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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第4章 その天使に尻尾はあるか?
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第151話 秘密を知る準備は③

 弓弦さんが異能戦場へ持って行っていた物は、骨を燃やす際に全て燃やした。

 部屋には服どころか、荷物が殆どなかったらしい。いつでも消えられる様に常に準備をしていたのだろう。

 だが手紙は見つかった。つまり、どこかに服があったのだろう。


 「反逆者集団を制圧するための指揮を取った、東凛太郎という方だと私は考えています。北園満弦さんが東で主としていた方です」

 「満弦さんが主を…」


 一枚の紙には、ひとつの告発しか書かれていなかった。見付けた者が告発内容を選べる様にするためだろう。

 その告発文の束は、封筒に入れられていた。だが一枚だけは、貿易のボスからの手紙と共に入っていた。

 その告発が、機械を売るあの団体についてだ。


 『他に2名の“それ”を確認している。彼女に“それ”を教えてくれるのなら、封蝋は返す』


 あの団体が現在も存在していることは、内通者が確認したのだろう。

 弓弦さんが東へ逃亡したのは4年前。そのときからある裏の団体が、現在も存在する理由はひとつ。組織から見逃されている団体だからだ。

 であれば、監視役がいると考えるのは当然。そして監視役が“それ”を知っていると考えた。

 その理由や、なにを指しているのか。それは私には分からない。

 しかし揺るがない事実がある。貿易のボスの考えは合っていた。監視役は確かに存在しており、その福北真修は“それ”を知っている。


 『これが良識ある者の手に渡ることを願っています』


 これは告発文を他の誰かに見せる際にと、用意した物だろう。まさか手紙自体を握り潰されるとは考えていなかったのだろうか。

 もし初めに見ていた者が、福北真修でなければ…いや、そこまで見込んでのことだったのだろう。


 「満弦さんと東凛太郎さまは、どのような関係だったんですか?どんなつもりでこれを預けたんでしょうか」

 「互いに信頼し合っていました。良き主であると思います」


 弓弦さんは亡くなった。そうなってしまった今も、貿易のボスは弓弦さんの主であり続けている。だから証明するのだろう。

 殺すなどという選択が間違いだったことを。命令をした者だけでなく、少しでもそれを考えた全ての者に。

 だがこれだけ多くの告発文があれば、被害は大きい。殺したことを肯定する者が出て来るだろう。だから手紙とそのことは関係がない。


 「凛太郎さまは、こう仰ったことがあります。死んだ者の意志を確認することは不可能。その死を意味あるものにするためならば踏み付ける。ですので、利用しただけだと思います」


