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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章2部 真意の想像
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第124話 異能者の苦しみ①

 翌日の朝早くから、反逆者集団の者たちへの聴取が行われた。

 まずは3点。名前、過去属していた組織又は現在所属している組織、楠巌谷の意志を継ぐ気があるか。


 嘘だろうと、意志を継ぐ気があると答えた者は殺す。そんなことを敵に言う愚者でも、後でなにが起きるか分からない。

 意志を継ぐ気がないと言っても、それが嘘であれば殺す。これは当然だ。


 そうは言っても、滅多なことでは殺す様なことにはなるまい。

 ここまでは一種の世間話の様なものと言っても良いだろう。本題は2点。反逆者となった経緯と、拠点としている場所や他の反逆者がいる場所だ。


 反逆者となった詳しい経緯は当然聞かず、大きく4つに分類する。

 楠巌谷の言う世界を本気で目指しているのか。楠巌谷に脅されたのか。それとも組織に命令されたのか。

 この3つに当てはまらない場合、その他とする。その場合大抵は金や食料など、生きるために必要な物を得るためだろう。


 初めから選択肢を4つにして聞けば、まずは選択肢の中から答えるはずだ。詳しいことを語り出しても、こちらが部屋から出て行けば良い。

 これで時間の短縮が可能となる。

 他にも聞かなければならないことはあるが、応急処置の様なものだ。


 今日聴取をした者たちを3人1組にさせる。そこに東の者がひとり付いて、瓦礫の撤去や設備の回復、建物の掃除などをさせる。

 いつまでも閉じ込めておいても、食糧を消費されるだけ。


 3人であれば監視の目が行き届きやすく、有事の際の対応も可能。怪しい行動を密告する利点を提示することで、互いに監視させることも出来る。

 付ける者は交代で2名。それ以外の者とは接触させない。そうすることで、情報のかく乱や漏洩を防ぐ。


 南海人たちの到着を待つ間に、農園のボスと考えたものだ。

 元より、反逆者集団の数が多いことは分かっていた。貿易のボスに進言したものと大差ない。


 質問者は南海人の異能を知っているという理由で、佐治さんが選ばれた。私は聴取の書き取りをする。

 南海人は異能に集中出来るよう、そういった役割はない。

 だが手ぶらの者が同行するというのも少々不自然だ。変な勘ぐりを入れられない様にするため、私と同じ様に紙の束を持って聴取に当たる。


 赤い嘘だった場合は、紙に適当になにかを書く。青い嘘だった場合は、筆記具を回す。緑の嘘だった場合は、足首を回す。

 それぞれ優しい嘘、ただの嘘、その間と言っていたな。


 ひとり目の聴取を終えると、南海人が大きく息を吐いた。


 「絢子さま、この者とは息が合いません。俺に直接話させて下さい」

 「初めてで息が合うと思うのか。最初は不便に感じるかもしれないが、後のことを考えこの方が良いという判断だ。余計なことに体力を使うな」


 異能には限界がある。

 それは現象についてだけではなく、使用回数に関しても言えることだ。集中力を必要とするため、続けて無制限に使えるわけではない。

 だが状況は刻一刻と変わって行く。いつまでも異能戦場に留まっているわけにはいかない。早く戻らなければ。


 ボスの元へ、早く。


 周囲の探索に、少々の危険があることは確かだ。だがそんなことで南海人を待つなどという提案をした私が愚かだった。

 あの後農園のボスが出した結論は、周囲の探索だった。


 ――酷なことを言うかもしれないけどね


 私たちを集めると、少し言いにくそうにそう切り出した。


 ――戦闘員の替えなんて、いくらでもいるのが現状


 分かっている。5隊でいつ誰が死のうとも、なにも変わらなかった。

 余程の要人でない限り、組織にとって何者の死も平等に些末なものだ。数としてすら、その死を覚えていてはやれないのだ。


 ――だけど時間はなににも代えられないからね。無駄には出来ない


 その手は震えていた。戦闘の指揮を取るということの重大さを、やっと知ったのかもしれない。


 今回の場合、ひとつの判断が大陸の運命を左右することになりかねない。そうでなくとも、人が大勢死ぬかもしれない。

 重圧に押し潰されそうになっているのだろう。

 だが指揮を取ることは今、農園のボスにしか出来ない。力になることや助けることは出来ても、代わることは出来ない。


 農園のボスは、震えた手を隠そうとはしなかった。それを私は、未熟さへの許しだと思った。


 ――こんなに平等なのに、非情で無常なものはね……他にはないんだよ


 だが、この言葉を聞いて違うと思った。

 悩み考えている間にも、刻一刻と時間は過ぎて行っていた。いくら不慣れなこととはいえ、優柔不断な自身を呪っていたのだろう。


 あの震えは恐怖の様なものではなく、怒りの様なものだった。


