表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章2部 真意の想像
125/171

第115話 言動の責任③

 異能戦場への門の前に自動車が止まると、門が開く。

 今度は門の近くに人はいない。来る場所は門のある4ヶ所。だが他の門は遠い。現実的に、東にあるこの門だけだ。どういうつもりだ。


 「誰もいません」

 「そう。じゃあ行こうか」


 農園のボスが銃を持っている。

 武器を持っている姿を初めて見たが、とても似合わない。戦闘している姿も想像出来ない。

 今回指揮を取る東の方が、何故農園のボスなのかは聞かされていない。


 強さをあまり求めなかった。畜産のボスがそう仰ったことを否定しなかった。

 戦闘の経験があまりない。そうご自分で仰った。

 危険だが決定したこと。意見するつもりも、守るつもりもなかった。しかしこうして見ると、本当に似合わない。


 …どうでも良いか。

 一番近い、多くの息遣いがある場所へ向かう。そこでは武装をしていない者が身を寄せ合っていた。13人いる。


 「東の武闘組織から来ました、絢子と申します。山賊に占拠されていると聞いて助太刀に参りました」

 「少女じゃないか…!武闘組織はなにをかん」

 「止めろ」


 先に発言した者の言い分の方が分かる。見た目というのは重要だ。戦闘能力が少々劣っても、屈強な男の方が強そうに見える。


 「この嬢さんは異能戦争参加者だ」


 会っているのか。晴臣さんと市場を歩いた日だろう。大勢の人を見ている。

 しかも市場の者は、腕章をしていない。相手が東の者かも分からないのだ。そうでなくとも、覚えようなどと思って接していない。


 「たい焼き、買ってくれましたよね?」

 「ああ…、はい。美味しかったです」


 そういえばボスに粒餡派か、漉し餡派か、聞いていない。どこから食べるのか。本当はみたらし団子よりもたい焼きが食べたかったのか。全部。聞いていない。

 それに、たい焼きの語源も調べていない。


 「報告します」


 そうだ、今は目の前のことを。


 「異能戦争が終了した翌々日のことです」


 現在異能戦場を占拠している山賊が襲って来る。圧倒的な数の多さにより、占拠される。生き残った者は武器を奪われ、十数人に別れ散り散りにいる。

 占拠された3日後。

 何者かと大規模な交戦があったが、姿は見ていない。異能戦場の状態は変化がないため、敗れたと思われる。


 報告は予想出来るものだった。目新しい情報はない。

 大規模な交戦というのは、沙也加さんたちと5人で来たときのことだろう。このことは明かさないことになっている。

 何故助けてくれなかったのか。そう不満を持たせることになるためだ。


 「了解しました。相手の戦力は分かりますか」

 「不明です。兎に角数が多いのですが、ひとりひとりの力もあります」

 「了解しました。皆さんここから動かないということは、定期的に誰かが訪れるのでしょうか。それとも、どこかから見張られているのでしょうか」


 ここは死角が多い。恐らく無理だろうが、可能性は潰しておく必要がある。伝え忘れていたことを思い出す可能性もある。

 情報が少ないときは、ひとつひとつ質問していく方が早い。


 「分かりません。一日に一度、食事と水が届けられるだけです。しかし移動しようとすると何故か、どこからともなく現れるのです」


 誰かが東野悠の異能にかかっているのだろう。この中に反逆者集団の者が紛れている可能性もあるか。

 武器を隠し持っていそうな者はいない。だが、いざとなれば攻撃して来る可能性がある。気を付けた方が良い。


 「了解しました。では皆さん、今から言う者に該当しない者を指して下さい。異能戦場へ赴く以前の知り合いや、異能戦場で知り合った者でない者」


 自分以外の全員。つまり12人に指された者はひとり。反逆者集団の者である可能性が高いだろう。予想出来たことだろうに、酷い慌てようだ。

 捨て駒か。それでも念のため、聞いておくべきことは聞いておこう。


 「占拠している山賊の一味だな。長の居場所を知っているのなら、案内しろ」

 「ち、違います…!本当に知り合いがいないだけです!」

 「どちらも証明することは出来ません。一先ず信じましょう。壁を向いて、耳を塞いでいて下さい。これが条件です」


 弱々しく返事をすると、私の言われた通りにする。演技…だろうか。

 異能戦場の市場では、大勢の人が行き交っていた。知り合いが12人の中にいなくとも、不自然ではないことも確かか。

 だが今更取り消せるはずもない。それに容疑があるのは確かだ。


 「みなさん、容疑があるからといって不平不満の矛先を向けないで下さい。具体的には乱暴、有事の際囮にする…などでしょうか。そういったことがない様にお願いします。では、私は次へ向かいます」


