始まり
その日おれは死んだ。夏の暑い日、選手権の地区予選の前日。軽いアップを終わらせて体を少し動かして、ミーティングをして解散。おれは友だちと数人でグラウンドに残り調整をしていた。明日が大事な試合であることはわかっていたし、無理をするつもりもなかった。
しかしおれは熱中症で倒れ、そして死んだ。
おれは目を開けた。あれ?死んでない?生きてる?なんかふわっと死んだ気になってたけど、体が動き意識がある、そして足もある、つまり死んでない?
最初に思ったことは自分の生死について、そして視線を上に向けるとそれはとても大きな市役所だった。
なぜ病院ではなく市役所なのか。そして受付に並んでいるものたちを見て自分の頭がおかしくなったのだと思った。受付にならんでいたものは蛇男に、ウサミミ女、イヌミミ、ネコミミ、小さい妖精?etc…。
目を疑うとはこうゆうことを言うんだなと現実逃避をしていると、どこからかアナウンスが流れていることに気がついた。
「皆さん、まずは落ち着いてください。あなたたちはお亡くなりになられました。詳しい話は受付でお話ししますのでまずは列にお並びください。順番を守り揉め事を起こさないようにお願いします。あっ、ただいま1065番が空いてきていますのでお近くの方はお並びください」
とりあえず何も考えず列に並んだ。おれが並んでいるのは3070番らしい。いったいいくつまであるのか端が遠すぎるのでなんともいえないが3070よりも多いことは間違いないだろう。
周りを見回してみると皆不安そうな顔をしている。これだけ人がいていきなり死んだと言われればパニックが起こりそうなものだがそんなことは全く起こっていない。アナウンスの声を聞きながら自分の番を待つ。
次は自分の番だと思っていると前の人がいきなり消えた。ここにきてから不思議なことばかり起こっているが、これは一番ではないだろうか。驚いていると受付の人から
「結城ハロさん、ですね。受付をしますのでこちらにお越しください」と声をかけられた。声をかけられたら動くしかない。今思ったが受付の人みんな可愛い。
「ハロさんの担当をします、ミラと申します。短い間ですがよろしくお願いします。気になることがあればなんでも質問してくださいね。とりあえず……」
ミラさんは良い人だった。ミラさんに聞く限りここは天国みたいな認識でいいらしい、天国に来た人のこれからを決める場所なんだとか。天国があれば地獄もありそこは生前ポイントが0よりもひくい場所が行くんだとか、生前ポイントはこれからを決める大事なもので平均は100p、おれは150pあった。
ミラさんと相談しながらおれのこれからを決めた。と言ってもおれが選べたのは記憶をリセットして何もかも初めから今の世界に転生するか、多少体が変化するが記憶はそのままで異世界に転移するかの2択しかなかったので転移を選んだわけだが。
おれは2択しかなかったが、多い人だと5択、6択ある人もいるらしい。
そしてスキルを選んだ。選んだと言っても1つしかなかったのでそれで決定するしかなかったのだが。まぁ選ばないという選択をすることもできた。その場合はこれからのことが少し良くなるかも知れない。という程度だったのでやっぱり1択だった気がしないでもないが。スキルは100pだった。残りの50pはスターターセットというのがお得らしく、ミラさんからとてもお勧めされたのでそれにした。
スキルを選んだらお別れらしい。スキルの説明はなかった。ただこれは意地悪ではなくその使用者の可能性を狭めないためらしい。スキルは可能性であり実力と想像力で大きく変わるものなんだとか。そしてミラさんから、そこそこ危険な世界なので頑張って生きてくださいね!と笑いながら言われてしまった。
ただ、転移される場所は人が100人以上いる場所から10キロ以内に必ず転移されるらしい。ミラさんに別れを告げると目をつぶるように言われた。10秒目を開けてはいけないらしい。
頭の中で10秒を数える。数え終わり目を開けるとそこは緑が一面に広がっている。森だということはすぐにわかった。そして木々の間から少しだけ城壁が見えた。最悪村のような小さなところに転移させられることも覚悟していたので、城壁があることに安堵した。
