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貴方と異能戦場へ  作者: ゆうま
第3章1部 正義の議論
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第98話 その理由④

 どこへ向かおうとしていたのか聞くのは、正雄さんが良いだろう。…あ、しまった。猿ぐつわを外さなくては会話が出来ない。

 いや、聞くことは出来る。手の縄だけ解いて、筆談させれば良い。足の縄を解かなければ、大した動きは出来ないだろう。


 「絢子さん、西真白との話が終わったの?それならウチのところに一番に来るのが、筋だと思わない?」

 「時間がかかる様子でしたので、先に片付けようかと」


 大きくため息を吐かれてしまう。悪いことをした気は全くないが、そういうため息であることは分かる。


 「悪気はないだろ。適当な部屋に入って話そう」

 「知らないの?悪気がないのが一番の悪気」

 「それは悪気のないヤツに言っても伝わらないだろ」


 よく分からないが、私が悪いのは分かった。一言詫びると、仕方がなさそうな顔をして歩き出す。その後ろを貿易のボスと歩いた。

 少々迷った様子でひとつの部屋の扉を開く。どういった基準で選んだ部屋なのかは不明だ。


 「“貿易の”は絢子さんがウチになにを頼んだか、知ってるの?」

 「確認したいことがあると出て行ったはずだが?」

 「はい。確認して必要があると考えたので、異能戦場の市場に店を構えた鍛冶屋全てに護衛を付けてほしい、とお願いしました」

 「何故そんなことになる」


 貿易のボスから見れば、異能戦場での出来事はついでに聞いたこと以外話題にならなかったことだ。不思議だろう。


 「是忠という名の方をご存知ですか」

 「剣の達人のことか?5、6年前に行方知れずになって以降、誰も姿を確認出来ていないと聞く。何故知っている」

 「私が半年間預けられていた家があった町にいました。剣の師です」


 そんなに驚いた顔をしなくても良いだろうに。

 私には是忠と名乗ったが、町の他の者には違う名で呼ばれていた。特徴的な名前だ。見つかってしまうと考えたのだろう。


 「その町は、東が戦闘パートの者を異能戦場へ送って以降襲われています」

 「は…!?是忠さんは無事なのか?あ…いや、それが分かるなら見つかったと知らせが入るか」

 「それ以前に亡くなっています。そうとも知らず、とある剣を探すために是忠さんを探しました。そして、町を襲います」


 剣という単語に、貿易のボスが肩を小さく震わせる。


 「是忠さんには、東の家に残して来た子供がいます」

 「聞いたことがないな」

 「ウチもない」

 「総代の子供として生活していたのですから、そのはずです。当人はどういう理由か知りませんが、実父の正体まで知っていました」


 自分たちの知らない東を語る私の話に、思ったより興味を惹かれている。剣の達人だという是忠さん絡みだからだろうか。


 「6年前は御用人の手配が始まった頃です。反逆者集団は出来上がったばかりだと予想出来ます。正雄さんと沙也加さんが東を出された時期は同じだと聞きました。正雄さんと晴臣さんが同じ家に住んでいたことは晴臣さんから聞いています」