 早く離れなくては、反逆者集団が来てしまうかもしれない。食糧を持って来るのだから、殺す気はないはず。私が傍にいる方が危険だ。

 それを考えると、門から一番近い団体への接触は迂闊だっただろうか。状況を知るために、五感をあの者に集中させていた可能性もある。


 「待って下さい。斧の一本で構いません。武器をもらえませんか。これでは自分の身も守れません」

 「武器を持てば、戦う意思があるということになります」


 当たり前だ、と言わんばかりに12人が頷く。


 「あなたたちは斧一本で自分を含めた13人を守れるのですか。それとも斧を13本用意しろと言っているのですか」

 「それは…」

 「武装していない者は可能な限り守ります。多くの者を守るだけの力があるとも思います。大人しくしていて下さい」


 散らばっている数によっては、ある程度は切り捨てる必要がある。

 だが、ありのままを言う必要はない。初めからそのつもりがあると聞けば、不安にさせるだけだ。より強く武器を求めるだろう。


 「分かったのですか、分からないのですか」

 「理屈は十分理解出来ます。ですが、みな不安なのです」

 「私も不安に感じます。ここにいる全員が山賊の一味ではないのか。今殺さなくても本当に良いのか」


 たい焼きを売っていた男性と睨み合う様に見合う。少しすると、諦めた様にため息を吐いて小さく首を振った。


 「…分かりました。ですが忘れないで下さい。我々はここを守るために残った、戦闘要員であることを。いざというときの覚悟は出来ています」

 「覚えておきます。では、私は次へ行きます」


 毎度このやり取りがあるのだろうか。面倒だ。不安な気持ちが分からないわけではない。だが時間は限られている。こんなことを繰り返してはいられない。

 どの様にすれば、効率が良いだろう。…いや、逆だ。

 しっかり納得させた方が後々楽かもしれない。中途半端に動かれる方が面倒だ。


 本当に、考えることは苦手だ。

 さっき考えていたこともそうだ。考えたところで意味などない。過去の出来事がなくなるわけでも、時間が巻き戻るわけでもないのだから。


 次はどうする。

 動きを悟られないために、あの集団は飛ばすか。少々時間はかかるが、無作為に接触しもっと大胆に動くか。

 どちらにしろ接触した時点で居場所が知られる可能性が高い。それなら効率的に接触するべきだ。




                  ***




 …とは言っても、同じことの繰り返しで飽き飽きしてくる。

 ため息を吐くと同時に、信号拳銃が撃たれた。集合の合図だ。真上なら撃たれた位置、それ以外は煙の方向へ向かいながら落ち合う。

 真上ということは、中心人物が数名現れたのだろうか。


 「もらった!」

 「なにをですか」


 飛び降りたときの勢いのせいだろうか。加減をしたつもりだったが、口が利けなくなってしまった。難しいな。

 他に向かっている者たちも襲撃されているのだろうか。こちらの居場所は接触した者たちから、ある程度絞ることが出来る。おかしくはない。


 「覚悟っ!」


 これで何人目だ。なにか言わないと攻撃することが出来ないのだろうか。全く、鬱陶しい。しかも何故ひとりずつ来るのか。

 信号拳銃が撃たれたのはこの辺りだったはず。周辺に人が多く来ていないのは、何故なのだろうか。


 「遅いな。全員途中で殺られたか?」


 その一言に笑う声が6つ。それ以外に2人。捕らえられている方が農園のボスということは、もうひとりは一緒に行動しているはずの鹿目さんか。

 農園のボスを人質にされ、動けないでいるのか。…不自然だな。


 この辺りでは高さのある建物の上に弓弦さん。残りの3人で、8人を囲む様にしている。この程度の者たちにこの配置なら、十分過ぎる。

 あとはいつ仕掛けるか。一斉に出た方が確実だ。


 「全員かかれ!」


 農園のボスの言葉が響き、一斉に影から飛び出す。


 「いつの間に…!」


 遅い。一瞬で、農園のボスを掴んでいる者だけになった。

 相当焦っているな。掴んでいる手の力が緩くなっている。逃げ出すことは可能だろうが、持っているのは銃。危険だ。


 「く、来るな!来たら撃つからな!」


 この者は撃たない。撃てない。

 覚悟のない者が何故この様なことをしているのか。全く不思議でならない。


 ひとりひとりを威嚇して、最後に農園のボスへ銃を向ける。そして初めて、農園のボスの笑みを見る。


 「ウチを殺したって意味ないよ。殺せなんてしないけどね?」

 「この状況で出来ないと思ってんのか!」

 「うん。いつまで自分が有利だと思い込んでるの?あっち、見てみてよ。きっと楽しいよ。絶叫しちゃうくらいにね」


 ぎこちない動きで顔を上げ、農園のボスの視線の先を見る。そこには――


 「へっ…?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