もう見つかったのですから、降りて来てはどうですか」

 「そうか、そうか、私の姿を全身見たいと言うのだな。良いだろう。降りて行ってやろうではないか」


 この人はなにを言っているのだろう。


 「とうっ!」


 案外機敏な動きをするらしい。綺麗な体勢で着地した。…猫の様に。


 「私の名は北政宗(きたまさむね)。少女、名は?」


 ちらりと正雄さんを見ると、小さく頷かれる。正しく名乗った方が良いらしい。しかし、ただ情報を与えるのも癪な人物だ。


 「名乗ればひとつ、質問に答えていただけますか」

 「タダでは教えてやらん、と。良いだろう。質問からすると良い」


 私を優先させるのか。少々変な人ではあるが、残虐性という意味では悪い人ではないのだろうか。


 「あなたの異能を教えて下さい」

 「はっはっはっ!大胆な質問だ。気に入った。しかし教えるわけにはいかない」

 「では私も名乗るわけにはいきません」


 私と北政宗と名乗った男の間に霞城さんが入る。

 建物は見終わったらしい。見たところ無傷だ。服も汚れていそうにない。安全だった様子でなによりだ。


 「ああ、なんということだ!少年までいるではないか!東は余程人材不足なのだな。嘆かわしい」

 「哀れみがあるのなら、殺さないでいただけると嬉しいです」

 「ふははっ!甘いな少年!戦場に年齢や性別など関係があるとでも?」


 今自分がそう言ったのではないか。調子の狂う男だ。


 「中へ入ろう。相手をする必要はなさそうだ。荷物を半分貸して」

 「ありがとうございます」


 差し出された手に荷物を渡す。霞城さんが持っていた荷物は建物の中に置いて来たのだろう。霞城さんは手ぶらだ。


 「うむ?少年、君は金バッヂ。少女は胴バッヂ。荷物を持つのは何故だ?」


 金と胴という色が出て来たということは、徽章のことを言っているのだろう。この島共通のことらしい。

 霞城さんは憐れむ様な視線を向けただけで、答えずに扉を開け入って行った。扉を持って正雄さんを入れると、私も入った。


 「はじめまして。遅い到着だね」


 出迎えたのは、小柄な男性だった。長い髪を後ろでひとつに結っている。


 「戦略パートの方ですか」

 「そうだよ。自己紹介は荷物を片付けて、落ち着いてからにしようね。だけど少し急いでね。今日はまだなんだ」


 にこりと笑う。その笑顔は、信頼出来そうになかった。


 「相変わらず不気味な笑顔」

 「少年少女は恭一が面倒を見ていた子なんだよね?正雄くんだって恭一と仲が良いはずだよ。慣れているはずだと思うけれど、どうかな?」

 「ボスは、あなたの様な薄気味悪い笑みを浮かべません」


 会合の際に見せる笑顔を言っているのなら、強ち間違いではないかもしれない。しかし、これ程までに酷いものではない。

 しかもボスがそれ以外に見せる様々な笑みは、どれもとても可愛らしいものだ。


 「同感だ。しかし御仁がどの様な方が分からない間に楯突くのは止した方が良いと思わないかい」

 「流石、恭一が面倒を見た子だね。僕好みに調教したくなるよ」

 「そうですか。では片付けを済ませますので、少々お待ち下さい」


 意外そうな表情で首を傾げる。霞城さんも正雄さんも、少し驚いた様な表情をしているかもしれない。どうしたのだろう。


 「楯突くのかと思ったよ」


 今度は私が首を傾げることになった。


 「調教というのは、目的に応じて訓練をするという意味です」

 「うん…?」

 「異能戦場を生き残るため、異能戦争に勝つため、あなたの好みに調教していただいて構いません」


 困った様な笑みを浮かべると、正雄さんを見る。なにか困らせる様なことを言っただろうか。


 「辞書通りにしか言葉を理解していないのかな」


 正雄さんの視線があらぬ方向へ逸らされる。


 辞書で言葉を覚えたのだから、当たり前だ。それでも、同じ言葉を良い意味で言っているのか悪い意味で言っているのかくらいは分かる。

 困ることなどない。


 「横からすみません、時間がないのなら早く片付けた方が良いと思います。先に持ち込んだ分は片付けが終わりましたので、そちらももらいます」

 「私も手伝います」


 歩き出すと、手を取って霞城さんに引き留められる。


 「君はなにもしなくて良い。君が触ると絶対に、余計時間がかかる。その光景が、僕には目に見える」

 「そんなことはありません。私の身の回りはいつも綺麗に片付いています」

 「持ち物が少ないからそう見えているだけだ。武闘本部で君に与えた部屋がたった一週間でどれだけ悲惨なことになったと思っているんだい」

 「あの部屋に元々あった物が多かったせいでそう見えただけです。綺麗にしていました」

 「必要最低限しか物が置いていなかった部屋を、ゴミ屋敷の様にしたのを僕が片付けていたんだ」

 「頼んでいません。自分で片付けられます」

 「出来ないから僕がやっていたんだ。大体、定住していない君をボスが容易く見つけられる理由をなんだと思っているんだい」

 「配属先へ行けばいます。なにを当たり前のことを言っているのですか」

 「それはそうだが、違う。君がいる場所が散らかっているからだ」

 「嘘です。散らかる様なことはしていませんし、そもそも所有している物がありません」

 「それでも君がいる場所は何故だか散らかっている」

 「そんなことはありません」

 「いいや、ある。片付けの必要がないからだと思うことにしていたが、武闘本部の部屋を見たときに悟った。君は家事をすべきではない」

 「私にも出来ます」

 「出来ない。君には無理だ。たった一日であれだけ散らかしておいて、なにを根拠に言っているのか聞かせてくれないかい」


 弾ける様に聞こえた笑い声で、ハッとした。


 「まるで、ただの子供の喧嘩だね。それか痴話喧嘩かな」

 「失礼しました」


 揃って言った霞城さんと私に、小さく首を振る。


 「賑やかになりそうだね。ずっとひとりだったから、こういうのも良いかもね」

 「あの…」


 穏やかに微笑む、その背後から弓弦さんが顔を覗かせる。


 「粗方終わりました。残りは日用品ですので、後で構わないと思います」

 「じゃあ自己紹介がてら、現状の共有といこうか」


 さっきまでの微笑みはどこへやったのか、再び薄気味悪い笑みを浮かべている。

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