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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第1章 血みどろな童話の世界へ
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第18話 白黒姫の赤い口付け①

 寝静まったボスの頭をそっと撫でる。横になって目を瞑り、規則正しく呼吸をする。まるで、ただの少年だ。


 私の部屋は隣に用意してもらった。私も寝た風を装った方が良いのだろうか。

 いや、布団に横になると本当に寝てしまうかもしれない。止めておこう。『眠れる森の美女』異能者も狙われているというのに護衛が寝るとは思わないだろう。


 私にと用意してもらった部屋へ入ると、人の気配があった。灯りの類は付いていない。何故私を待ち伏せているのか。


 「久しぶり、絢子」


 声と共に燭光が灯る。


 「姉さんでしたか。お元気の様でなによりです」

 「あんたもね。でも死んで」

 「出来ません。ボスからの命がありますので」

 「今のは嫌だって言うところよ。そんなことも知らないのね」


 互いに刃物を構える。

 ここへ来ているのが姉さんひとりなら私の元へ姿を現す必要はない。足止めか。しかしここの警備も疎かではない。入れてもあとひとりだろう。


 「そうでしたか。では言いましょう。嫌です」

 「どうしてかしら?」

 「守りたいものがあるからです」

 「へぇ、良いわね」


 次々に来る刃物を受け流していく。反撃の機会がない。


 「ところで、お名前をお伺いしても良いですか」

 「気付いてたのね。けど残念。あんたに名乗る名前なんてないわ」


 本当だったのか。手間のかかることをしたものだ。この者に聞いても理由は知らないだろうが、それも確かめるべきだろう。


 「そう言わずに。姉妹として過ごした仲ではありませんか。それとも、言わない様にとの命令ですか」

 「ええ、そうよ。本当は…」


 刃物が来る調子が狂っている。今ならいける。

 投げた髪留めが、刃物を通り抜けて相手に当たる。


 異能『赤い靴』


 「逃げたあんたが羨ましかった。あたしの方が簡単に逃げられたはずなのに」


 指示通り、刃物を置いて床に膝をつき頭の後ろで手を組む。


 「では、ここへ来てはどうですか」

 「無理よ。だって、あたしを殺さないと東は終わるわ」


 自分が『眠れる森の美女』異能者だと明かす益がない。なにか裏があるのか。


 「最期に聞かせて。楠英昭は、元気にしてる?」

 「何故それを知っているのです」

 「あの子も、あの後逃げたのよ。あんたが一緒に行こうって言ったからって」


 一緒に行くか、と問いはした。しかし行かないと言ったのに、どういうことだ。


 「言えば私の質問に答えてくれますか」

 「そうね。答えは分かってると思うけど」

 「殺しました。私が」

 「どういうことよ!」


 立ち上がろうとしたのだろうが、当然動くことは出来ない。単純な指示だ、継続時間は長い。


 「ボスの命を狙うからです。しかし誤解があった様子ですね。あなたの言っていることが本当であれば、ですが」

 「こんな嘘言ってどうするのよ!」

 「時間稼ぎにはなります。では答えていただきましょう。『眠れる森の美女』異能者はどこにいますか」

 「それは…!」


 まさか、あなたは『眠れる森の美女』異能者ですか、と聞くとでも思っていたのだろうか。

 自分なら、目の前と言う。他にいれば、そう言う。それくらいは覚えた。


 「答えなさい」

 「え…?待って、あんたまさか色が分かんないくせに『赤い靴』を選んだの。『白雪姫』なら答えさせられるでしょ」


 こいつも異能の詳細を知っているのか。いや、変ではない。『白雪姫』異能者に選ばれたのはこいつだ。この2つの異能の概要を予め聞いていたのかもしれない。


 「早く答えなさい」

 「嫌よ」


 それなら仕方がない。死んでもらった方が楽だが、いつ役に立つとも分からない。拘束して『眠れる森の美女』異能者を探しに行くか。

 布団に寝かせて枠に四肢を縛っておけば動けないだろう。


 「ではまた」


 ボスが就寝した部屋へ行くと、ぐっすり眠っていた。

 あれだけ大きな音を出していたのに。


 「恭一、起きて下さい」

 「ん…?絢子くん、どうしたのかな。一緒に寝る?」

 「馬鹿を言っていないで起きて下さい。攻撃が始まります」

 「うん、それは大変だね」


 起き上がったボスに上着を羽織らせる。普段より寝ぼけた顔をしているが、問題ないだろう。


 「侵入者1名は私へ用意していただいた部屋にて捕らえました。『眠れる森の美女』異能者ではない様子です」


 そもそも、幹部全員でここにいる必要など本来はないはずのだ。けれど目的が知れない以上、一ヶ所にいなければどこへ現れるか分からない。

 大抵の者は特定の人物が狙いでない場合、自分が動きやすい場所を襲う。武装しているだけの者ならまだしも、相手は異能者。どこへ現れるか不明。

 結局、対抗出来る者と同じ場所にいること。ここにいること。それが安全である可能性が高い。


