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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第4章 その天使に尻尾はあるか?
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番外編 東正雄の変化

 随分と騒がしい街だと感じた。栞さんの家らしいこの建物の近くには、沢山の人が同じ場所に留まってる。すごく不思議な場所。

 連絡手段が分からなくて、突然の訪問になってしまった。迷惑に思って帰って来ないのかもしれない。もう帰ろうかな。


 「ただいま。ねぇ、どうしたの?家の周りに人が沢山いるけど、誰も目も合わせてくれない」

 「おかえり。それが、正雄さまがいらっしゃってて…」

 「誰?」


 ……………ああ、そういえば名乗らなかった気がする。しまった。どうしよう。もしかして俺、不審者かも。


 「あまり大きな声で言わないで。壁が薄いんだから。本家の方よ」

 「もしかして…いや、まさか。とりあえず会ってくる。奥の部屋だよね?」


 言いながら歩いてるのか、声が少しずつ近くなる。扉が軽く叩かれて、それに返事をすると静かに扉が開いた。

 俺を認識すると、微笑みを作る。


 「こんにちは。お待たせしてしまいましたか?」

 「そんなに。それに突然だったから。ご両親も突然男が来たからか、随分驚かせてしまって。ごめん」

 「驚いた理由は違うと思いますが…」


 恭一くんと恋人関係に近いものを築いてる。そんな娘を、突然男が訪ねて来た。それが驚く理由じゃないなら、なんだろう。

 栞さんは軽く咳払いをすると、机に置いていた物に視線を向けた。


 「それはどうされたのですか?」

 「どう思うか、正直な感想を聞かせてほしい」


 本当に正直な感想が良いのか、と確認された。それに俺は頷いた。

 そして、華道も花も詳しくないため素人の意見だと前置きをされた。そんなの俺にはどうでも良い。


 「かなり微妙です」


 やっぱり。来て良かった。


 「うん、悪いお手本みたいに良くない。だけどみんなが褒める。だから俺がおかしくなったのか、世界がおかしくなったのか、知りたくて来た」

 「…そのためだけに、いらしたのですか?」

 「ん。ありがとう。突然ごめん。あ、今更だけど、俺の名前は東正雄」


 あはは、と声を出して笑い出す。そんなに可笑しいことがあったかな。とりあえず同じようにしよう。笑っておこう。


 「自分が笑われているんですよ?お馬鹿さんだなぁ」

 「む…成人までには賢くなる。まだ3年くらいあるから余裕」

 「…え?」


 すごく驚いてる。流れからしてやっぱり俺の年齢だろうけど、いつもいつも驚かれるのはどうしてだろう。そんなに子供っぽいかな。

 服装とか髪型とか、大人っぽく見えるように頑張ってるのに。


 「成人してみえると思っていました。外見はとても大人っぽいので」

 「本当?あのね、襟足は短い方が良いって。それから――」

 「はっきり申し上げますと、そういうところが子供っぽいというか、馬鹿にされてしまう点ではないでしょうか」


 一緒に暮らす兄弟と以外はあまり交流がない。年が少し離れてるから、一緒に稽古とかをしないせいだと思う。

 苗字持ちでも東以外は話しかけて来ても、適当な褒め言葉を言うだけ。本当はどう思われてるのか、分からない。陰で言われてたりするのかな。

 本家の者は矢面に立つことが多い。大勢の前で恥をかくことがないように努力しないと。えっと…


 「今の私の発言に対しては最低限、外見“は”?と言うべきかと。言動の裏にある人の感情を読み取る努力をすべきです」

 「なるほど。そういう些細な言葉で攻撃してたんだ。ねぇ、また来て良い?」


 千年以上も前に生きた人がなにをしたか。複雑な数式の解き方。それらはいつか役立つんだと思う。でも俺に今すぐ必要なものは、それじゃない。

 栞さんからじゃなくても教われるだろうとは思う。でも栞さんが良い。


 「恭一さまがどう思われるか、考えましたか?」

 「…そっか。嫌、かも」

 「ですので、お断りいたします。いつか呼ばれなくなって今の奇妙な関係が終わりましたら、いつでもお待ちしております」


 …それって、良い意味で受け取っても良いのかな。楽しそうではなかったから、良いよね。恭一くんに、呼び出すのを止めるように言おう。

 帰ってすぐ、恭一くんのところへ向かった。


 呼び出すってことは自ら赴く手間が惜しいわけで。それはつまり、相手に大した興味がないのではないか。

 傍から見て双方が楽しそうではない。だから栞さんも自分自身も変に縛るのは止めにして、他に興味の持てそうな物事や人物を探すべき。


 出会った経緯を説明し、こう伝えた。出来るだけ恭一くんに不愉快な思いをさせないように、一生懸命考えた言葉だった。

 それを恭一くんは鼻で笑った。


 「つまり正雄くんは、こう言いたいんだね。より栞くんに興味があり、栞くんがより興味を持っている自分との交流のために身を引け、と」

 「そ、そういうことじゃ…いや、そう。栞さんとの時間を譲って」

 「ふぅん、そうだね。じゃあ本人に聞いてみよう」


 なに言って…もしそんなことが噂で広まったら、栞さんがどうなるか。本家の者を天秤にかけるようなこと。

 そうか。だからご両親は驚いた。俺が東を名乗ったから。どうしてそんな簡単なことにも気付かなかったんだろう。


 「栞くんは心を開いてくれる気配が全くない。そんな者に相手をしてもらわなければならないほど、相手に困ってはない。けれど無条件で引き下がるのは非常に癪だからね。それに選ばれることを期待する程度には興味を持ってる」


 その寂しそうな笑顔を見て、結果を悟ってるんだと思った。

 それでも引き下がれないほど、栞さんへの気持ちに期待してる。それを引き裂くようなことをして良いんだろうか。そう迷った。

 でも、その提案を受け入れた。俺も、栞さんとの時間がほしかった。噂はもう広まってるはず。傷の浅い内に、白黒付けてしまった方が良い。




                  ***




 母親が亡くなって、色々なことが目まぐるしく変わった。表向きは第七妃という立場に甘んじてたけど、裏ではそれなりに力を持ってたらしい。

 俺たち三兄弟の力を弱める良い機会。それを狙ってる者が大勢いる。

 3人全員の力が少しずつ弱まるより、誰かひとりの力が大きく弱くなるだけの方が良い。それは分かる。そのひとりに俺が選ばれたのも分かる。

 少しは変わったつもりだけど、2人の兄には及ばない。だから東泊に養子に出されることに不満はない。


 だけど、どうしても納得出来ないことがある。栞さんが南に潜入する。なにがどうしてそうなったのか、全く分からない。

 俺と婚約してたせい?事実がどうであってもそう思って、俺を選んだことを後悔してるかも。恭一くんを選んでたら、こんなことには。


 「正雄くん」


 どう呼べば良いのか分からなくなった人物が、部屋に入って来てた。扉を叩いた音は聞こえなかったけど、叩いたんだろう。

 まだこの恰好は見慣れないけど、変わらず慕う者がいるらしい。だからきっと、俺を笑いに来たんだ。周りにもう誰もいない俺を、笑いに来たんだ。


 その人物の言葉を、俺は聞かなかった。

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