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辺境にある小さな村に冒険者として泊まり込みの依頼を受けてやって来た母が父に一目惚れし、祖父と二人暮らしだった父の家にそのまま転がり込んで猛アタックの末に結婚。
ロキは結婚3年目の吹雪の夜に初産とは思えない程あっさりと生まれて来たらしい。
父親譲りの白金の髪と蒼い右瞳に、母親譲りの紫の左瞳を持って。
ロキが生まれてすぐに村長だった祖父が亡くなり、体の弱い父では不適格だとして祖父の弟が新しく村長となった為、母は村の外れにあった空き家を父の為に細部まで拘って改造し、元の家は荷物を整理した後に譲り渡したらしい。
家を譲った後から月に1度村へ来る行商人に元冒険者の母が狩りで得た毛皮などの素材や父の作った飾り紐などの工芸品を売ってそれなりに稼いでいるのを妬んだ村長からの嫌がらせで、村全体からのけ者扱いされたが、特に困った事も無く、元々ご近所付き合いの苦手だった母は喜んでその分の時間を父と息子を溺愛する為に使っていた。
母からは森の歩き方や武器の取り扱い方を、父からは体調の良い日に文字の書き方などを教わった。母は全く魔法の使えない人だったので、魔法については祖父の本を読んだり、母の冒険者時代の知り合いが尋ねて来た時に色々と学んだ。
ロキが10歳になった年、村から2日程の所にある街へ出掛けた母が予定日を過ぎても帰宅せず心配していた所、1週間後に村に来た行商人から村へ帰る途中で魔物に襲われている子供を庇って亡くなっていた事を知った。ギルドの登録情報から母の実家へと連絡が行き、遺体は親族が引き取ったらしく、木箱に詰まった遺品だけが戻って来た。
母がいなくなった事で父は前よりも寝込む事が増え、ロキは時々兎や鳥を狩ったり小型の魔物を倒したりして家計を支えながら看病したが、2年後に父も亡くなる。
葬儀の後に父を亡くしたショックで倒れたロキは3日の間高熱に魘され、目が覚めた時には日本での記憶を完全に思い出した。面倒を見てやると言って来た村長にきっぱりと断りを告げ、暫くの間は家の中の荷物を整理しながら今後の事を考えて過ごした。
村長の申し出を断った事で村人からの風当たりは更に厳しくなり、同じ頃からマルスに頻繁に絡まれるようになったのもあって酷く面倒だった覚えがある。
冒険者として登録出来るようになるのは成人とされる16歳からなので、それまでは村に留まる事を決め、記憶が戻ってから見る事が出来るようになったステータスを確認し、自分のチート具合に若干引きながらスキル習熟度を磨く事にする。
15歳になってすぐ、新年早々に同年代の子供達が村の集会所に集められた。
何でも、150年程前に確認された勇者が辺境の生まれだったおかげで、国から各地に派遣された騎士によってその年に成人を迎える子供のステータスを無料で簡易鑑定して貰えるらしく、もしも珍しいスキルや職業を持っている事が分かった子供は王城へ招待されるそうだ。ロキは国に仕える気は無いので、冒険者登録の時に表示させる予定のステータスを表示させておいた。
騎士達に同行していた冒険者ギルドの職員に話しを聞くと、戦闘系のスキルを持っているに場合に限り、15歳でも冒険者見習いとして登録出来るそうなのでお願いする。
ロキが注意事項やランクについて説明を聞いているところへ、村人達から大げさに持ち上げられて有頂天になったマルスが近づいて来て、自分も冒険者になると言い出した。
その上、ロキを自分のパーティメンバーにしてやると上から目線で話し掛けて来るので、咄嗟に「嫌だ」と断ると、顔を真っ赤にして走り去って行ったので安心していたら、ロキに断られたマルスは村長に泣き付いたらしく、丸め込まれた職員がパーティとして登録してしまった為、16歳になってからマルスと一緒に村を出るはめになった。
冒険者パーティを抜けるにはギルドで発行される正式なパーティ離脱届けが必要になる。
正直に頼んだ所でマルスが素直に申請してくれる筈も無いので、ロキは冒険者ギルドの支部がある街へ向かう途中は態と手を抜いたり、街へ着いてからも弱気な発言を繰り返したりしてマルスがパーティ解消を言い出すのを待っていた。
……流石に、何の事前予告も無く、いきなり追放宣言されるとは思っていなかったが。
(何にせよ、無事パーティも抜けられた事だし、これからは好きに生きよう)