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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章2部 真意の想像
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第129話 異能者の苦しみ⑤

 ――よく気付きましたね


 そう発言をしている間も、し終えても、歪んだ笑顔を崩すことはない。そしてその表情のまま、再び言葉を紡いだ。


 「絢子さまには無理だと思っていました。他に異能者はいない様子だったので、大丈夫だと思ったのですが」


 彼の妹さんについての発言を、嘘か否か知る必要はなかった。それだけだ。

 異能の制御が出来ず、いつでも異能を使っている状態。そのことに、言われたあのとき気付かなかった私が愚かだったのだ。


 「茶化すな。いつからだ。何故黙っていた。誰が知っている」


 私の矢継ぎ早な質問に少し苦笑した後、ゆっくりと微笑む。話し出しそうな雰囲気はなく、ただずっと微笑んでいる。

 催促しようと息を吸うと、重そうに口を開いた。


 「半年くらい前からで、知っているのは絢子さまのみです。黙っていた理由は、殺す決まりだと知っていたからです。俺の異能に殺傷能力はありません。しかしなにが起こるか分からないのですから当然です。例外を作るのも良くありません」


 南海人の言葉を疑う者は少なかっただろう。

 相手が吐いているつもりの嘘が分かる。これはつまり、嘘を吐いた相手もそれを認識していることになる。指摘しなければ、逆手に取られるかもしれない。

 故に南海人が嘘を吐くことは、ない。あるとすれば周囲の者全員が口裏を合わせている場合のみだ。しかしそれは現実的ではない。


 自身の言葉はいくらでも嘘が吐ける。これを失念していたのか、想定より早いため言葉を信じたのか。

 どちらにせよ、南には異能の制御が出来ていると認識されている。


 「東でどういった決まりになっているか不明のため、黙っていたのか」

 「はい。東は異能に関する知識があまりないのですね。そして殺すという選択をすることに、ひどく躊躇いがあります」


 それが分かったため、私に問われて言ったということか。

 誤魔化さなかったということは、異能戦場から無事戻れたら言うつもりだった可能性が高いか。ここでは異能を酷使した。そのせいだと言えば良い。

 指摘通り、東には異能に関する知識がない。南海人の言うことを信じるだろう。


 「理由は分かっているのか」

 「今のところ酷使という説が一番有力です。次に心理的要因。適正という可能性も捨てきれない様子です」


 その異能や、異能自体への適正。それが高ければ高いほど、異能を制御可能な期間が長くなる。そういうことか。

 異能を使うには、特殊な本を読む必要がある。そういった親和性のようなものがあったとしても不自然ではない。


 「心理的要因というのが、よく分からない」

 「同じ異能でも使用者によって時期が大きく異なることから言われ始めました。個人によって尺度が異なるものなのではないか、という推測からです」


 異能自体や異能を使うことに対して抱いている感情といったところか。

 だが危険のあるものを好んで持ちたがる者など、あまりいないだろう。異能者全員が心理的に拒絶する可能性もある。

 持たせて殺して持たせて殺してを繰り返していれは、人が減っていくばかりだ。それに異能について知れることは減ってくるのではないだろうか。


 …いや、最初から異能について知っているとは限らない。異能の本がある、あの部屋に連れて行かれたのは突然だった。

 それは私だからだと思っていたが、私だけではなかったとしたら。


 「どの様にして手に入れた」

 「突然、プレゼントだと渡されました。もう絵本を読むような年頃ではなかったのですが、当主からだと言うので仕方なく一度読むことにしたのです」


 狙った役割をさせたい者には手渡しなのか。つまり、あのときはまだ私に担わせたいことがなかった。

 それなら読ませないでおけば良いものを、何故わざわざ。


 「それまで異能については知らなかったのか」

 「はい。知っていたら警戒して読まなかったと思います」


 それもそうだ。異能の存在を知っているのなら、警戒するのが当然。突然の贈り物を不審に思うべきだ。

 そうでなくとも年齢に合わない贈り物など、不自然極まりない。

 いくら当主とはいえ、実の息子。会いたいと申し出れば、それを無下にはされないだろう。そうされないためもあって、ひた隠しにされているわけか。

 しかも異能の内容によっては、知られていては不便なものもある。


 「受け取ったのは、いつのことだ」

 「4年前です。相当酷使しているので、いくらなんでもそろそろ限界だと思われている様子なのです。ですので正直、助かったと思っています」


