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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第4章 その天使に尻尾はあるか?
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第139話 その思いを①

 門の辺りが慌ただしい。その理由は明白。沢山の自動車が次々と押しかけているからだ。門番はその対応に追われている。

 それが始まったのは、時計の針が10と12を同時に指してから数分後のこと。近くまで来て待ち、時間を見計らって再出発したのだろう。


 予め訪問する旨を伝えていたのなら、少々朝が早くとも問題にならない。しかし突然の訪問である上に朝早く。これは無礼が過ぎる。

 そのため自分が一番に到着したいところを、我慢して時間を待っていた。

 そんなところだろう。元は同じ組織だったこともあり、根本の礼儀はどの組織も大差ないらしい。


 多くの自動車が移動することによって、振動が起こった。

 これに気付いた私は、すぐさま貿易のボスへ報告。それを聞くと、大きなため息を吐いた。なんでもこの事態は想定より早く起こったらしい。

 しかし想定していたのなら、対応の用意はしていたはずだ。


 ――挨拶という名の、ただのご機嫌取りに対策もなにもない。


 その言葉でやっと、貿易のボスがなにに頭を悩ませているのか気付いた。今朝、あの南の者が起こした問題のことだ。

 他組織の者らが顔を合わせた際、なにが起きるかは未知。しかし特定の組織から順に案内することもまた、問題となる。


 ――数名のボスで、自慢話を笑顔で聞いてやればそれで良いと思っていたが…


 自分と組むとこんな利点がある。そう言いに来るのだろうから、それは間違いではないだろう。しかしそれ以外にも目的はある。

 偵察だ。


 機械(メカニック)の北と呼ばれる北では、機械技術が大きく発展しているだろう。異能戦争で使用した機械は、高度な技術が必要だと思われる。

 南と西とはある程度の協力関係にあり、両組織に技術があることが想定される。それはつまり、少々の技術を教えることは問題ないということだ。


 呪術の南と呼ばれる南は、奪われたとはいえ今でも多くの異能を所持し、詳細を把握している。異能自体の把握も多く出来ているだろう。

 異能と暗示。これは異なるものと考えるべき。暗示を使える者の数と、その効力が分からないため危険だ。


 賭博の西と呼ばれる西には、金がある。人は金で動く。それは反逆者集団と対峙した際に、これ見よがしに見せつけられた。

 東の者に金がどう映るかのかは分からない。だが沢山あって困ることのない物、という認識の物であることは分かる。


 そう考えると、元は大陸を統治していたということ自体が少々不思議だ。しかもそれを理由にこれまで存続して来た、とでもいう様な言い方だった。

 均衡を保つ様になれば、容易に手出しは出来ない。それまでなんとか持ち堪えたということだろうか。

 そう言った貿易のボスも、本で読んだだけだろう。聞いても分かるまい。


 そんなことを考えながら、本を適当にめくった。

 良いと言うまでは、部屋から出ないように言われたからだ。しかも扉の向こうに見張りまでいる。

 外国語の絵本と外国語を訳す辞書、それからこの大陸の歴史が書かれている本。これらが置かれた部屋に押し込められた。


 私は南の者を攻撃などしない。南側も、異能戦場に私が現れたことで私の存在を認識している。混乱が起こることはない。

 にも関わらず、何故だ。これでは鍛錬も出来ない。

 しかしこうして不満を垂れていても仕方がない。先ずは歴史書を一度閉じ、表紙を開いた。一字一字追っていく。


 裏表紙を閉じ、以前ボスが仰っていたことを改めて考える。


 後世へは勝者が正しいと語られる。これは当たり前と言って良い。

 これらの行いは悪だったが、世界が良くなったため良し。そう書いてある歴史書があったとする。それを読んだ何人の者が、深く学ぼうと思うだろうか。

 しかも大義があれば悪を許すということになる。そういった観点からも、自らが正しいと発信した方が良い。

 敗者に敗者であることを自覚させることにもなる。


 勝者だけが正しいと勝者が語ってはいけない。これは先の言葉と矛盾する。

 自らの行いこそが正しい。そう勝者が発信しなければ、再度敗者らと争うことになりか…いや、違うか。

 最初に発信するのは勝者だ。だがそれは新たな争いを生まないための、宣言だ。その後、その宣言がどう語られるかは想像に容易い。

 しかし自慢気に吹聴して無理に語らせれば、それが火種となる。そのため自然と語らせることが必要だ。ボスはそれを仰った。


