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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第4章 その天使に尻尾はあるか?
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第149話 秘密を知る準備は①

 北の本部へ赴くために、長時間自動車に揺られた。それは異能戦場へ赴くよりも長い時間だったが、考えてみれば当然だ。

 異能戦場は大陸の中央に建てられた。北の本部へ行くには、そこからさらに北へ進まなければならないのだから、時間を要するのは当然だ。


 「ようこそいらっしゃいました」


 迎えたのは、北銀司とひとりの男性。その男性は、福北真修(ふくきたましゅう)と名乗った。

 畜産のボス自身は家柄など、大して気にはしないだろう。しかしあまり良くない家柄の者が出て来ては、文句のひとつくらいは言わなければならない。

 体面を保つ必要があるためだ。なにも言わないということは、少なくとも悪くはない家柄なのだろう。


 応接室に案内され座ると、珈琲が出て来た。あくまでも北の在り方を突き通そうというつもりらしい。

 だがある程度は敵意が見えていた方が、やり易い。


 「長旅でお疲れでしょうから、本日はゆっくりお休みになられてはどうですか?手紙でのやり取りでは急いでいらっしゃる様子でしたが、なにか不安な点があるのでしょうか?改善に努めさせていただきます。仰って下さい」


 案内をするのは福北真修で、北銀司は立会人的な立場の様子だ。経験を積ませるつもりなら、良い機会であることは間違いないだろう。

 どの様な理由で選ばれたのだろうか。

 畜産のボスはこの言葉に対し、考える様に腕を組んで俯いた。少しすると、顔を上げて微笑む。


 「隠してもいずれ分かることですので、単刀直入にお聞きします。闇市のような場所はありますか?あれば、そこに行きたいです」

 「目が届きにくい場所はどうしてもあります。そこにある可能性はありますが…どのようなご用件でしょうか?」

 「俺にも分かりません。見せれば分かるだろう、とご丁寧に封蝋までさ押されている手紙を持たされています」


 なにも知らず使われているのが、気に食わないのだろう。少し嫌そうな顔をしてその封筒を軽く見せた。

 その瞬間、福北真修の表情が強張った。


 「特定の者に宛てられているわけではありません。しかしわたし宛ての手紙でもあります。拝読させていただきたいです」

 「なにかの団体ですか?」

 「…はい。北では機械の販売を組織で独占しているのですが、裏で機械の販売をしている団体です」


 商品は他にもあるはず。だがその多くは、市場でも売っている物だろう。

 闇市の動きを把握し、ある程度は制御が出来る様にしておく。恐らくそのために組織がわざと見逃している団体だ。

 北銀司が慌てて問い質そうとしたが、畜産のボスが止める。


 「監視役ですか?」

 「はい。機械いじりが得意なので、任されました。市場に出ていない物は、極力販売させないようにしています。薬物などの危険性の高い物は、特に」

 「分かりました。どうぞ」


 受け渡された手紙の封蝋が、開けられる。その手は少し震えている。

 その団体の存在は、一部の者しか知らないだろう。そして隠してきた。それを東にいながら知っている者からの手紙だ。緊張しているのだろう。


 「これは…流石にわたしひとりでは…」

 「なんと書いてあったんだ?」


 手紙へと伸びる北銀司の手が、思い切り叩かれた。その音にハッとして、慌てて頭を下げる。

 だがその間も手紙は手放さない。むしろしっかりと抱えている。


 「申し訳ございません。しかしこれはお見せ出来ません」

 「ただ手がぶつかっただけだ。そんなに謝る必要はない。それより珈琲ではなく紅茶を、と頼んで来てくれ。走るなよ」

 「そうですね。我々は紅茶の方が好みです。北の本部は広そうですし、ゆっくり待たせてもらいます」


 言葉以外の意味を読み取ったのだろう。福北真修は礼をし、手紙を持って部屋を出て行った。以前の私に、この意味は分かっただろうか。

 部屋の外に出る機会を与えた。しかしその名目では、時間はかからない。そこで走るな、ゆっくり待つ。そう言ったのだ。


 「時に銀司さん。凛太郎がなにか頼み事をしたそうですね。順調ですか?」

 「あまり順調とは言えませんが、進めています。もし必要でしたらお帰りになるまでに途中経過の報告を書きます」

 「結果だけで良いそうです」

 「分かりました。お時間をいただいて申し訳ございません」


 そう簡単に分かることではない。命令した者が複数いる可能性も十分にある上にそれだけを見つけ出すのではないのだから。

 心当たりのありそうな者を、全員知らせる。それはつまり、北の者全員の様子を窺わなければならないということだ。


