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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章2部 真意の想像
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第114話 言動の責任②

 ボスたちの会合に護衛として来る者の中で一番強い。


 組織本部の者に顔が知られているくらいだ。その噂が本人の耳に入っていても、なんらおかしいことはない。その評判に怠惰していたのだろう。

 弓弦さんへの態度からも、そう思わざるを得なかった。だが1 on 1をした際のあの言葉で、考え過ぎだと思った。


 ――わたしも腕を磨かなくてはいけません。

 ――弓弦もまだおぼつかない様子ですので、教え合ってはいかがですか。その際は是非わたしも混ぜて下さい。


 しかし、違った。…違った。

 佐治さんは確実に、弓弦さんを見下している。だから今の様な言葉が出たのだ。それ以外に考えられまい。


 ――それでも僕より弓弦が…?納得出来ません。


 それなら、あの言葉はなんだったんだ。怠惰とは全く異なるあの言葉は、極々自然に発言されていた様に感じた。


 「それで、弓弦くんを4だって評価した理由はなんなの?」


 そうか、その話しの途中だった。


 「発揮する戦闘能力が常に一定だからです」


 農園のボスは呆れた様に微笑み、鹿目さんは大きく息を吐いて俯いた。呆けた顔をした佐治さんを見て、弓弦さんは悲しそうな顔で俯いた。

 ここまで来れば、佐治さんについては予想していた。

 だが…、私の言葉を待っている杏さんも分からないのだろうか。


 「単に強ければ、指示が上手ければ、それで良いというわけではありません。常に一定の力で戦える。これは組む相手が動きやすいという部分で、とても評価が高いです。援護することの多い弓弦さんに、特に求められるものだと考えます」


 もちろんこれは前に出て戦闘する者にも必要なことだ。しかし、どうしても戦闘相手との相性が強く出る。

 援護する者が一定の力を保つことは、3人が考えているより重要だ。


 「役割に応じて評価基準が異なるのは当たり前です」

 「でも私たちのことを、弱いから守るべきって思ってるんでしょ?それがどんなに悔しいか、南には分かる?」

 「それは、あくまで弓弦さんの仮説です。起こったことと私が考えそうなことを絡めて、仮説を述べたに過ぎません」


 弓弦さんは今でも、佐治さんの戦闘自体の力を高いと思っているはずだ。だから気を落としているのだろう。

 あれは弓弦さんの考えですらない。

 事実から考えられる、ただの仮説だ。同じ事実を使って、全く反対のことが言える仮説がある。


 「もうひとつの仮説を言わなかった理由が、分かりますか」


 私が戦闘能力を3だと評価した3人が、顔を見合わせる。

 違った仮説の存在に気付いてすらいないらしい。


 農園のボスが早々に話題を切り上げた理由。それは敢えて言わず、考えさせるためだと考えた。だから私も言わなかった。

 私の評価など気にするに値しない。しかしああも明確に評価されてしまっては、多少は気になるもの。


 だが思った効果は得られずだ。


 「ただ不貞腐れていただけですか。だからあなたたちは戦闘自体の力が高くても3なのです。発揮する力が一定ではないのです」


 誰もなにも言わなかった。ただ黙って自身の足元を見ている。

 私には偉そうにヒントなどと言っておいて、自身は一からの説明を求めているのだろうか。随分と都合が良い。それとも、考えているのだろうか。


 「弓弦くん、質問があるんだけど良い?」


 少し時間が経ってからされた、杏さんの発言に安堵した。


 「はい。どうぞ」

 「南が戦闘能力を戦闘自体の力だと捉えてるとする。その場合、弓弦くん視点では3と4って逆になるんじゃないかって思ってさ。どう?」

 「そうです」


 静かに頷いた弓弦さんに刃物が飛んで行く。佐治さんが放ったそれを、人差し指と親指で挟んで止めた。

 弓弦さんに危な気はないが、そういう問題ではなく危ない。急になんだ。


 「タコのように顔を赤くして、どうした?」


 顔が赤いというのは、恥ずかしがるという意味だと認識している。だが恥ずかしがる様な場面などあっただろうか。


 「どこまで僕を馬鹿にすれば気が済む」

 「馬鹿になどしてない。本気だ。仮に俺が馬鹿にしてるとして、それなら凶器を投げても良いのか?」

 「…感情的になった。それはごめん。本当はずっと分かっていたから、見透かされて嫌だった」


 その言葉は、絞り出す様に言われた。佐治さんの目から涙が溢れ出す。


 「どれだけ鍛錬を積んでも、もう強くなれない。そう限界を感じたときから、時々鍛錬をサボるようになった。それを言い訳にした。でも、それでも、みんな僕を強いと言った。だからこれでも良いんだと思っていた」