 本心からこんな回答を望む者はいないだろう。だが私は、誤魔化すべきでないと考えた。傷付く可能性を分かっていて、問うているはずだ。

 北に赴いた女性は私だけ。手紙の“彼女”は確実に、私を指している。

 だが私のためだけということは、ないだろう。他に目的があるはず。弓弦さんの良き主であることを、投げ出す程のなにかが。


 「私からも質問があります。ですが分からないことが多いので、質問を絞るのは難しいです。店の者から聞けなければ、とさせて下さい」

 「貸しにしておくのは少々怖い人物ですが、仕方のないことです。この話は一旦終わりにして、お茶にしましょう」


 得意気な表情で、机に備え付けられたボタンを押す。それと同時に部屋の隅から小さな音が聞こえ始めた。

 なにかしたのか。それともこんなときに敵襲だろうか。刃物を構え音のした方を向くと、福北真修が小さく笑う。


 「ごめんなさい。こんなに小さな音に反応するなんて思わなくて。しかも咄嗟にナイフまで構えられるなんて、すごいですね」

 「…どういう意味ですか」


 こういった場合の発言は、9割が嫌味なのだと誰かが言っていた。だが私には、純粋にすごいと思って口にしている様に見える。

 表情の雰囲気が、恐らく嫌味で言った者と全く違う。


 「消音設計なんです。機械が紅茶を淹れるんですよ。東の方は紅茶がお好きだと聞いて、慌てて改良しました。近くで見てみて下さい」


 椅子から立ち上がり、音のした方へと歩いて行く。

 どうやら言葉のままの意味の様子だ。今までは、作っても見せる者がいなかった

のだろう。見せることも、目的のひとつだったわけだ。

 近くまで行くと、仕組みや部品について早口で説明し出す。全く分からないが、頷いて聞いた。


 「というわけで、紅茶の完成です」


 機械が動いて、液体が注がれていく。福北真修は出て来たコップに、すぐに口を付けて微笑んで見せた。毒が入っていないことを示すためだろう。

 コップに塗られている可能性は十分ある。しかしそんなことまで警戒していてはキリがない。


 「どうですか?僕自身が紅茶を飲まないので、少し不安なんですが」

 「はい、美味しいです」

 「それは…可もなく不可もなく、という評価ですね。なにがいけないんだろう。軟水だし、温度管理も問題ないはず。カップの内側は白で、陶磁器」


 近くに開いて置いてあった本を手に取ると、床に座って読み始める。

 機械の説明をした際と同じ様に、早口でなにか言っている。だが声が小さいためよく聞こえない。

 だが目的はなんとなく分かる。美味しく淹れることを探求している。


 「私も本を読ませてもらって良いですか」

 「……はい」

 「読んではいけない本や、触ってはいけない物はありませんか」

 「……はい」

 「…私のことを愛していますか」

 「……はい」


 今はなにを聞いても、はい、としか言わなさそうだ。しかしただ待つというのも手持ち無沙汰。やはり本を読ませてもらおう。

 複数人で囲める机はひとつしかない。座っていた椅子から手に取りやすい位置にあるものなら、問題ないだろう。


 機械に関連しているであろう本しかない。諦めて一番上にあった本を開いてみたものの、なにが書かれているのか少しも理解出来ない。

 少し奥にある本も見せてもらおう。そこに読めそうな本がなければ、声をかけるしかないか。


 開いた本に書かれていたのは、手書きの設計図らしきものだった。かなりの数が書かれている。棚一面に、同じ様な背表紙の本がある。

 これらの本の全てに、設計図が書かれているのだろうか。その全てを福北真修が書いたのだろうか。だとしたら、1日にいくつ書いたのだろう。


 字が少し歪なこの頃は、幼かったのだろう。空を飛んだり、時間を移動したり、一瞬で長距離を移動したり。

 そういったことを現実にするための機械について書かれている。これらは無謀と分かっていながら、誰もが一度は願うことだろう。


 目的は徐々に現実的になっていく。今の技術では実現不可能だと判断したのか、大人になったのか。それは定かではないが、前者だろうと思う。

 福北真修は、誰かを喜ばせることを諦めてはいない。紅茶を淹れるように機械を改良したのもきっと、そう思ってのことだろう。

 なんとも愛らしい方だ。周囲の者もそう感じていて、少々なら我儘が通るのかもしれないな。


 ここからは再び大きく目的が変わる。無謀な挑戦に戻っているのだが、方向性が違う。幼い頃のそれは、生きている者が喜ぶということは同じだった。

 だがこのとき福北真修は、()()()()()は考えていなかった。己の欲望のままに、機械を作ろうとしている。


 ひとつの細胞から、全く同じ生物を生み出す機械。死者の脳に電流を流すことで意思疎通を可能にする機械。

 そして魂の存在証明。これは恐らく他人の身体に入れる機械を作るつもりだったのだろう。しかし証明は出来ていない。

 これらは広義で捉えれば、死者の蘇生なのだろう。だが直接的なそれをしようとしてはいない。全く理に反すると理解しているためなのだろう。

 次の頁にあったのは、文章だった。


 『英雄は死んだことで“現在の伝説的な英雄”になった。彼女が愛した人はそんなくだらない役割すらも全うした。

 亡くなったらしい戦闘に出向く前、彼女の荷物をこの部屋に置いて行った。散々自慢された指輪がなかったから、どこかで生きているんだろうと思う。

 愛する人を地獄へ連れて行けるような人じゃない。』


 北園満弦という人物を英雄にさせるため、殺した人物がいたという。その人物と知り合いだったのか。しかも親密そうな書き方だ。

 英雄が北を去った理由を福北真修は、良い方に解釈した。だがそうでない者ならなにが起こったか分からない。それを望んでの人選か。


 「よし、出来た。…あ。お客様を放置するなんて、申し訳ございません」

 「そうですね。しかし良い物を見ることが出来ました」

 「……どこまで読みましたか?」

 「左端のものから、死者の蘇生を諦めたところまでです。ですが内容は全く理解出来ていません」


 死者の蘇生を含めた、子供の頃の無謀な挑戦の数々を読まれた。英雄についての文章のこともある。

 そのことに対してどの様な反応をするのか、考えた。


 「勘は当たりでした。だから秘密を知っても僕らは、きっと大丈夫です」


 いくつかした想像を裏切って、福北真修は微笑んだ。

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