01
「お前を今日限りで俺のパーティから追放する」
討伐から帰って来て受付で清算を済ませギルドに併設されている酒場に着いた途端、ロキはパーティのリーダーであるマルスによって、何の前振りも無く一方的にそう宣言された。
「……え?」
「お前みたいな動きはトロイし魔法も大して使えない足手纏いの役立たず、今日まで置いてやっただけでもありがたく思うんだな」
そう言ってマルスは空いている席に座り、エールを注文する。
ロキは入り口で停止した足を動かして、マルスの向かい側に座って口を開く。
「そんな事、いきなり言われても困るんだけど……」
「もう決まった事だ、分かったらさっさと荷物まとめてどっか行け!」
「それ、他の皆も同じ意見なわけ?」
「アイツらもお前の事は足手纏いだって迷惑がってたからな、聞かなくても反対するヤツなんかいる訳ねぇだろ」
「……はぁ、分かった。抜けるのは構わないから、今日の取り分渡してくれる?」
「着いて来るだけで何もしてねぇんだから、お前の取り分はナシに決まってんだろ!?」
マルスがテーブルにジョッキを叩き付けた音に周囲の視線が集まった。
周りへ問題無いと手を振り、どうせ食い下がっても体力の無駄だと思ったロキは溜息を飲み込んだ。テーブルに飛び散ったエールを拭きながら最低限の望みだけを口にする。
「それならギルドに正式な届けを出してくれる?」
「はぁ!?知るかよ!何でお前の為に、俺がわざわざ面倒な手続きなんてしなくちゃなんねぇんだ!!」
「正式な手続きをせずにもし俺が失敗した場合、損するのはマルスだけど?」
「チッ」
冒険者パーティは基本的に連帯責任だ。パーティの誰かが個人で依頼を受けて失敗し違約金を払えなかった場合、同じパーティの仲間が強制的に肩代わりさせられる事になる。
「……しょうがねぇな、さっさと面倒な手続き済ませんぞ!」
マルスはグラスに残ったエールを一気飲みすると、不機嫌そうに受付へ向かう。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」
「こいつの登録を解消しろ」
「……パーティの離脱手続きでよろしいですか?」
「そう言ってんだろうが!」
「承知致しました。それでしたら認識タグ、またはギルドカードの確認をさせて頂く事になりますが、宜しいでしょうか?」
「すみません、よろしくお願いします」
ロキが言われた通りに首から掛けていた認識タグを外して渡すと、マルスも小さく舌打をした後に乱暴な動作で腰から外した認識タグをカウンターに置いた。
二人の認識タグを受け取った受付嬢が手元の魔導具にかざして手早く情報を確認する。
「確認致しました、マルス様とロキ様ですね。今回はロキ様のパーティ離脱手続きと言う事ですが、理由の方をお伺いしても?」
「そんなもん、こいつが足を引っ張るだけのお荷物だからに決まってんだろ」
「そうですか……"個人とパーティとしての能力に明確な差が生じた事が原因"と言う事で宜しいでしょうか?もし間違いが無いようでしたら、こちらの書類をよく確認してから、一番下の署名欄にサインを頂けますか?」
ロキが渡された書類を隅から隅まで確認している横で、マルスは読まずに署名している。
「何をちんたら読んでんだよ!!さっさとサインしろ!」
マルスが横で何やら喚いているが、ロキは特に気にせず最後の項目まできちんと内容を確認してから、丁寧に自分の名前を署名した。書き終わった書類をマルスがひったくるようにロキの手から奪い、自分の分の書類と一緒にカウンターに叩き付ける。
「これで良いんだろ?」
「えぇ、結構です」
署名入りの書類を受け取った受付嬢は机に置いてある魔導具に認識タグと書類をセットし、何やら操作し始める。少し待つと魔導具のランプの色が変わった。
「ロキ様のパーティ離脱が確認できましたので、お預かりしていた認識タグをお返しします」
マルスは受付嬢の手から認識タグをひったくるように乱暴に取り返すと、
「二度と俺の前にその面見せんじゃねえぞ」言い捨てて酒場へ戻って行った。
「お手数をお掛けしました」
「いえ、またのご利用をお待ちしております」
ニコリともしない受付嬢に業務的に見送られ、ロキは静かに冒険者ギルドを後にした。