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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章2部 真意の想像
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第132話 物語と真意③

 にたりとした笑顔で名指しされた海人さんを、反射的に見た。

 捕らえられた際どの様に対処するのか、予め話していたのではないか。そんなことを今更思い付いたのだ。

 私は聞いていないが、農園のボスは海人さんやスミレさんから詳細を聞いているはず。だがそのときはまだ楠巌谷は生きていた。

 異能を恐れて打ち合わせ通り話す可能性もある。嘘か本当か分からない。


 「東野悠」

 「試すようなことをして申し訳ございません。しかし他の者から聞いてみえることと齟齬がないか、確認したかったのです」

 「絢子さん、人は自分で苦労して手に入れた情報や、先に聞いたこと。そして親しい者が言うことを信じやすい。気を付けるようにね」


 2人から聞いた話しと齟齬はない。そして東野悠が語った内容は、予め用意されたものではない。そういうことになる。

 だがここまでが用意されていたものである可能性もある。

 …分からないことを疑っていては、息も出来ない。はい、と返事をすると農園のボスが続きを手で促す。

 東野悠はいつの間にか、元の穏やかな表情に戻っていた。だが先の様に語り出すことはなく、地図か紙と筆記具を要求して来た。


 「設備が整っており、今も人がいる場所があります。車と武器が隠してある場所も潰しておいた方が良いでしょう」

 「情が移ったのは楠巌谷だけ。他の者はどうでも良いというわけですね」

 「元の生活に戻るなり、本人が望むようになればと思います。ですが、どちらになるか興味はありません。それは楠巌谷とて同じです」


 どうなるかではなく、どちらになるか。殺すことで救ったと言うくらいだ。生死などどうでも良いことか。

 なんにせよ組織と反逆者集団、その双方になにが必要かは分かっている。


 反逆者集団の壊滅だ。


 もう誰にも必要がない。終わらせなければならない。

 始まってしまった理由は分からない。以前は楠巌谷の復讐心の様なものからだと考えた。だが異能を無効化する剣たった一本が、必要だろうか。

 そもそも、方法もよく分からない。まず要人だけを襲って混乱させ、そこに畳みかければ良いだけのことだ。

 本当の意味で終わるのは、本当の狙いや願いが分かってからだろう。だが一先ずそのもの自体を消す。


 「これまでに聞いた者が知らない場所があるかもしれません。情報があまりに多いと良いとは言えませんが、今はその心配はないのではありませんか?」


 ここにいる者は、使い捨ての駒の様な者が多い印象だ。そもそもそうでない者は楠巌谷が自ら集めた数少ない者だろうが。

 その事実はどうであれ、東野悠はここにいる者たちが多くの隠れ家を知らないことを知っているのだろう。そのため情報が少ないと知っている。


 「東のものと、他組織のものは大まかなものならある。後で記しを付けてもらうつもりだったけど、今頼もうかな」


 だが直近の問題は今上げた内のどれでもない。何故かすっかり、東野悠に会話の主導権を握られてしまっている。それが問題だ。


 「って言うと思った?どうして会話の主導権を握ろうとしてるのかな?」

 「そのようなつもりはございません。不快にさせてしまったのであれば、申し訳ありません」


 海人さんから合図はない。


 「そう」


 それを確認すると、どうでも良さそうに短い言葉を返した。あくまで流れを変えるためのもので、理由があるかはあまり重要ではなかったのだろう。

 もし嘘だったら、どうなっていたかは分からないが。

 農園のボスは軽く咳払いをすると、楠巌谷の本当の目的を聞いた。同じ様なことを考えたのだろう。


 無所属の集落をまとめ、まずは集落の設備を追いつかせる。武力は集めた異能の本で補う。それを第5の勢力とし、4つの組織と対等に渡り合う。

 しかし集落をまとめることも、異能の本を集めることも難航。それでも対等にこだわる楠巌谷には、悪事が出来なかった。

 南から異能の本を奪取した少し後。逆転の可能性があると言っていたが、具体的な方法は分からないという。


 次に東野悠が語ったのは、3ヶ所の襲撃についてだった。異能戦争に参加する前に本部、終了後に武闘本部近くの町と教養本部。この3ヶ所だ。

 これについて私は一昨日聞いている。同じ内容で、海人さんから合図はない。