 なるほど。それで初めから東に協力的だったのか。

 もちろん逃げることが難しいという判断もあっただろう。だが東野悠とは違い、南海人は御用人でない。戻れる場所はあった。


 「あの頃だな」


 何気なく言った私の言葉に、明らかに顔を青くした。迂闊だった。南海人の軽口が冗談にならないことと同じだ。

 地下での出来事を良く思っていないのは、私だけではない。


 「恨み言ではありません。軽はずみな発言でした。すみません」

 「謝らないで下さい。貴方に謝られたら俺、どうしたら良いのか分かりません。恨んでくれた方が、ずっと楽です」


 恨まれ続けることで、贖罪をしている気になっているだけに過ぎない。だが今は少し、そう願う気持ちも分かる。

 弓弦さんはあのとき、こういうことを言っていたのかもしれない。


 「では私は謝り続けましょう。あなたはなにも忘れることなく、私を手助けしてくれれば良いのです」

 「…まさかそんなことを言える方に成長してみえるとは思いませんでした」

 「懲りずに説教していただいた方々のおかげです」


 軽く微笑んで、視線を扉へ向ける。そして私に戻した。

 言葉の意味を汲んで、主従関係の様なものを結びはしない。だがそれに等しい関係となったことを示しているのだろう。私の言動を注視している。


 「海人さんは休んで下さい。人といると無意識の内に異能を使ってしまうのであれば、ひとりでいる方が良いでしょう」

 「ありがとうございます。そうさせてもらいます」


 扉を開けると、肩を僅かに震わせる。海人さんは気付いていなかったのか。

 異能の制御が出来なくなる理由を答えている途中から、そこで聞いていた。佐治さんへ渡して、すぐに来たのだろう。どうやら巻き込まれたいらしい。


 「驚かせてすみません。内容は聞いていませんので、安心して下さい。耳を塞いでいても聞こえるような大きな音がしたらすぐに行けるように、ここに」

 「そうですか」


 そのまま部屋を出て行ったということは、嘘ではないのだろう。嘘であれば指示を仰ぐため、振り向くはずだ。


 しかし彼はお人好しだな。巻き込まれるかもしれないと分かっていて、立ち聞きに見えることをするとは。

 いや、ただの世話好きか。そうでもなければ私に説教などしないだろう。


 「心配をかけました」

 「大してしていなかった。2人とも比較的落ち着いていたからな。それに大丈夫だと言った。だから言った通り、念のためだ。だが今は心配している」


 私の両頬をそっと包んで、顔を上げさせる。声から想像出来る通りの、心配そうな表情をしている。


 「2人して顔色がすこぶる悪いんだよ」

 「問題ありません。休めば大丈夫です。私も佐治さんが書類を持って来てくれるまでは休みます」

 「…どういう予定か知らねぇけど、詰め込み過ぎなんじゃねぇの」


 無理がないとは言えない。だが多少だ。そして原因ではない。

 霞城さんや弓弦さん、そして彼の言う通りだった。これまで問題がなかったからと言って、これから問題が起こらないわけではない。


 「聴取は明日で終わりです。戻って報告を終えたら数日の間、休みをいただこうと思います。それまでは、このままでいきます」

 「そうか。くれぐれも、無理をするんじゃねぇぞ」


 優しい人だ。

 海人さんの言う通り、私の周りには何故か世話焼き屋が多い。そのせいで慣れてしまっていたが、こうして声をかけてくれること自体が優しさだ。

 そして、私の言うことを信じて尊重してくれる。


 「はい。ありがとうございます」

 「子守歌でも歌ってやろうか?」


 眠るのなら、コンタクトを外す。佐治さんが訪ねて来た際、すぐに対応が出来るよう傍にいてくれるという意味だろう。

 世話好きで、頭がおかしいのかと思う程優しい人だ。


 「それなら、物語を聞かせてもらえませんか」

 「文字の読み書きは出来るだろ。大体、本なんかねぇよ」

 「覚えている範囲で構いません。物語というものを読んだ経験が殆どないので、聞かせてもらいたいです」


 文句を言う彼が開けた扉は、私に割り当てられた部屋のものだった。コンタクトを取る様に言うと、布団の横に椅子を持って行って座る。

 突然無理を言ったにも関わらず、応えてくれるらしい。


 「どういうものが聞きたいとかはあるのか?」

 「はい。『浦島太郎』と『ハーメルンの笛吹き男』と『赤い靴』です」


 『赤い靴』は、物語自体は知っている。異能の本の内容は物語であり、異能者本人には読めるからだ。

 だが一般的にどの様に広まり、解釈されているかは分からない。


 「随分雰囲気の違う話だな。まぁいい」


 軽く布団を叩くと、微笑む。題名を知っていて内容を知らない理由は、そうすることが当然だと言う様に聞かなかった。

次話の第130話からは火土の週2回更新に戻ります。

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