体に重みを感じた。いつのまにかリュックを背負っていたようだ。このリュックがスターターパックなのだろう。すぐに中身を確認したいが森の中で確認するのは怖い。とりあえず城壁に向かに人がいるところまで向かうべきだろう。
歩くこと30分とくに何も起こることなく城壁までついた。スキル「強化」を使ってみたい気持ちを抑えつつだったので小走りできた甲斐があったのかもしれない。転移そうそう猛獣にでも会っていたら笑えない。猛獣がいるかどうかもわからないが。
とりあえず、スターターパック。いやリュックなのでスターターリュックの中身を確認してみる。
今一番入っていて欲しいのはお金だ。何をするにもお金がいる。不思議パワーで靴やローブを着てはいるが着替えもないし、食事もできない。何はともあれお金が欲しい。そんなことを考えながらリュックをゴソゴソやってみる。すると気づいたことがある。
これはもしかしたら魔法のリュックかも知れない。なぜそう思ったかと言うと、どう考えてもリュックに入りきらない大きさの剣が出てきたからだ。鞘を外して構えてみるが、なかなか重い。振り回せないことはないがこれで戦えるかと聞かれると厳しいところがある。
とりあえず剣は鞘に戻し、リュックにしまった。またゴソゴソやる。次に出てきたのは金属の擦れる音のする袋だった。袋を開けてみると、金色のコインが5枚、銀色のコインが5枚、同色のコインが10枚入っていた。価値がわからないのでなんともいえないがとりあえずは信じて使ってみるしかない。予想では金、銀、銅の順で価値が高いとみた。
金が入っていたので一安心していると自分の番が来た。実は剣をリュックにしまった後に城門の列に並んでいたのだ。城門では身分証を持っているかを聞かれただけだった。持っていない場合は銀貨5枚持っている場合は、銀貨1枚を払えばどうしてもらえるようだった。お金を払い門をくぐる。かなりあっさり入れて拍子抜けしてしまった。
ミラさんからとりあえず冒険者ギルドと宿と、換金屋に行くように言われていたので街を見ながらこの3つを探す。最初に見つけたのは冒険者ギルドだった。
中に入ってまず思ったのは顔が厳つい人が多い。絡まれたら困るがギルドカードが身分証の代わりになるそうなので取らないわけにはいかない。受付まで歩いて行く。視線は感じるが話しかけられたりはしなかった。受付嬢はみんな可愛かった。その中で誰も並んでいないところに行く。
「ギルドカードの発行をお願いしたいのですが」
「ギルドカードの発行ですね。この紙に必要事項を書いて提出をお願いします。代筆も承っておりますがいかがなさいますか?」
緊張しながら話しかけると、丁寧な返事が帰ってきた。紙を見て代筆が必要であることがわかった。文字が読めなかったのだ。文字が読めないのはこれから苦労しそうだと考えながら代筆を頼む。ただ書かなくてはいけないことはスキルと自分の名前だけだったようだ。書いた紙を受付嬢が裏に持っていきすぐに帰ってきた。線が3番入った銅板を渡された。
「こちらがギルドカードになります。再発行には銀貨5枚と本人確認がありますのでお気をつけ下さい。では発行料として銀貨3枚をいただきます。」
銀貨はもうないのでとりあえず金貨を出してみる。すると受付嬢は97枚の銀貨を返してきた。とてもジャラジャラしている。これでおしまいらしいとても簡単だ。せっかくなので換金屋と宿の場所を聞く。感謝を述べてギルドを出る。
転移してきた時はだったがいつのまにか昼になっている。正確な時間は分からないが1時くらいだろうか。とりあえず教えてもらった宿に向かう。
宿は1泊朝食付きで銀貨2枚らしい。とりあえず5日分払う。食事処も併設しているらしく朝食もそこで作るようだ。2階の角部屋がおれの案内された部屋だった。拠点もでき、身分証もできた。おかねもすぐにどうにかなることはなさそうだ。リュックを下ろし、ベットの上に乗って、これからの行動を考え始めた。
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