 「捕らえた侵入者は居場所について口を割りませんでした。安心して下さい。五体満足で生かしてあります。殺さない様に、との命ですので」

 「じゃあ後で話しを聞こうか」


 『眠れる森の美女』異能者を捕らえることが出来なければ私たちは死ぬだろう。捕らえられる前提か。過大評価が過ぎる。

 でも今回はそれも納得出来る。ボスの命に、私は了解の返事をしたのだから。


 部屋を出ると、霞城さんが待っていた。


 「姿を現さなかった様子だ」

 「君が言った通り、一番広い部屋の近くに彼はいるよ。行こうか」


 糸が切られていなければ辿れたため、面倒は少なかった。

 やはり“どこかから”聞いていたのだろうか。それとも、目的の人物に触らせることが出来たのだろうか。


 「来てくれると思いましたよ」


 本当にこの者だったとは。怪しいと言ったのは私だが、何故広い部屋なのか。

 私が見た糸は全て壁から現れ、壁へ消えていた。狭い部屋の方が『眠れる森の美女』異能者には都合が良さそうだが。


 「今日は馬鹿にしていただき、ありがとうございました」

 「事実を言ったまでです」

 「それは僕が異能者だと知らなかったからですよね」


 では私を負かせないと思った者は、皆私が異能者だと気付いていたとでも言うのか。馬鹿馬鹿しい。


 「いつ異能を得たのか知りませんが、異能者である。そのことに胡坐をかいた結果が、あなたの弱さを招いたのではないですか」

 「南の者だと言うから見逃してやろうと思ったのに…!」


 東の者全員が狙いと白状したと思って良いのだろうか。


 「俺は糸に触ってないと思う。なんで」


 来ない様にと言ったはずだが。少々愛着はあったわけか。それとも、ただの責任感か。そんなものは無駄だ。


 「あなたは僕を認めてくれてると思ってました。だから殺さなくても良いようにしたのに、心の中で馬鹿にしてたなんて」

 「馬鹿にはしてない。晶くんだって、自分のこと弱いと思うはず。だから異能に頼った」


 だろうな。自分の意志で動いているとも思えない。そもそも東の下っ端が異能の本を自力で入手出来るはずなどない。


 「僕は異能を手にして強くなったんだ!僕のことを馬鹿にする東のヤツは全員殺す!これは平和のためでもあるんだ!」


 例え東が潰れたとて、この世界が平和になるはずもない。歴史書を読み漁ったから分かる。少なくとも人類が滅亡しない限り、平和など訪れはしない。

 何者かに洗脳されているのだろう。それが異能であれば簡単だが、この様子では違うだろうな。


 「では、私と手合せしましょう。あなたは私を殺しても構いませんが、私はあなたを殺しません」

 「ハンデのつもりですか。殺すつもりで来ないと殺されますよ」


 ハンデ…意味はなんだったか。時折出て来る片仮名語が分からない。辞書に載っているものを全て覚えているわけではないからな。


 「殺されるなど、あり得ません。それでは恭一の命に背くことになります」


 殺すな。殺されるな。

 珍しく命令口調だったその命に、背くことはしない。


 「私を殺してしまえば、あとは簡単なはずですよ。ご自慢の異能があって、他に異能を使う者はいないのですから。それとも自信がありませんか」

 「良いですよ。その挑発、乗ってあげます」


 挑発などしただろうか。どうでも良いか。

 刃物を構えると、顔のすぐ横をなにかが通った。異能の糸だろう。わざと外したのか。馬鹿にしているのはどちらだ。


 「細い糸を振動させています。動けば骨も切れますよ」

 「そうですか、それで私が恐れるとでも思いましたか。傷を作るな、との命は受けていませんので大丈夫です」


 種明かしが早いのは私にとって良いことだ。


 「五体満足でなくてどうやって激しい戦闘をするつもり。くっつけられるにしても時間がかかるから、五体満足で倒して」

 「はい、異能戦争隊ボス」


 制約が出来てしまった。痛いし出来れば私もそうしたいが、命と私などの願いでは重さが全く違う。


 「ところで、私の異能の正体を知っていますか」


 現れる可能性が高いと霞城さんが言った場所は全て下見済みだ。もちろん、赤色がある場所も把握している。触れそうな場所にわざと置いたが、触れてはいない。

 ほんの少し移動して、顔を薄く切る。


 異能『赤い靴』


 「知っていますよ。僕たちは同じ土俵に立っています」


 やはり糸では異能が発動しない。ある程度近づいて髪留めを当てるか、相手に流血させるか。しかし、どちらも明確な手立てはない。

 触れた感じからして、異能の糸は刃物で切れそうにない。考えている間にも糸は飛んでくる。


 面倒だ。突っ込みたい。


 ただ避けているだけでは糸が増え、移動範囲が狭くなっていくだけだ。

 けれどひとつ、いつもと違うことがある。ひとりで戦うなら突っ込んだのだろうが、今回は違うのだ。

 霞城さんになにか考えがある様子だった。今もいつの間にかいない。時間稼ぎだけなら問題はない。しかしいつまで避け続ければ良いのか。

 これも段々面倒になってきた。


 いよいよ逃げる場所がなくなった頃、相手が背を向けている壁が崩れた。

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