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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章2部 真意の想像
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第108話 表情の裏側②

 ――もう遅い


 私のその言葉を聞いた瞬間、分かりやすく表情が青ざめた。

 青がどういう色かは知らないが、言葉としてあるためそれは知っている。顔を赤くする、も然り。恥ずかしがるという意味で使う。


 「もう来るのか。不味いな。持ってる異能って、意識操作なんじゃねぇの?なんとか出来ねぇのかよ」

 「暇になると面白い話して、と急に言ってくる先輩の様なことを言うのは止めて下さい。無条件でおいそれと使えるものではありません」


 知らない場所だ。どこになにがあるか分からない。赤い物が、色が分かれば、そこまで難しいことではないはずなのに。

 赤…そういえば、『ぼうけんにっき』に屋根の色は暗い赤と書かれていた。


 あの建物がここで、外壁の塗り替えをした際に屋根も塗り替えていないのなら。だが塗り替えた可能性の方が高いだろう。

 面倒だ。考えて分かることではない。聞くしかないか。


 「誰にも言わないと約束して下さい。約束出来ないなら殺します」

 「実質一択じゃねぇか。急になんだよ」

 「この屋根の色は、赤と判別出来るものですか」


 驚いた表情をしたが、それは一瞬のことだった。すぐに真剣な表情になり頷きながら、こちらへ刃物を振り下ろす。

 その刃物は、私のすぐ後ろで刃物を振り下ろそうとしていた者の額に突き立てられた。ニヤリとした笑顔と一瞬目を合わせる。


 「なに?俺案外信頼されてる感じ?」

 「動くと狙いが外れて怪我をさせられるかもしれません。それが嫌だっただけです。勘違いをしないで下さい」

 「はいはい。さーせん」


 敵の攻撃をかわしてこの者と衝突しない様にすること自体は、簡単に出来る。だが黙って立っている方が楽だ。

 この者なら出来るという信頼が必要だと、この者は言いたいのだろう。だが違う。私は試しただけだ。


 本部での出来事は、腕を磨こうをするか腐ってゆくかの二択になる。

 戦場と化した教養本部へ駆け付けて積極的に戦闘するということは、腕を磨いたはずだ。たった数日でも変わる者は変わる。


 「中央の塔周辺か建物の中、どっちが良い。音の合図を出した者が3秒後に行動をする。塔周辺に赤い物はない」

 「では塔周辺の合図を、私が指示を出したらお願いします」


 この様な相談をしている時間などないと思った。出来て良かったが、こちらがもう少し体力を消費するまで待っているのかもしれない。

 少し劣勢になって見せた方が良いが、それをどう伝える。


 「全然来ねぇな。勘かよ」

 「すぐ近くで機会を窺っています」

 「くそ、面倒だな。休ませたら敵の増援が来るだんろ。どうするん…そうか。いっそのこと呼ぶか。なにも言うなよ」


 指を鳴らすと、大きく息を吸う。


 「ここからは体力勝負になる。各班2人ずつ休んで、残った者は屋根に登れ。気を抜くな!」


 どう決められた合図だ。休むために建物に入った者はいつでも動けるような体勢でいるが、残った者は屋根に登っている。

 意思疎通が出来るのであれば、なんでも構わないか。


 増援が動き出したな。よし、屋根に来そうだ。

 武器は刃物の者も銃の者もいるな。一度の異能で具体的に死ぬ行動。あれしかないか。いくら敵でも、苦しい死に方はあまりさせたくはないが仕方がない。


 見られても、まだなものはまだだ。まだ引き付ける必要がある。3秒後なのだから、ほとんどの者が屋根に着地してからだ。


 「今です」


 同じ様に指を鳴らしただけだが、さっきとは明らかに違う音だ。

 それを聞いた瞬間、教養本部の者が中央の塔に向かって行く。鹿目さんと杏さんも一瞬遅れたが、すぐに向かいだした。


 異能『赤い靴』


 「自分の首を絞めて自害しろ」


 捕らえて話を聞く者は、残った者から選べば良い。残っている者は、運が良い者と反応が良い者だろう。


 「増援は戦闘能力が高い可能性がある。気合を入れろ!」


 建物に入っていた者も出て来て、戦闘が再び始まる。


 「随分趣味のイイ殺し方だな」

 「…?」

 「貶してんだよ!調子狂うなクソ」


 慣れない者と組むことに慣れていないのだろう。私はいつも慣れない相手と組む。必ずと言って良い程、死んでしまうのだ。

 背中を任せられる者など存在しない。だがこれまでと比べて今日は、ある程度背中を気にしなくて良い。楽だ。


 「そうですか。ところで何故、捕らえられていたはずの角南誠を椅子に縛り付けることが出来なかったのですか」

