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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章1部 正義の議論
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第101話 帰る場所①

 異能戦場へ行くには時間がかかる。是忠さんのご家族の安否確認も兼ねて、私が半年間預けられていた町へ剣を探しに行くことになった。


 「君たち3人が高い戦闘力であることは、見れば分かる。だが、本当に5人で行くのか。しかも反逆者を連れて」

 「説明は十分させていただいたはずです」


 佐治さんと私は機動力がある。弓弦さんは遠距離からの攻撃。

 スミレさんは異能『ラプンツェル』がある。自身から離れた髪も操ることが出来、上手く使えば形勢逆転が出来る異能だ。本人の戦闘力も低くない。


 町の者たちを人質にされることは間違いない。人質を取られるということは、下手に動けないということだ。隠密に動くことが出来る異能は貴重になる。

 私の異能『赤い靴』も異能にかけることが出来れば、問題が簡単に解決出来る場面もあるだろう。しかし私には色が分からないのだから、確実性がない。


 「私は貿易組織所属となりました。ボスの命令に背くことや、名に傷の付くようなことはいたしません。しかしながら東の常識は分かりません。外れたことをしてしまうかもしれませんが、その際はご容赦下さい」


 丁寧に頭を下げたスミレさんの胸にはもう、徽章は付いていない。

 晴と名乗った青年のために始めたこと。その青年は佐治という名で自身が満足出来る生活を送っていると知ったのだ。もう必要ないのだろう。


 ――是忠さんが約6年過ごした町が気になるだろ。俺の優秀な部下を貸してやる。見て来るか?


 異能戦争やその報告時に起きた事柄に不随する事項。その全てを、貿易のボスは総代より一任されている。その貿易のボスに、行けと言われている様なもの。

 畜産のボスは首を縦に振るしかなかった。


 「気が狂ったように上の者に従う。その常識はどこの組織でも共通か」

 「どういう意味でしょう」

 「ボスと聞くと偉そうに聞こえるかもしれないが、様々なしがらみがある。それを嘆いただけだ。気分を害したのなら謝る」

 「いいえ。失礼しました」


 3人には剣のことは伏せて説明した。

 探し物をしにある町へ行く。その町は占拠に近い状況にあり、住民が人質にされることも考えられる。

 それだけだ。しかし3人は探す物について、なにも聞かなかった。

 運転席に座った佐治さんに行き先を告げると、すぐに自動車を発進させた。そして簡単な作戦を立てた。

 このことも指しているのだろう。


 武闘本部を通り過ぎ、少しした頃見えてくる町。そこに私は半年間預けられており、是忠さんは約6年間暮らした。灯台下暗しというやつだ。

 自動車から降りて見る景色は、懐かしくもなんともない。


 「酷い…住民は無事なんでしょうか?」


 損害は大きくない。物資を送り、届けた者たちは無事に戻っている。ボスはそう言っていた。

 貿易のボスに手紙を飛ばしてもらって、武闘本部にも確認した。ボスは嘘を吐いていないはずだ。再度襲われたのか?


