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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章2部 真意の想像
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第116話 言動の責任④

 ぎこちない動きで顔を上げ、農園のボスの視線の先を見る。そこには冷たい視線を向け、刃物を構えた鹿目さんがいる。


 「へっ…?」

 「気付くのが遅い。殺そうかと思ってしまった。まさか、お前たちのような者に尻込みしていたとでも思っているのか?」


 やはり作戦だったか。

 この者たちがなにか知っている様には思えない。一体何故だ。やっと見つけた、武装している者だからだろうか。


 「さっき一緒にいた男のところへ案内しなさい」

 「知らない…!」

 「じゃあ――」


 奪った銃を構えている農園のボスが、にやりと笑った。引き金にかけている指に力が入れられてゆく。


 「本当だ!本当に知らないんだ!殺さないでくれ!」

 「まだ殺さないよ。大丈夫。正直に答えた方が長生き出来るからね。ここであの男となにをしてたのかな?」

 「それは…」

 「絢子さんは鹿目くんと男を探して。2人は続きを」


 弓弦さんへは言葉での指示が通る距離ではない。もうひとり残しておくことは不可能。動くのであれば、妥当な判断だ。

 3人もそう思ったのか、軽く返事をして動き出す。


 「一緒にいた男というのは、東野悠ですか」

 「ああ、そうだ。案内出来るかのように指示されたが、俺が分かるのは向かった方角だけだ。証言されるのを防ぐため、人がいる場所の近くは通らないだろう」


 元より期待などしていない。

 しかし分からない。捕らえられていたことが作戦だとして、何故だ。あの者たちに居場所を聞くより、追った方が早いはずだ。


 「どうする」

 「人がいた間隔ですが、大体等間隔でした。多少ズレていたのは、建物の位置や場所の広さのためでしょう。鹿目さんの回ったところはどうでしたか」

 「そうだな。大体同じくらいの間隔でいた」

 「この方向には不自然に人がいない箇所が認められます。そこを辿って行けば、いるのではないでしょうか」


 移動させただけなら問題ないが、殺している可能性もある。その場合、残虐性が高いと言えるだろう。武装していない者を大量に殺したのだ。

 脅されて反逆者になったのだとしても、どうしようも出来ない。総代にも体裁というものがある。相応の対応をしなければならないだろう。確認しなくては。


 「先ずはそこにいるはずの者の安否確認をしましょう。進むべき道は分かっています。急ぐ必要はありません」


 私のその言葉に、鹿目さんは優しく微笑んだ。

 …なんだ。何故微笑んでいる。おかしなことを言っただろうか。


 「変わったな。俺の知っている南なら、真っ直ぐ向かって行った」


 微笑んでいるのだから、その変化は喜ばしいものなのだろう。むしろ、こうすることが“普通”なのかもしれない。

 だが今も変わってなどいない。

 この発言は、六花さんから東野悠について聞いていたからだ。でなければ、この様なことは言わなかっただろう。私は、おかしいのだろうか。


 「……見当たりませんね。鹿目さんは、近くの者たちと合流したのか見て来て下さい。私は先を確認します」

 「ひとりで行くなよ」


 東野悠以外にもいる可能性がある。いや、その可能性の方が高いだろう。最悪、楠巌谷がいる可能性だってある。

 相手の勢力は完全に不明だ。そんな無謀なことはしない。


 「はい」


 私の返事を聞くと、小さく頷いて方向転換をする。そこまで確認をするということは、無謀なことをするという認識なのだろうか。

 そうだとしても、鹿目さんひとりの認識に左右される必要などない。


 何度も攻撃されたが、誰も彼も相手にならない。準備運動も出来ない。再び飽き飽きしていたところで、鹿目さんが合流して来た。

 ひとつの団体を2つに分け、左右の団体に合流させていたらしい。


 「では行きましょう。恐らくこの建物…闘技場にいるでしょう。信号拳銃はどうしますか。楠巌谷がいれば撃ちますか」

 「そうしよう。ここにいるかどうかも、まだ定かではない」

 「分かりました」


 扉の向こうに、4人…いや、5人か。ここへ来たことは、見張りの者が知らせているだろう。戦闘体勢でいる。

 警戒して扉を開けたが、戦闘能力はお粗末なもの。個人個人に力がある、だと。笑えない冗談だ。数で圧倒され、そう感じたことにしておこう。


 「…南。5-D隊へ来たばかりの頃の南はもういないんだな。もしこの大陸が平和になっても、南は絶対に…いや、なんでもない。進むぞ」

 「はい」


 なにを言おうとしたのだろう。

 5-D隊へ配属されたのは、2年8ヶ月前。組織に入って間もない頃だった。その頃私は鹿目さんの目に、どの様に映っていたのだろう。