 「ただの確認です。時間がかかることは分かっている様子でしたので――」


 扉を軽く叩く音で、言葉が遮られる。

 福北真修が戻るにはかなり早い。判断を仰ぐ者へ、事情を説明する時間もない。そのため2人には、扉を叩く者が誰か分からないのだろう。

 だが私には聞こえていた。今この部屋へ近付いて来た足音は、福北真修が部屋を出てすぐ聞こえた足音と同じだった。


 「お待たせしました。機械を売る団体についてでしたね」

 「…なるほど。事情を知らなければ、意地になって取り戻そうとも思えません。なくしたと思うことにします」

 「落とし物ですか。捜索させましょうか?」

 「真修、お返ししなさい」

 「なにをですか?」


 持たせて部屋を出したのが悪かった。畜産のボスが不注意だっただけだ。お礼の一言でも言えば言及出来たが、この調子では無理だろう。

 畜産のボスが仰った通りなくしたと思うか、武力や脅しといったものを使わずに奪い返すか。大抵その2択だろう。


 「福北真修さん、上着を貸して下さい」

 「寒いですか?でしたら部屋の温度を――」

 「封蝋を見て団体を特定出来たのは、その団体が使う印だからです。その封蝋を持っていた人物に心当たりがありますね」


 その名前を口にしてほしくなければ、上着を貸して下さい。本来ならこう続く。だが、それでは脅していることになってしまう。

 誰にも判断を仰がず、握り潰すくらいだ。他の誰にも知られてはいけない。そう考えているのではないだろうか。


 「温度が上がるまでは寒いですから、お貸しします。ですがポケットにどんな物があっても秘密にして下さい」

 「分かりました」


 上着を受け取り、ポケットを探る。畜産のボスが渡した手紙は、左の胸ポケットというなんの変哲もない場所に仕舞われていた。

 手紙の中には、さらに手紙が入っている。


 「…彼は英雄になることを、望んでいないと思うのですね」

 「分かりません。ですが用意された英雄にさせられてしまった彼が本物の英雄になることは、あってはならないと思います」

 「あなたの、その考えを尊重します。颯太さまも寒い様子です。膝に掛ける物を貸していただけませんか」


 上着に手紙を戻して返した私を、皆が驚いた表情で見ている。回収すると思っていたのだろうか。

 ひとつも変な行動はしてない。これは秘密なのだから。私が持っていて、誰かに見られることを警戒していろと言うのか。

 仮にこの約束を破るつもりがあったとしても、手紙は回収しない。


 「もちろんです。ですが急ぎのお話しがなければ、機械を売る団体の案内を先にさせていただきたいです。車内で座りっぱなしでお疲れでしょうし、その間に部屋を暖めておけます。どうですか?」


 畜産のボスは小さく息を吐き、笑顔で賛成の言葉を口にした。それ以外の選択肢などない。これは案内の対価なのだから。

 その団体に、迎えるための準備の時間を与えない。これは、普段により近い実態の確認が可能ということ。東にとって良い条件だ。

 だからこそ、なにかに利用されることは明らか。しかし、たかたが案内の対価。面倒に巻き込まれることはないだろう。


 灯台下暗しというのは、誰もが考えることなのだろう。その団体は、本部周辺に店を構えるらしい。もちろん特定の場所ではない。

 しかしそもそも店を見つけてもらえなければ、商売にならない。そのため数ヶ所回れば見つけられるという。


 着いた街で、私たちは注目を集めている。それ程までに徽章持ちが珍しいのか、福北真修の顔が知られているためか。

 どちらにしても、普段と違う様子を察知した団体が逃げる可能性がある。堂々と歩いていて良いのだろうか。もしやそれが狙いか。


 「合図の旗があるので、今日はこの街に店を出しているようです。街の者たちの視線は普段からなので問題ありません。行きましょう」


 私の考えは杞憂だったらしい。普段の様子と変わらないのであれば、福北真修が訪れたと思われるだけだ。なんの問題もない。

 …だが定期的に訪れていて、これ程までに視線を集めるものだろうか。


 「…来たか」

 「いつもの物を、倍もらえますか?」

 「初めに言ったはずだ。条件付きで特別に作ってやる、と。忘れたのか?急いで作ってほしけりゃ、情報か金を寄越せ」

 「とある物が見つかったことにより、この店は摘発されてしまいます。でも僕のお願いを聞いてくれるなら、そんなことは起こらないはずです」


 今日まで、ある程度は平等な取引をしていた。2人の今の発言からは、そう感じさせられた。それが何故、脅す様なことを言っているのだろう。

 封蝋を隠し持っていた人物。その事実を知っている人物が本家の者であること。これらは、それ程までに不味いことなのだろうか。

 いや…この笑顔は、違う。

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