 「俺のことまで調べてやがった。それだけだ」

 「そうでしたか」


 戦闘能力の高い者が2人こちらへ向かって来る。今相手をしている援軍の5人に加勢されると不味い。

 この5人は別れてくれそうにない。任せて、2人を私で対応するか。


 「行くな」


 次の瞬間、こちらへ向かっている2人目掛けて弾が飛んだ。中央の塔からだ。いくつかは弾かれたが、着弾したものもある。

 個人の戦力が少々劣る分、連携がしっかりしている。


 異能『赤い靴』


 「持っている刃物で自分の首を切れ」

 「なるほどな。なんとなく仕組みは分かった。それから、あまり使いたくないだろうこともな」


 弱みを握った。そんな下衆な表情ではない。

 悲しそうな顔をしている者が悲しい気持ちでいるかというと、違うことは分かっている。だがこの人はそれで良い気がする。


 「調理していない米が食べてみたいです。高価なものということもそうですが、実を成らせば成らすほど頭を垂れるというので避けていました。ですが、今は興味があります。食べられますか」


 秋に収穫されるはずのものが夏に手に入るという。腐っているに違いない。そんなものが混ざっていたら大変だ。

 だがどこかの本部ならしっかり管理されていることだろう。それに今は冬だ。食べ物も腐りにくい。


 「料理出来ねぇだろ。調理してない米なんか食えるかよ。まぁ言いたいことは分かるけどさ。要は炊き込みご飯とかお粥とかじゃないってことだろ?」

 「その通りです。4時の方向へ行きましょう」

 「はいよ。約束は出来ねぇけど、交渉はする。さっさと片付けるぞ」


 安易に約束しない者の方が上手く出来ることは多い。期待出来そうだ。


 「全員殺して構いませんか。拘束したい者がいれば言って下さい」

 「基本的には殺して良い。あまり多いと面倒だからな。ただ、指揮官っぽいのがいれば拘束したい」

 「分かりました」


 指揮官らしき者は見当たらず、教養本部には死体の山が作られ続けた。

 教養本部の者が捕虜として4名捕らえたが、どの者もただ戦闘しているだけの者だった。大した情報は持っていないだろう。


 反逆者集団以外の団体だとしても、今襲って来たことには理由があるはず。それを聞かずに異能戦場へ向かうことは出来ない。

 明日までに上手く聞き出すことが出来るだろうか。


 「ほら」


 薄い三角錐にまとめられた米が3つ。目の前に置かれた皿に乗っている。


 「大勢に配るにはおにぎりが手っ取り早いからな。出来る限り希望に沿った形だと思うが、不満か?」

 「多分おにぎりを初めて見たんだと思います。観察させてあげて下さい」


 苦い笑みを浮かべる弓弦さんとは違い、軽く鼻で笑うとこちらへ手を伸ばして来る。瞳には、私が映っている。

 その手を弓弦さんが掴んで止めた。


 「妹にいつもするもんだから癖になってるみたいだ。悪いな、アンタの大事なお姫様に。ごゆっくり」

 「待って下さい。連携の取れた動きについて詳しく聞きたいです」

 「嫌だ。関わると早死にしそうだからな。お前ら気を付けた方が良いんじゃねぇの。じゃ、二度と来るなよ」


 軽く手を振って部屋を出て行く。


 「いただきましょう」


 頷き、手を合わせる。弓弦さんがするように、手で持ってかぶり付いた。美味しい。これが味の付けていない米か。ほんのり甘い。

 食べ進めると、急に味が変わった。酸っぱい。


 「弓弦さん、腐っています。酸っぱいです」

 「梅干しですね。れっきとした食べ物なので大丈夫です。種があるので、気を付けて下さいね。他の2つにもなにか具が入ってると思います」


 梅干し…紫蘇に漬けるという製造方法にも関わらず“干し”という名の食べ物か。図鑑で見た。形は概ね円と言える丸。

 こっちは昆布だ。最後のひとつは…もさもさしている。魚の臭いと醤油の味がする。なんという食べ物だろうか。


 「それはおかかですよ。鰹節に醤油をかけたものです」

 「初めて食べました。よくある具なのですか」

 「はい、人気もあるみたいですよ。鰹節が手に入れやすいことも関係すると思いますが、おにぎりの定番といえばこの3つって感じです」

 「弓弦」


 空気を切り裂く様な、鋭い声だ。怒っているのだろうか。いつまた攻められるか分からないというのに、緊張感のないことを言ってしまったからだろうか。


 「気持ち悪いからデレデレしないでほしい。それから暗示にかけられていたとはいえ、襲われたことも忘れていないよね。危機感がない」

 「危機感がないのは佐治の方だ」


 落ち着いた、冷たい声。聞いたことのない声だった。

 一度静かに伏せた目を佐治さんに向ける。その視線は声と同じで冷たく、見たことのないものだった。

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