 そういえば“あれ”を言われたのは5-D隊へ配属されて、少し経ってからだ。晴臣さんの言う通りなのだろうか。


 ――まやかしでない平和が欲しいのであれば、手を血で染める覚悟が必要だよ。南くん。


 私はかつて、人を殺すことを躊躇っていたのだろうか。ボスのあの言葉だけで、それを捨ててしまったのだろうか。

 考え事をしていても、反逆者集団の者たちは容易くこと切れてゆく。


 「一度観客席へ出ましょう。不自然に動かない者がいます」


 小さく頷き合い、内開きの扉を同時に引いた。


 「おや、辿り着いたのは2人だけですか」


 信号拳銃を撃ち、刃物を構え直す。試合場を挟んで、向かい側の扉の前に楠巌谷がいる。まるで私たちがここから出て来ることを読んでいたかの様だ。


 「先遣隊ということでしょうか」

 「東野悠はいないのですか」

 「まさか、悠くんを連れて行こうって言うんですか?駄目ですよ。僕は悠くんのことが気に入っているんです」


 脅されているのだとしたら、たまったものではないな。

 しかし沙也加さんが抱く印象はあまり良くなかった様に思う。楠巌谷はどこを、何故、気に入っているのだろう。

 そもそも何故、脅してまで引き入れたのだろう。


 「いくつか聞きたいことがあります。目的が達成出来れば、私はどちらでも構いません。ですが、返答次第では連れて戻ります」

 「そうですか。悠くん、出て来て質問に答えてあげて」


 いくつもの通路があるこの建物は、空気の流れが読みにくい。ましてや主に集中すべき相手は反対側にいる。

 それでも分かる者は大勢いるが、楠巌谷の近くにもうひとりいることは気付かなかった。東野悠は隠密の心得があるのか。


 「巌谷さんの前では正直に答えられないと思います。後が怖いでしょう。2人にして下さい。もちろん、異能も解除してもらいます」

 「こちら側に、僕に、なんの得があるんですか?」

 「東野悠の回答次第では、巌谷さんの申し入れを考え直したいと思います」


 驚いた様な表情で2人が顔を見合わせる。


 「おい、申し入れってなんだ。危険なことじゃないだろうな?答えろ、南。お前のことだ、危険なんだろ?」

 「大丈夫です」

 「そうやって危険な戦闘をして来ただろ。信じられると思うのか」


 そうだっただろうか。だが私は大きな怪我をして戻ったことなどない。大丈夫という言葉に偽りはないはずだ。

 2人が頷き合うと、東野悠がこちらへ歩いて来る。


 「交渉成立です。移動しましょう」

 「おい、南!」

 「鹿目さんがなにもしなければ、楠巌谷はなにもしません。戦闘が始まれば私の話が中断してしまう上に、東野悠が殺されるかもしれないからです」


 だが仕掛けられたのでは仕方がない。無抵抗で易々と殺されたくない。それは、どの様な者でも同じだろう。大義名分というやつだ。

 それがなくとも襲って来る輩もいる中、楠巌谷がそういったことをしないというのは分かり易くて良い。


 それをしてしまえば、卑怯者になってしまう。

 鹿目さんは人質。人質を襲うなど、言語道断。


 「そんなことは分かり切っている。そうではなく、南が危険だと言っ」

 「いいえ、分かっていません。この交渉で危険というものは、限りなく少ないものです。人が増えると面倒なので、早く了承して下さい」


 こういった場合、人質になることへの了承はあった方が良いだろう。後になって騒がれるのは面倒極まりない。

 早々に了承を得たい理由はもうひとつある。

 鹿目さんは恐らく、自分が人質になるということに気付いていない。言いはしないだろうが、嫌と言われても面倒だ。良い条件と言える。


 「言い合いを見るだけ、というのはつまらないですね。始めますか?」


 交渉決裂の警告だ。早くしなければ。


 「南、よく考えろ。そんなに重要なことなのか。他の者には聞けないのか」


 五月蠅い。何故だ。

 戦闘中でもいつも凪いでいるはずの鹿目さんが、今は全く凪いでいない。なにをそんなに感情的になっているのか。

 なんにせよ、この状態ですぐに納得させるのは難しいだろう。出来ればしたくなかったが、こうなれば力技しかないか。


 「黙って指示に従え」

 「本当にもう、あの頃の南は…」


 ぐっと拳を握ると、私から視線を逸らす。


 「分かった。なにもせずここで待っている」

 「はい、お願いします。では適当なところへ移動しましょう」


 極々自然に、東野悠が扉を開けてくれる。まだ意識が残っている。そう思われてしまうのではと思ったが、楠巌谷が動く様子はない。

 ただの切り捨てる名目だったのだろうか。それなら楠巌谷が本当に目指しているものなど、あるのだろうか。


 「女性に扉を開けるのは紳士の役割なので」


 …私は考えていることが分かりやすいのだろうか。ほとんど初対面であるはずの者にまでズバリ言われてしまうとは。

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