 最初、涙はゆっくりと頬を伝っていた。それが徐々に速度を増していく。次々と溢れて、頬に当たる光をいちいち屈折させた。


 「異能戦場に弓弦を推薦したのは、僕が行きたくなかったから。これっぽっちも自信がなかった。戻って来た弓弦は、明らかに顔つきが変わっていた。それ見て、不安になったんだ。実戦では絢子さんや仁彦さんに気を遣われて…」


 いつ終わるか分からない佐治さんの独白を、みな黙って聞き続けた。相槌や返事を要求していないため、言わせておけば良いと思っているのだろう。


 「悔しい」


 その一言で、車内の空気が変わった。そんな気がした。


 「…そんな風に思ってたとは、夢にも思わなかった。本当に、俺にとって佐治はいつでも強い存在だ」

 「ありがとう。…ごめん」


 つられて泣きそうになっている弓弦さんは、黙って首を横に振った。言葉が見つからなかったのだろう。

 2人もなんとも言い難い表情で、どこでもない場所を見ている。


 「…それで、逆なら弱くて邪魔になるから襲ったとでも言うつもり」

 「ああ、そうだ」


 杏さんが息を呑む。心拍数が上がっている。自身が襲われたかもしれない。そう考えれば、当然と言うべきなのだろう。

 一方で、鹿目さんは今も心が凪いでいる。やはり考えが非常に読みにくい。


 善い人ではあるが、戦闘時の鹿目さんは特に苦手に思っている。作戦の意図も読みにくいためだ。

 “するべきこと”しか伝わらず、“なにがしたいのか”がよく分からない。予想外の事態が起こった際、崩れやすい。


 「昨日の襲撃。なにも知らず殺し合ったことと、なにか違うんですか?」

 「どういう意味…?襲われたから反撃したんだからさ、邪魔だからって無差別に殺すっていうのとは違うと思う」

 「自分は、自身が生きるために邪魔だから殺したってのと同じだと思います。そして弱い者を庇いながら戦うことは、自身を危険に晒します」


 そうとまでは思っていなかったが、なるほど。それも筋は通っている。

 しかし私は無暗に人を殺したいわけではない。殺すにしても、出来るだけ苦しくない様にとも思っている。


 「分かってますよ。だから自分のこと高く評価してもらえてるって思えて、嬉しかったですし」


 私が霞城さんと晴臣さんを殺した理由を知っているはずだ。それで何故、そんなことを言って微笑む。


 「そうですか」


 もう少し自信を持っても良い。そうも思ったが、言えなかった。これ以上力の差を明言する様なことを言えないと思ったからだ。

 車内の空気は、話す前と変わらず重いままだった。だが私だけが浮いている様な気は、もうしなかった。


 「農園のボス、東野悠は私に任せていただきたいです。可能ですか」

 「どうしてかな?」

 「本人に直接確かめたいことがあります。内容は明かせませんが、これが正しければ東野悠をこちら側へ付けることが出来るかもしれません」


 脅され、反逆者となるしかなかった。現在もそれを理由に反逆者集団にいる。

 そうであれば、東野悠の意志としてはこちら側へ付きたいことだろう。楠巌谷は北園義満を自らの意志で殺し、東野悠はそれを自身の目で見ている。

 理由がはっきりしているとはいえ、自身もいつ殺されるか分からない。


 だが今も大人しく傍にいる理由によっては、そう簡単なことではない。

 人心掌握により操られている。共に過ごす内に共感してしまった。

 どちらかであれば、こちら側へ付くという選択などない。だが、その可能性は低いのではないだろうか。


 沙也加さんへの発砲について改めて考えた。あれはやはり手加減されていた様に思う。あれだけ正確に眉間を狙うには、銃口を安定させる必要がある。

 避けられたとしても、言い訳が出来る。それでも当たれば、仕方がない。

 そう考えて撃ったのであれば、殺気が特になかったことも説明出来る。


 「異能を所有してる可能性が高い。恐らく楠巌谷の近くにいることが多い。その東野悠をこちら側へ付けることが出来るのは魅力的だね。情報を多く持ってる可能性も高い。でも本当に出来るのかな?」


 脅され続けているという前提条件に加え、それを解決しなければいけない。可能性が高いとは言えない。


 「仮に出来なかったとしても、ひとつだけなら分かることがあります。それはもしかしたら、とても重要なことかもしれません」

 「予めそれを聞くことは出来ないんだね?」

 「はい」


 ただの可能性だ。相手を殺すことを躊躇してしまうかもしれない情報を、無暗に持たせるべきではない。


 「分かった。みんなも良いね?」


 車内に4つの返事が響いた。

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