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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章2部 真意の想像
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番外編 杏と暗褐色の少女歩兵

 私には、少し前から気になっている人がいる。

 5-A隊に異動してすぐ、私は目を奪われた。


 聞くところによると、5-Dで活躍したらしい。

 4-Dは隊長が変わってからの活躍が目覚ましい。両隊長は今回の編制組替で上隊こそしなかったけど、その実力はボスの知るところだって聞く。

 噂を聞いた者たちは、みんな本当かどうか疑ってる。だけど、私は信じる。


 消え入りそうにも関わらず、近づくと鋭い殺気を向けて来る。

 あれが本物じゃないって言うなら、なにが本物なの?


 「お疲れ、南」

 「お疲れ様です、………」

 「杏だよ。いつになったら覚えてくれるの?ま、覚えようとしてるんだから進歩したって思っておくよ」


 私の言葉に適当な返事をして、パンを千切る。

 いつもの硬いパンで、それ以外を食べてるところは見たことがない。ジャムもいつも林檎。好きなのかな。


 「出動命令だ!3分以内に整列!」


 慌ててパンを口に入れて整列。簡単な作戦が告げられ、戦地へと向かう。

 今回もやることは反勢力の鎮圧。

 武力のある反勢力がひとつの町を占拠してるらしい。ここからは少し距離があるけど、そんな小隊が出向くくらい武力があるってことになるのかな。


 南と配置が近い。その実力をこの目で見る良い機会。


 ……だったはずだった。

 それがどうして、こんなことに。だって、今までは簡単に片づいてたのに。念のためってくらいだと、そう思ってた。

 それなのに、周囲にあるのは崩れた建物と死体ばかり。


 町が壊滅している。


 そんな中でも南は全く戸惑いを見せず戦った。

 瓦礫を次々と赤黒い色に変えていく。そしてまた鮮血が舞う。


 「ち、違う…こんなはずじゃ…」


 そもそも武闘組織なんて志望してなかった。早く片付けて、早く上隊して、早く他の組織へ。こんなところにいたら、いくつ命があっても足りない。

 生き残ったのは、いつだって運だけ。それなのに、配属なんてところで二度も運が悪いなんて。


 この間一緒に試験受けた中に、若くて綺麗なうちに死にたいとか言ってた人いたよね。ほら、今なら死にたい放題だよ。

 だから代わってよ、ねぇ。


 でもお前ら、若くても綺麗じゃないから駄目だね。


 私になら出来るよ。だって、綺麗だって言われてきたんだから。自分でも周囲と比べて綺麗だと思う。

 自信過剰でも良いでしょ。それを言いふらしたり、態度に出したりして、他人に迷惑かけてるわけじゃない。


 でも私は長寿を願ってるからさ。だから本気で戦わなくちゃ。


 だから。さぁ、ここからが本気。本番。


 綺麗に血しぶきを舞わせて。

 血で瓦礫を綺麗に染めて。

 醜い作戦を立てる小隊長が死んだから、綺麗な作戦を私が立てて。


 全てが綺麗になっていく。




                  ***




 南は異能戦場へ行って戻って来ると、東の本部にいる者を襲った。


 ずっと眠ってたっていうのが心配だったのは嘘じゃない。でも単純に、以前より綺麗になってた南に会いたかった。それが一番だった。

 それなのに、雰囲気が随分丸くなってた。


 純粋に、驚いた。


 あの綺麗な南はどこへ行ったの。

 なにが南を変えてしまったの。


 本部の者に刃物を振る南は、確かに綺麗だったのに。


 そう思ってた。でも違ったのかもしれない。確かに、少し変わってしまったのかもしれない。でも根本は変わってなかった。


 だって、教養本部で刃物を振った南はとても綺麗だったから。以前よりも綺麗になってたから。完璧に近い綺麗さがあったから。

 周囲の空気が、周囲の物が、綺麗になっていく。赤く、赤く。


 ――だからあなたたちは戦闘自体の力が高くても3なのです


 それはそうだよ。スイッチが入ってないときは、その辺のへっぽこより少し強いくらいだからね。

 南は私を強いと思ってくれてるみたいだけど、私は強くなんてないよ。


 ――発揮する力が一定ではないのです


 大抵はすぐ、そのスイッチを入れることが出来る。でも出来ないときもあるし、切れることもある。それだって、いつ起こるか自分でも分からない。

 だけど良いの。私の目的は強くなることじゃない。だからそれで良い。


 ――悔しい


 男の言葉が、気を抜くと浮かぶ。


 そして同時に、怒りが湧いてくる。

 綺麗でもなく、綺麗に出来ない者が、なにが悔しいって?


 あんな男どもと比べられるなんて、気分が悪い。無駄な動きが多い男と、有能なつもりの男と、昨日来た教養本部の者。

 そしてなにより―――


 南が死を悼んだ男。


 あの男は最初から気に入らなかった。

 特に理由はないけど、南の変化があの男のせいな気がしたから。現に、あの男といる南は少し穏やかな気がした。


 そんなのダメだよ。南には馴れ合いなんて必要ないんだからさ。

 元の南に戻って。


 でもその様子を私には見せないでほしい。

 だって、一応は変化するってことになってしまう。そんな南を、私は絶対に見たくないの。孤高で綺麗な南でいてほしい。


 叩かれた扉に返事をすると、本部の男が部屋に入って来た。


 「今良いか?」


 面倒だけど、人付き合いはどうしても必要。生き残るかは分からないけど、一応本部の者だから適当に良い顔はしておかないと。

 にこりと笑って見せる。


 「うん。どうしたの?」

 「南のことだ。良かったよな。幾分かは少女らしくなった」


 はぁ?なに言ってんの。頭沸いてる?


 「…やっぱりそうか。茶色い瞳に黒い髪という、外見の特徴も合う。君が暗褐色の少女歩兵だな」

 「えっと…?その人って随分昔から有名なんだよね?私は3年前に入っただけだからさ。それに茶色い瞳に黒い髪なんて人、沢山いるよ。違うって」

 「死んだんでしょ?とは言わないんだな」


 追い返せば良かった。それに、もしそうだったらなに。本気で戦闘してないとでも言いたいの。

 暗褐色に染まる少女歩兵が強いなんて、誰が言ったの?


 「南をその名前で縛るのは止めてくれ。あの子はきっと、普通の少女として生きて行けるんだよ。俺はそう信じたいんだよ」


 やっぱり頭沸いてたか。無理だよ。縛ってるのは私じゃない。それに南が普通に生きて行けるはずがないんだから。


 「きゃー!止めて!来ないで!」

 「は?おい、なに言って――」


 詰めた距離を今度は少し取ると、膝から崩れ落ちた。

 でもすぐに鋭い視線と共に顔を上げる。おかしいな。結構深く刺したのに、どこからそんな気力が湧いて来るんだろう。

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