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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章2部 真意の想像
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番外編 変わらない気持ち

 おかしい。調べれば調べるほど、おかしい。


 4隊の隊長になって、やっと3隊の者たちと会うようになった。そして目の当たりにした。3隊と4隊には待遇の差があり過ぎる。

 最初こそ、それだけ役割が違うのだと思っていた。だが、恐らく違う。


 嗤われているような視線。

 時折わざとらしくヒソヒソと聞こえる隠語。


 帳簿上、4隊とそう変わらないはずの待遇。


 行き着いた結果は、賃金の搾取。

 だが俺が集めることの出来た情報だけでは証拠として弱い。上の者へ訴えたところで、もみ消されるだけに決まっている。最悪、俺自身が消される。

 だが幸いなことに、俺には他に方法がある。


 南についての定期報告のためボスに会うとき、直接耳に入れてしまえば良い。


 もちろんこんな弱い証拠では、すぐに動けはしないだろう。だが弱くとも、証拠は証拠。後になにか変わるかもしれない。

 なにもしないよりは、ずっと良いはずだ。


 「やぁ、最近なんだか忙しいんだってね?ご苦労様」


 3-D隊長…こういうときだけ仕事が早いんだな。


 「はい。隊長業務にすっかり慣れて、時間が作れるようになりまして。ですので仕事の合間に、歴史などの勉強をしています」


 資料室には庶民には珍しい歴史書がある。それと同時に、出動記録や武器の管理表なども保管されている。

 苦しい言い訳ではあるが、資料室に出入りしているという事実はなくならない。


 「親切にしていただいているおかげです」

 「それは良かった。甲斐があったよ。ところで、5-Dに目をかけている()がいるらしいね?」


 分かりやすい脅しだ。


 襲ったところで、南なら返り討ちにするだけ。

 ボスが招いた者に下手なことをして露見すれば、死ぬのはどちらか。そんなことは火を見るよりも明らかだ。


 上隊させないという意味だろうか。

 いいや、無理だ。3隊隊長は人事権など持っていないはずだ。それとも、権力のある者が深く関わっているのだろうか。


 「なんでも、とても強いんだとか。肩がぶつかっただけで殺されるかと思ったと恐怖心を口にしている者がいたよ」


 …そういうことか。逆だ。

 問題にさせないために脅しているのではない。問題になるようなことをすると脅しているんだ。

 いくらボスが迎えた者といえど、組織の者を4,5人殺せば問題になる。恐らく証言者を用意して、その者たちに落ち度がなかったことにするつもりだろう。

 南に手加減というものが出来れば良いが、無理だ。


 問題になったとしても、南は特になにも思わないだろう。それに、そこまで大きな問題になるとも思わない。

 だが、脅しを実行する気があると示すためだけに、人が死ぬかもしれない。


 俺の性格なら、この脅しには十分な効果があるだろう。

 こういう小賢しいことが出来るから3隊まで来られた。そして、こういう小賢しいことしか出来ないから3隊から出ることが出来ないんだろう。


 「そうでしたか。気を付けるように言っておきます」

 「よろしくね」


 その日以降、資料室に入れなくなった。

 それまで心付けを渡して入れてもらっていた者が、突然異動になった。他の者にと思ったが、誰も首を縦には振ってくれなかった。


 脅した後に関わった人物を不自然に異動をさせる。そうすることで俺は、3-D隊長と人事の者が繋がっていることを認識する。

 飛ばされるかもしれない。そう考えさせ、思い止まらせる算段だろう。

 知らない者の命より、正義感が勝つ可能性を考えたわけだ。事実、少しはそれを考えたために資料室へ行ったのだから。


 持ち出せた証拠は多くない。足りない部分を悪い推測で補い、難癖を付けているようにしか見えない。

 こんなものでボスを動かすなど、夢のまた夢だ。


 「諦めるしかないのか。少なくとも、今は」


 口に出してしまうと、無力さがよりいっそう襲ってきた。必死で平静を保っていた心が、荒ぶるのを感じる。

 それでつい、机にあたった。




                  ***




 機会のないまま編制組替の時期になり、南は5-Aに異動することになった。そうなると必然的に、ボスとは顔を合わせなくなる。

 告発の機会がますますなくなってしまう。


 だがそれよりも、南が上隊しなかったことが気になる。5隊隊長を経験せずに4隊所属になる者も多い。指揮には向き不向きがあるからだ。

 南に指揮は向かない。上隊出来る成果はあるはず。圧力だろうか。


 「上隊、残念だったな」

 「いいえ。お話はいただきましたが、お断りさせていただきました。私は5隊以外へ行くつもりはありません」


 驚いた。だが、南らしいとも思った。10ヶ月も元に過ごせば、表情も声色もない相手からでも見えてくるものはある。


 「そうか。死ぬなよ」


 一瞬だけ、瞼を普段より少し大きく開いた。理由を問わず、すぐ受け入れたことに驚いたのだろう。

 あまり理解出来ることではないことは、南も分かっているということだ。俺も相手が南じゃなかったら理由を聞いた。


 「はい」

 「それから、食生活をちゃんとしろ。お前にダイエットは必要ない。あといい加減通貨のやり取りも覚えろ。最後に睡眠。抜き打ちで見に行くからな。良いな?」


 コツコツ言わなければ変化の兆しもない。それが分かってからは、ストレスにならない程度にしつこく言っている。

 本当は栄養に関しても心配だが、まずは食事の習慣からだ。食べないにも関わらず食事の内容について言っても仕方がない。


 南は不自然に片仮名を使わない。苦手なのだろう。

 ダイエットとしつこく口にしていれば言葉の意味を調べるだろうと思い、言い続けていた。そして偶然にも、目論見通り調べているとことを目撃した。

 そのとき拒食症などの危険性について知ったはず。しかし食べる量が増える気配は一向にない。


 コンタクトのことはひた隠しにしている様子だ。

 心配だからといって隠し事を安易に口にして、踏み込んでしまって良いものなのだろうか。そう悩んで、ずっと言えずにいる。


 「…はい」


 編制組替からしばらくは、隊を離れることが出来なかった。

 1年間隊長を務め隊長業務に慣れているといえど、隊員が大きく変わった。片付けても片付けても、仕事は増える一方だ。

 しかも3-D隊長も変わっていない。目を付けられたままで、仕事がしにくい。

 俺の監視役という名目で、また上隊出来なかったのだろう。それを自分にしか出来ないと思い込んでいるに違いない。不憫な者だ。


 1ヶ月が経ち、やっと時間が作れた。昼時を狙って5-Aへ向かう。

 やはり南はなにも食べていない。


 「こんにちは」


 察知能力の高さは相変わらずで、声をかける前に振り向いた。


 「南、昼はどうした。あれほど食べろと言い続けただろ」


 その返答も相変わらずで、抜けたものだった。久々の言葉に思わず笑い、南が死ぬまでは南を守ろうと決めた。

次話の第124話から第129話まで土曜更新のみになります。

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