 これが寄せ集めの限界ということだ。誰も本当のことを知らないまま、事だけが進んで行ってしまう。組織でも起こっているが、比べれば雲泥の差だ。

 寄せ集めの集団ではなく、ひとつの団体として認められる。これには、宗教観や道徳観といったものの一致が必要だと私は思う。

 目的が同じだとしても、考え方が大きく違えば内乱が起きる。そして今のこの大陸の様に、分断されてしまう。


 「異能について、なにか噂を聞いたことはあるかな?」


 畜産のボスは3年前、異能に関する剣について報告している。時期としては合致するが、剣一本と異能の本数冊でどうにかなるとは思えない。

 しかも剣の存在はそれ以前から知っていたはず。東野悠を餌に呼び出したのは、行方知れずになってすぐ。5年は前のことだ。

 だが可能性は潰しておく必要があるか。


 「…質問の範囲が広いため、お答えしかねます。誓って、とぼけているのではありません。無所属の集落に情報が回るのが遅いためでしょう。未だに異能を呪術や妖術と言う者が多くいます。そのため根も葉もない噂が沢山あるのです」


 襲って来た山賊は、私を呪術使いと言っていた。高く売れそうだとも言ったが、それは異能の本のことだと思っていた。

 言い方に不自然さを覚えたが、私自身のことなら納得がいく。確か…


 ――呪術使いか。商品にしようと思ったが、そっちの方が良い値で売れそうだ


 こんな様なことを言っていた。

 奴隷は禁止されているが、全てを取り締まれるわけではない。養護施設を装い、いかがわしいことをさせている者もいるという。

 需要がなければ供給はされない。どこにでも汚らわしい者はいるものだ。


 「道具が関連する噂はどうかな?」

 「そうですね…杖や剣、指輪を媒体にする。呪術使いの証としてドッグタグを付けている。すぐに思い付くのはそれくらいです」


 南では皆、先に小さな板の付いた大きな首輪をしていた。それで所属か階級かなにかを明らかにしているのだろう。

 多くの異能を保持しているのは南。そう勘違いしたとしても、おかしくはない。

 海人さんが、服の上からなにかを握り締めた。徽章を付けたままだ。恐らくまだドッグタグもしているのだろう。


 「今回の戦闘だけでも相当な数だったけど、その前の戦闘時も同数以上いたんだよね?そんな数をどうやって集めたのかな?」

 「数なんて、貧しい村の者たちを金で釣ればどうにでもなります。実際の人数は多くありません」


 金のために反逆者になった。

 その可能性はすぐに思い付いた。だが戦闘にだけ参加するということは思い付かなかった。まだ通貨というものを理解出来ていないせいだろうか。

 農園のボスたちは、その時々で金を調達する様な生活をしていない。そのため思い付かなかったのだろう。


 如何なる理由があろうと、一時でも反逆に手を貸せばその者は反逆者だ。組織の者に悟られない様にするだろう。

 こうして反逆者が大勢いると思わせることが出来た。

 現状に不満を持ち、改革をしようという志のある者が大勢いる。そう示すことで対等になろうとしたのか。

 だが人を集める度に思い知ったことだろう。


 誰も本気で改革などする気はない。


 反逆者集団に属している者も例外ではない。改革を一番に考える者はいなかったのではないだろうか。

 スミレさんの様に、自身の目的のついでなら良い方。西真白や北虎太郎の様に、自身の目的にしか興味のない者もいるだろう。

 海人さんや東野悠に至っては、脅されて属している。


 「闘技場で自ら命を断つ様な者たちが“実際の数”というわけですか」

 「そうした者を僅かしか把握出来ていませんので断言しかねますが、そうだと思います。把握出来ている者はみな、盲目的でした」


 あれだけの数がいて、周りにいたのは金銭目的か狂信者ばかりか。本気で改革をしようとしていた様子にも関わらず、悲しいものだな。


 「脅してまで引き入れた者や、積極的に勧誘した者は把握出来ていますか」


 前者は東野悠自身と海人さんの2名。

 後者は東忠臣、西留美(るみ)、西間スミレ、小南朝陽(こみなみあさひ)、北虎太郎、北園義満の6名。

 脅した者も含めれば、各組織2名ずつになる。人選は恐らく境遇から勧誘しやすい者や、接触しやすかった者。

 この内、東忠臣、西留美、小南朝陽の3名の勧誘に失敗。小南朝陽は非常に非協力的で、2人には完全に突っぱねられた。


 「待って。忠臣くんは4年半前に亡くなった。なにか関係が…?」


 慌てた、しかし恐る恐る。そんな様子で、農園のボスは尋ねた。

 声が少し震えている。期待している解答があるが、それが叶わないことだと察しているのだろう。


 東野悠は、静かに目を伏せた。

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