 この大陸の歴史は、各組織で思ったよりも違いがあるのかもしれない。

 元はどの様な組織で、何故4つに別れたのか。誰のどの様な言動が、この大きな反乱の引き金となってしまったのか。反乱を起こした順。

 其々の組織が存続することになった理由や、立役者。自分の組織を含め、組織をどの様に書いているか。


 読みたい。

 どの部分がどの程度、他組織と異なる記述なのだろう。その様に記述された理由は如何なるものなのだろう。

 時代と共に正義は変わる。それによってどこがどう改編されてゆき、どこが改編されなかったのか。

 歴史書は、民の変化をどの様に受け止めたのかの、組織の物語だ。


 策略

 悪意

 勘違い


 全てを解き明かしたい。そして歴史書の全てがまがい物だと証明したい。そこに記されている殆どは、組織によって作られた都合の良い物語に過ぎない。

 間違いを正すことが間違いである可能性は理解している。隠さなければならない真実もあるのだと、私は学んだ。真実が正しいとは限らない。

 だがそれは、なにを知っていて言うのだろう。

 なにも知らない者がそれを口にするのは、逃げだ。それに私は知って、白日の元に晒そうというのではない。ただ私が知るだけだ。


 かつてこの大陸を統治していたのは東。それが本当であれば、その頃の歴史書があるはずだ。しかしこの中にはない。

 理由はいくらでも考えられる。

 貴重な書物であるため厳重に保管されており、持ち出せなかった。一先ず現在の大陸について知るべき、などの理由で意図的に持って来なかった。

 しかしそれにしても、その頃に軽くでも触れる記述すらないのは変だ。


 この訪問騒ぎが落ち着いたら、貿易のボスに聞いてみよう。厳重管理という理由で私が読めなくとも、存在するという事実が分かるだけでも違ってくる。

 …誰かこちらへ来る。聞いたことのないその足音は通り過ぎず、この部屋の前で立ち止まった。そして軽く扉が叩かれた。


 「お食事をお持ちしました」


 時計の短針は1と2の間にあり、針が文字盤を半分に別けていた。本を読み始めてから3時間以上経っている。気付かなかった。

 1日に1食は必ずだ、と口煩い貿易のボスなら手配しているだろう。しかし違和感を覚える。ただの料理人にしては足音が静かだ。


 「必要ありません。ところで、外の様子はどうですか」

 「みな訪問者の対応に追われて、慌ただしくしております」


 誰にでも出来る、無難な受け答えだ。

 声が少し震えていて、殺気は感じられない。私がいる部屋を特定するために遣わされたのか。殺される可能性があることは理解しているのだろう。


 「…お召し上がりにならなくとも、受け取っていただけませんか?受け取ってもいただけなかったとなると、お叱りを受けてしまいます。お願いします」


 渡すことに拘るということは、食事に毒でも混ざっているのだろうか。

 食べるか食べないかは私の自由で、どうするかは分からない。しかし渡せないというのは、命令を遂行出来なかったということ。

 近くに他の者はいない。手を付けなければ良いだけだ。受け取った食事を適当な場所に置いて、読書を再開した。


 次に扉を叩いたのは、貿易のボスだった。時計を見ると、短針が6に近い場所を指している。あれから4時間以上も経過しているのか。

 外国語の本を読むことに悪戦苦闘してしまい、時間を忘れていた。

 手を付けていない食事を見て、大きなため息が吐かれた。事情はあるが、説明は出来ない。東側の者を殺そうとした者を、見逃したことになるからだ。


 「北銀司という者が、どうしても絢子と話しをしたいと言っている」

 「目的がそれであれば会います」

 「他に話しはあったが、そのために立候補したと言う。異能戦争で戦略パートを担っていた者だろ。聞いて来るとは言ったが、断るつもりだ」


 門から堂々と使者としてやって来て、役割も果たしている。私に限らず、武器を向ける様な真似はしないだろう。

 東がどの様な者たちなのか、異能戦場で多少は知った。そのため一番に訪問することに意味がないと分かっているのだ。

 しかし日付単位で遅れを取るのは、上の者が良い顔をしない。結果、遅い時間の訪問となった。そしてもうひとつ狙いがある。


 「いいえ、会います。狙い通りに動いてみてはいかがでしょうか」

 「正気か」


 この時間に訪れる者の狙いは、一点。明白だ。当然貿易のボスも気付いており、それが危険な行為であることも分かっている。

 食事とはただの会談ではない。好意的な会談だと、数時間前に読んだ。

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