 2人は顔を見合わせると、頷いた。それがなんの合図なのか、私には全く分からない。話を遮る様子はない。続けるか。


 「是忠さんの子供は、東を出された者と同じ家に住む長男。これが、家族で長男にでも変わったのでしょう」

 「人違いということか?」


 私はただ頷いた。PTSDを患う程の出来事が、人違いで起きた。なんと声をかけて良いのか分からない。


 「だからなにを聞かれているのか全く分からなかったのか。…それで、何故楠巌谷はその剣を探している」

 「分かりません。その剣が特殊な剣であることを、私も知りませんでした」

 「その剣を作った者が、異能戦場の市場に店を構えた鍛冶屋の誰かってことなんだよね?それは、どうして分かったの?」

 「是忠さんが姿を消す前、懇意にしていた鍛冶屋の店主に会いました。名前は聞いていません」


 他の者に作らせた剣かもしれない。店主はなにも知らない様子だった。だが“5年前のある日”という、日付を正確に覚えている言い方が気になる。

 なにか忠告を受けた近い日に、姿を消したのではないだろうか。特定の材料や製法で剣を作ってはいけない、と。あるいは場所だろうか。

 単に約束の日に現れなかっただけか?だが、なにかを知っている可能性があるのは確かだ。探さないわけにはいかない。


 「なるほどな。顔を見たのが絢子だけだということは、確認出来るのは絢子だけ。その間に反逆者集団に襲われては困る。それで護衛か」

 「どうして楠巌谷は、是忠さんがその町にいるって分かったの?」

 「分かりません。ただ、ひとつ思い当たる節があります」


 だが、全て憶測だ。

 しかも反逆者集団だと仮定して話しを進めているが、そうとは限らない。反逆者集団が5年前に探していたことは事実だが、今も探しているとは限らない。

 私が関わっているという疑いを少しでも持っているのなら、異能戦場で会ったときに話題にするだろう。


 「先日の会合で霞城さんが異能のトラブルに巻き込まれたと報告しました。その際殺された者たちは、私がお世話になった方ばかりです」


 町を移っていたり出先だったりで、殺された場所はあの町だけではない。目くらましなのか、知らない者もいた。

 日付が遅くなると、糸に触れた経緯が書かれているものもあった。確実にその者だけを狙っており、無差別でないことは明らか。

 だが共通点が分からず、霞城さんを調査へと出したのだろう。


 「そのときに是忠さんも亡くなったのか?」

 「はい。ですが、是忠さんが簡単な手に引っ掛かるはずがありません。恐らく、わざと殺されたのだと思います」


 この仮説が正しければ、その時点で是忠さんは相手が迫っていることを分かっていたことになる。その情報をどの様に手にしたのかは不明だ。

 ただの剣でないことを知った理由も不明。どの様な剣であるかも不明。

 分からないことが多すぎる。だが、嗅ぎ回れば相手に知られてしまうだろう。下手なことは出来ない。


 「必ず、見せたことのある者に分かる場所に隠してあるはずです。多くの者に見せるとは思えません。私が分かる場所にあると思います」

 「だが、町にはまだ見張りがいるだろう」

 「ですので、剣の実態を掴む方を優先したいです。特殊な物で、隠し場所が限られるのであれば探す場所も少なく済みます」


 あの騒動を起こしたのは、異能『眠れる森の美女』を持っていた反逆者集団で間違いないだろう。だが、騒動を起こした理由が分からない。

 一度騒動を起こしたからと言って、同一犯と決め付けるのも安直だ。特殊な剣であれば、他の者が探していてもおかしくはない。


 「分かった。ただ、ひとつ問題があるんだよね。鍛冶屋の手配をしたのは、畜産のボス。党派があるのは想像出来るでしょ?仲の悪い党派なの」

 「俺は党派的には難しくないが、党派関係なく接しているせいか八方美人だと好かれていない。やはり、みなと良好な関係を築くのは難しいな」


 なにを言っているのか分からない。言葉の意味は分かるが、そういうことではない。党派が、好き嫌いが、なんだって?


 「尋ねた者次第では回答を渋る様な方なのですね。どの様な剣か不明な以上、海という名の湖の向こうまで関係してくることかもしれないにも関わらず」

 「それは流石に綺麗事だね」

 「全ての者が協力し合えるわけではない。だから党派もある。そして人間は、常に合理的な判断を下せるものではない」


 つまり感情に流されて些細な情報も教えないと。私には分からない。だが、それが東のルールだと言うのなら、それに従う他あるまい。


 「ご兄弟を悪く言う様な発言でした。失礼しました」


 一礼し、顔を上げると意外そうな顔をされた。文言は別にして、悪いと思えば謝る。一体どんな無礼者だと思っているのか。


 「ところで何故、鍛冶屋の手配を畜産のボスがしたのですか。素材を扱う組織か、貿易、武闘、経済、この辺りの組織が手配するのが順当だと考えます」

 「畜産のボスになる前は、武闘組織にいたの。戦闘狂とまではいかないけど、そんな()があって武具に詳しいらしいよ」


 武具に詳しいのであれば、尚更話しを聞きたい。特殊な剣のことを、噂程度でも聞いているかもしれない。


 「是忠さんとは懇意にしていたのですか」

 「よくは知らないが、そうなんじゃないか?少なくとも、興味があったことは間違いないだろうな」

 「では是忠さんの弟子がいること。是忠さんが懇意にしていた鍛冶屋の剣があること。これを知らせて、協力してもらいましょう」

 「そうだ、剣に名前が刻んであるんじゃない?」


 そういうものなのか。柄にも鞘にも鍔にもないな。刃にあるのだろうか。一言断って鞘から出すと、それはすぐに見つけることが出来た。ただ…


 「なかったか?」

 「外国語で、読めません」


 文句を言いながら、部屋の隅へ行く。筆記具を持って来て、机に置いた。


 「これに書き写せ」


 見せろと言われれば断れない。だが戦う道具を他者に持たせるというのは、いくら主にでもしてほしくない行為だ。

 書き写し、刃物を仕舞う。


 「autumn…秋、だな」

 「季節の秋ですか」

 「それ以外になにかあるのか?これも知らせるか」


 賛成したということは、農園のボスも知らないのか。知っている者を増やすのは避けたいが、分からないのであれば仕方がない。

 鳩が良い知らせを持って来てくれることを願って、空へ放った。

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