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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第4章 その天使に尻尾はあるか?
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第147.5話 その声は③-2

 東凛太郎さまの質問は、簡潔でした。

 反逆者からの誘いを断った理由。侵入方法や、組織への対応。それらを聞かせてほしい、とのことでした。

 少し迷いましたが、正直に打ち明けることにしました。きっと誰かに話を聞いてほしかったのだと思います。


 組織にこのことを打ち明ければ、潜り込めと言われかねません。私にはとても、そんなことは出来ません。

 なにより、その計画はあまりにもお粗末なもの。若輩者である私から見ても失敗することは目に見えていました。


 「なるほど。賢明な判断だったと思います」

 「侵入方法なのですが…申し訳ございません。分かりません。部屋に入ると中にいて、出て行った窓をすぐ覗いても姿を確認することは出来ませんでした」


 起こったことは、まるで魔法のようなことです。しかし現在、魔法の存在は確認されていません。当時は自分がおかしいのかとも思いました。

 嘘だと思われてしまうでしょうか。その場合、私はどうなるのでしょう。


 「では最後に…」


 言葉を止めると、視線が移動しました。なにかの合図でしょうか。やはり不安になってきました。

 東凛太郎さまは野蛮でなくとも、組織の命令には逆らえません。


 「その前に、紅茶のおかわりはどうですか?あの棚からお好きなカップを選んでいただいて構いませんよ」

 「失礼ながらそれは、運試し…ということでしょうか?」

 「運?見て決めてもらって良いですよ?」


 この様子を見るに、私の質問の意図を理解されていないようです。

 いくつか、或いは全てのカップに毒が塗られているのでは。そう考えましたが、本当に厚意なのでしょうか。しかし、とぼけているだけかもしれません。


 「…ああ、そうか。ですがよく分かりませんね。使者やその護衛は、全員無事に帰っているはず。どうしてあなただけを殺す必要が?」

 「理由はいくらでも作ることが出来ます」


 殴る理由も、叱咤が厳しい理由も、私を見てくれない理由も、なにもかも後付けとしか思えません。

 私などが死んだところで、文句を言う者はいません。そういったことを見抜いて選んでいるのかもしれません。


 「よく分かりました。無理に勧めるつもりはありませんので、安心して下さい。では最後の質問です」


 仮の話しです。私が今言ったことが、事実だったとします。それでも申したことはとても無礼なことです。それは言及しなくとも良いのでしょうか。

 どういった算段なのでしょう。分からないことがとても多く、なにに警戒すれば良いのかも分かりません。


 「緑の瞳に関することで、知っていることがあれば教えて下さい」


 瞳の色…?そのような隠語は把握していません。しかし別組織で同じ隠語を使うものなのでしょうか。組織間で異なるから、隠語と言うのでしょう。

 間違えて受け取られてしまう可能性が高いですし、この状況で隠語を使う必要性を感じません。そのままの意味でしょうか。


 この大陸の大半は、茶色の瞳の者が占めているはずです。私の周囲にいる者で、瞳の色が茶色以外の者はいません。

 残りの少数の者も、茶色に近い色をしていると聞きます。

 なにが知りたくて聞いているのでしょう。


 「…あなたのことを調べさせてもらいました。蔑まれているようですが、周囲の評判は良い。恐らく、わざと軋轢を生じさせているのでしょう」

 「わ、私のことを調べる時間はないはずです。ひとりの者の主観ですか?」

 「いいえ。10人には聞いているはずです。同一人物の話しとは思えないほど食い違っています」


 反逆者に誘われた人物は、一体どのような人物なのか。そう思って調べていても不思議ではありません。

 しかし周囲の評判が良いとは、どういうことなのでしょう。動揺させるための、嘘でしょうか。


 「噂話でも、物語や歌に登場するなにかでも、どんなことでも構いません。緑の瞳についてなにか知りませんか?」

 「にっ、人間を創造した神が緑の瞳だと、西では伝わっています。それ以外は、思い当たりません…」


 大したことではなかったので、思わず言ってしまいました。

 しかし良かったのでしょうか。本当にそれが知りたかった様子です。聞いている理由が少しの想像も出来ないことに、答えてしまいました。

 西に不利になることを言ってしまったのではないでしょうか。不安です。


 「そうですか。ところで西留美さん、あなたの瞳は何色ですか?」

 「え?御覧の通り、茶色だと思いますが…」

 「…なるほど。そのコンタクトは視力を矯正する物ですか?」


 えっと…ど、どうしましょう…!質問の意味が分かりません。こんたくと、とはどのような物なのでしょう。

 視力ということは、目に関することに違いありません。しかし目に違和感はないですし、普段と変わった身支度をした覚えもないです。


 「はぁ…、本当に誰かさんと話しているようだ」

 「はい?」

 「なんでもありません。眼球に付けている物です。取るには眼球に触れることになるのですが、取っても良いですね?」

 「はい、どうぞ」


 誰かに眼球に触れられるのは、初めはやはり怖かったです。しかしもう20年近くになります。慣れました。

 そういえば記憶が正しければ、いじめられ始めたのはその頃ですね。あ…


 「お待ちください。その前にひとつ質問をよろしいでしょうか」

 「どうぞ」

 「私の瞳の色が緑だと考えてみえるようです。もしそうなら、どうするおつもりなのでしょうか?」

 「確認したいだけです」


 本当にそれだけだとは思えません。私には、東にとって重要な情報であるように思えます。しかし何故、私の瞳の色などが重要なのでしょう。

 理由を聞きたいところではあります。しかし安易に踏み込んで、お怒りを買ってしまうのも嫌です。

 ですがご機嫌取りに訪れたわけではないのです。やはり理由も聞かず見せるのは良くありません。しっかり理由を聞き――


 「真っ直ぐ向いて、目をしっかり開けて下さい」

 「は、はい」


 …と思ったのですが、流れに任せて聞く前に見せてしまいました。やはり私には務まりません。


 「やはりあなたの待遇には理由があるようです。一先ず、ここでのことは誰にも明かさないで下さい」

 「はい。あの…瞳の色を気になさる理由を、お聞かせ願えませんか?」

 「推測の域を出ませんので、はっきりしたらお知らせします」


 やはり私のような若輩者には、言えないことも多いのでしょう。今の私には役割がありますが、そうして諦めることに慣れてしまいました。


 「必ず、西留美さんに直接お伝えします」

 「…っはい。お待ちしております」


 いけません。東凛太郎さまを困らせてしまいます。でも…嘘でも、気休めでも、私を私として認める言葉を初めてもらって、涙せずにはいられません。

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