 それほど剣が重要だということになる。

 であれば、捜索範囲を広げるかもしれない。周囲の町や異能『眠れる森の美女』で殺された方がいた町も危険だ。


 「畜産のボス、今この町でスミレさんをひとりにするのは危険です。もし住民の中にスミレさんの顔を知っている者がいれば、問題が増えます」


 危険を察知し、死しか選べなかった是忠さんが住民になんの警告もしなかったはずがない。御用人の顔が住民の頭の中に入っているかもしれない。

 そこまでは予想していた。


 だが、私を知っている者と話せば分かってもらえると思っていた。しかしこの町の様子では、住民には余裕がない。

 畜産のボスか私と行動を共にするべきだ。スミレさんを連れて来たのは間違いだったのか。


 「そんなことは分かって連れて来たはずだ」

 「多少の怪我人がいることと、これだけ殺伐としていることは訳が違います。住民が余計な体力や物資を消耗しないためでもあります」

 「…分かった。行くぞ」


 2人が散会し、3人で歩き出す。先ずは是忠さんの家だな。

 家を空けない者であれば家の可能性が高い。是忠さんは家を空けていたが、武闘本部近くの町で暮らす方だ。可能性は十分にある。

 だが、同時に危険だ。


 …と思ったが、面白いくらいなにもないな。いや、やっといた。この距離で見つけられるということは、住民か。協力を得たいものだ。

 弓が真っ直ぐスミレさんへ向かって飛んで来ている。話すことにも手こずるかもしれないな。


 「お嬢、逃げろ!ソイツ手配者だ!」


 反響させて声の発信源、居場所を分からない様にしている。だが弓の飛んで来た方向が分かるのだから、多少の息遣いで分かる。


 「坊ちゃん、彼女は東の者になりました。危険はありません」

 「んなワケねぇだろ!寝ぼけたこと言ってんなよ!よりによって、なんでこんなときに帰って来たんだ」


 全ては血の争いから始まっていることだろう。大陸が東西南北に別けられ、ただその領地にいたというだけで巻き込まれた。

 ここは数え切れないほどある内の、そんな町のひとつだ。長い目で見れば、今生きている者全員がそうだ。だが、血が濃い者には責任がある。


 帰るだなんて。


 「騙されているかもしれませんが、私は信じたいのです。そんな私のことを信じてもらえませんか。大人を呼んで下さい」

 「チッ…、西間スミレ、お嬢に手出すんじゃねぇぞ。そこの男、お嬢に少しでも傷を付けたら許さなねぇから覚えとけ」


 行ったな。大きな声を出したことで、町を襲った者がこちらへ来やしないだろうか。いや、そのつもりがあるのであれば既に来ているか。


 「今の少年は預けられていた家の息子さんです。この町の方はみなさん私のことをお嬢と呼ぶので、呼び方は気にしないで下さい」

 「偽名も使っていなかったのか」

 「ここへ来た頃の私には、その程度の嘘も難しかったのです」


 案外早かったな。もう少し奥にいただけなのか。是忠さんの家を守っているのだろうか。何故その様なあからさまなことを。


 「お嬢、お帰り。こんな出迎えで悪いね」

 「いいえ、こちらこそ突然の訪問ですみません」

 「そんな風に言われると悲しいだろうね。言ってただろう?お嬢の家だと思って良いと。まさか建前で口にしたと思っているのかい?」


 その通りだとは言い辛い。だがあのときの私は、優しさなど知らなかったのだ。ボスの手前言ったのだと思っていた。


 「それもお嬢らしい。ところで、そちらの殿方はどちら様かな?」

 「畜産組織でボスをしている。東颯太だ。探し物をしに来た。この西間スミレは貿易組織に正式に入った。危害を加えることはない」

 「そうですか。それなら今お嬢は武闘組織にはいないのですね。良かった。武闘のボスが直々に迎えに来たと聞いたときは本当に驚いたよ」


 多少の嘘は学んだ。そう望む者には、そうしておくべきだ。


 「ご存知だとばかり思っていたものですから。すみません」

 「顔を上げて。こうして元気な姿を見せてくれて、それだけで嬉しいよ。だけどここは今危険なんだ」

 「承知しています。その上で必要だと考え赴きました。しかし、まさかここまでの被害だとは思いませんでした。助太刀に来られず、すみません」


 あの頃の様に、少し苦しそうに優しく笑った。


 「多少訓練を受けていたのは知っているよ。でも小柄な女性に、物騒なことはさせられないよ」

 「…申し訳ござ」

 「感動の再会はもう良いだろ。俺たちは探し物をしにここへ来た。ここを占拠している山賊も追い払う。既に2名戦闘しているはずだ」


 過去の資料を見る限り、現在の方が許容されてはいる。それでも人殺しは、今の倫理観でも良しとはされていない。

 生死に関することで関わるのは、子供の誕生と親類の葬式だけ。それがこの町の普通。それが、私はどうだ。

 死に関わるどころではなく、死を贈っている。そんな私との関わりは少ない方が良い。私はもう、戻れないのだから。


 「あいつらがただの山賊だとは思えません。強さもそうですが、はっきりとした目的を持ってなにかを探しているのです」

 「彼の家を守っている様に思いますが、心当たりがあるのですか」

 「遺言書があってね。この町が襲われたら、と書かれていたんだ」

 「いつ頃書かれたものか分かりますか」


 紙が古そうだったか。インクの臭いがどれくらい残っていたか。そういったことが分かるだけでも随分違う。


 「紙が随分古くて、分からないんだ。急に自殺なんてしたと思ったら、嫌なことを言い当てた。そこには手配者の顔と名前を覚えるように、ともあったんだよ。一体なにが起きてるんだい?」


 ボスという立場の者を連れて、突然やって来た。そんな私が、なにか知っていると思うのは当然か。


 「私たちも現状把握が出来ているわけではありません。そのために探し物をしています。他にはなにか聞いていませんか」

 「なにも…」


 …しまった。成人男性が動いたことで手薄になったと判断されたのか、襲われている。スミレさんがいるため、こちらから行くわけにはいかなかった。

 掌で躍らせれているのだろうか。


 「襲われています。行きましょう」

 「まさかそんな…!近くには誰もいなかったはずなのに」


 戦闘している住民は6名。対して敵が10名。援護は住民が4名で敵が8名。住民には不利が過ぎる。既に負傷している住民もいる。

 銃への対応は慣れていないはずだ。処置も急いでする必要がある。


 坊ちゃんはさっき弓を使っていた。援護しているに違いない。……いた!対面から狙われていることに気付いていない。

 間に合わない。


 「坊ちゃん!」

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