 「承知致しました。ご配慮感謝致します。ですが午前中に改善されないようであれば、検討していただけませんか」

 「佐治さん、分かりましたね。最も負担のかかる南海人に合わせて下さい」

 「相手のリズムもあります。そんなの無茶です」


 甘えたことを言っている。

 そう感じるのは、私に余裕がないからだ。早くボスの元へ戻らねば。そう慌てているからだ。

 それが分かっているのなら、自身を落ち着けるのは簡単だ。


 なにを言うべきか。なにを言えば良いか。


 「腑抜けたことを言うな。貴様は知り過ぎている。そして後ろ盾もない。使えないとなれば、どうなるか分からないのか」


 生き残る自信がないために、弓弦さんを異能戦争へ推薦した。佐治さんはそう告白した。これはつまり、死ぬことに恐怖心を抱いているという証拠だ。

 あまりしたくはないが、これが一番早く効果があるだろう。


 「当然これは可能性のひとつに過ぎない。貿易のボスの性格を考えれば、起こらない可能性の方が高いだろうとは思う。だがなにが起こるか分からない」

 「それは…」


 予想通り、言葉を詰まらせ俯く。

 そうしていたのは数秒だった。小さく息を吐くと顔を上げる。その表情は、覚悟を決めた様なものだった。


 「どうしたら合わせやすいとか、ないの」

 「まずは相手を自分に合わせさせること。少しゆっくりめの方が良い。細かいことはそれが出来るようになってからだね」


 常に一定であることは、基本中の基本だ。南海人も心得ているらしい。

 その時時の気分で振る舞いや呼吸が変われば、合わせにくいのは当然。弓弦さんの戦闘能力を高く評価した理由について話した際、それは言った。


 「やってみる」


 もう少しくらいは揉めるかと思ったが、案外簡単に頷いた。なにか思い出したことでもあったのだろう。

 次の扉を開けた。




                  ***




 10人こなした頃には、相手を自分に合わせさせることが出来る様になっていた。数をこなす度に、南海人との呼吸も合ってゆく。

 やがて頭打ちになり、達成感を得られなくなっているのは目に見えて分かった。


 しかも闘技場で交戦し、武器を置いた者の大半は脅されていた。

 嘘を吐いても、暴れても、意味や得がないことが分かっているからだろう。素直に聴取に応じる者ばかりだ。嘘もない。


 「あなたが反逆者になったのは何故。楠巌谷の言う世界を目指しているからか、楠巌谷に脅されていたからか、組織に命令されたからか。それとも、この3つには当てはまらないか」


 同じ会話が繰り返されるばかりで、飽きることにすら飽きてしまった。それでもまだ今日予定していた聴取は終わらない。

 だが、事態は動いた。


 「脅されていました」


 足首が回された。


 「分かった。次の質問」


 相手はため息を吐いたが、気を緩める様子はない。一先ず信じてもらえたようで安心して吐いた、という体なのだろう。

 引き続き素直に聴取に応じる素振りを見せている。


 「あなたが反逆者になったのは何故。楠巌谷の言う世界を目指しているからか、組織に命令されたからか。それとも、この2つには当てはまらないか」

 「あの…?」

 「質問に答えて」


 強く言うことはなく、あくまで冷静に言う。だが視線は鋭い。南海人の異能を知らなければ、佐治さんが嘘を見抜いた様に見えるかもしれない。


 「その2つには当てはまりません」


 南海人は動かない。

 嘘ではないということは、脅されていた対象が違うのだろう。だから本来、過去形でもない。それが緑の嘘として認識されたのかもしれない。


 「そう。誰に脅されて反逆者になったの」


 驚いた表情をしたが、一瞬で暗くなり顔を伏せる。言えばどうなるか、と不安に感じているのだろう。

 最早組織だと言っている様なものだが、その口から聞かなければならない。


 「人質でも取られて、心配なのかな。必ず探し出すと約束は出来ないけど、探すように説得する。僕たちはあなたを責めたいわけじゃない」


 評価のひとつの基準である徽章をしていない者の言葉だ。言うだろうか。私がなにか言ったところで、所詮は銅の徽章。

 南海人がなにか言うかもしれない。見ていた方が無難か。


 「……直接お話した方の本意ではないと思います。ですので、その方に危害を加えないと約束していただけませんか」


 洗脳か。だがそれなら何故、脅すなどという手段を取った。


 「暇を見つけては街へ来て、街の者と笑顔で交流していたんです。それが偽りの姿だったとしても、その時間が消えてしまうわけではありません」


 この者、本気だな。こればかりは異能など必要ない。3人で頷き合った。


 「約束する」


 これまで口を開かなかった、金の徽章をする者が重く発した言葉だからだろう。ほっとした表情を見せる。


 「西文という方です」


 西の趣味の悪さには、反吐が出そうだ。

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