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ココロ・プロブレム  作者: 谷木 大來
第三章
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第三話 手がかり

 その後、ユーコーが学食でなにか食べていきたいと言うので、聡恵もそれに付き合うことにした。

 ユーコーと向かい合って食事をしていると、

「よ、お二人さん」

 と、背後から陽気な声をかけられた。振り返ると、トレイを持った小池と合田の姿があった。

「あ、お久しぶりです」聡恵は頭を下げた。

「いやあ、また会ったねえ」

 小池は人当たりよく言って、ユーコーの隣にトレイを置いた。

 合田は聡恵の隣に座った。「今日も、KPS……だっけ? その活動してたの?」

 聡恵はうなずく。「まあ、そんなとこですね」

「そうだ、横江さんには会えた?」小池がユーコーに聞いた。「ダンススタジオが代々木にあるってだけじゃ厳しいかな、と思ったけど……」

 ユーコーが答えた。「ああ、ちゃんと会えたよ。あの時はありがとう」

「ならよかった」小池は無邪気な笑顔を見せた。「それで横江さん、どうだった? 実はけっこう気になっててさ」

「うん、私も」合田も同調した。

「例の書き込みをした理由はまだ聞けてないんだ」ユーコーは神妙に答えた。「一緒にダンスショーに出たりして、仲良くはなれたんだけど」

「え?」小池は大きな目をぱちぱちさせた。「すごい――なんでそんなことになったの?」

 聡恵が説明する。「ユーコーのブレイクダンスを見た優佳さんが、一緒にショーに出てほしいって頼んできたんです。ユーコーのダンスなら、お客さんの注目を集められるからって」

「へえ……ところでユーコーって誰?」小池は不思議そうな顔で言った。

「俺のニックネームだよ」ユーコーが得意そうに言った。「サトちゃんがつけてくれたんだ」

「サトちゃんっていうのは、花菊さんのことね?」

 合田の問いに、聡恵は恥ずかしさを覚えつつ頷いた。

「なるほど。お二人の仲も進展したようですな」言って、小池はわざとらしく目を細めてユーコーを見た。「てか、風山さんってブレイクダンスもできるんだ……いったい何者?」

 ユーコーは小池に向かってニコりとしてから、話を進めた。「そういうわけで、今度ダンスショーの打ち上げをやろうってことになったんだ。書き込みをした理由は、そのとき聞かせてもらえるはずだったんだけど――」

「――何か問題が?」合田が尋ねた。

「昨日から優佳と連絡がとれなくなっちゃってさ。原因はたぶん、例の書き込みに関係してると思う。ダンスショーも成功したことだし、もう大丈夫かなと思ったんだけど……油断してたよ」

 そう話すユーコーの口ぶりには、後悔の念がこもっているように感じた。

「普通そう思っちゃいますって」小池がなだめるように言った。「横江さん、弱みを見せないタイプっぽいから、周りも気付きにくそうだし」

「まあね。でも、そんな優佳がパシェで本音を出しちゃうくらいだから、そうとう辛い悩みがあるはずなんだ。本人も無意識かもしれないけど、誰かに助けてほしいって気持ちがあると思う――だから、絶対に助けるよ」

 ユーコーは凛々しい表情で決意を表明した。

「カッコいいですね」合田が柔和な顔で言った。「私たちも、できることがあれば協力します」

「ありがとう」ユーコーは微笑した。「じゃあちょっと聞くけど、優佳の実家の連絡先って知ってたりする?」

 小池と合田は、ううん、と申し訳なさそうに首を横に振った。

「まあ、そうだよね……」ユーコーは微苦笑した。「いや、様子を確かめるためにも優佳に会わなきゃと思ってるんだけど、誰も下宿先を知らないみたいでさ。で、さっき学生課で教えてくれないか頼んでみたんだけど、突っぱねられたよ。それじゃあ親御さんに連絡してみようってことで、優佳の実家の連絡先がわかる人を探してるんだ。いま、玲が友達に聞いてくれてるとこなんだけどね」

 ユーコーが経緯を話すと、合田が口を結んだまま唸った。「連絡先がわかる人なんているのかな……近所に住んでる人とか、遊びに行ったことがある人なら、家がどこにあるかはわかるだろうけど」

「そだね」小池が同意する。「あたしだって、ナホの家は知ってるけど、家の電話番号は知らないし」

「家がわかればオッケーだよ。直接訪ねて行けばいいんだし」

 あっさり言うユーコーに、聡恵は苦言を呈した。「最悪そうするしかないにしても……いきなり家に行くのはどうかと思うよ」

「あ、確かにマナーには気をつけた方がいいかも」合田がはっとしたように言った。「横江さんのお母さんってすごく教育熱心で、厳しいって話だから」

「え、そうなの?」小池が意外そうに言った。

「まあ、小学校の頃の話なんだけどね。私が四年の頃だったかな。うちのお母さんがPTAのクラス委員に選ばれたんだけど、そのときの学年委員長が横江さんのお母さんだったの。うちのお母さんは嫌々引き受けたんだけど、横江さんのお母さんは毎年立候補して委員になってたんだって」

 小池は眉をひそめた。「PTAかあ……何してるのかよくわかんないけど、めんどくさそう。教育熱心じゃなきゃ、進んでやりたいとは思わないよねえ」

「今から緊急集会を開くから学校に来てください、っていきなり電話がかかってきたこともあったみたい。やる気が違いすぎてついてくのが大変、ってお母さんがお父さんに愚痴ってたの覚えてる」合田は苦笑しながら言った。

 いまの合田の話を聞いて、聡恵はふと気にかかった点があった。

「あの――」聡恵は切り出した。「つまり、優佳さんのお母さんは、合田さんの家の電話番号を知ってたってことですよね……?」

 合田は少し間をおいてから言った。「まあ……そうね。委員長だし、委員の連絡先は聞いてたんじゃないかな」

 聡恵は重ねて質問する。「なら、逆はどうですか? 委員も、委員長の連絡先を聞いてたんじゃないですか?」

「ああ、それはあるかも」ユーコーが指を鳴らした。「合田さん、確かめられるかな?」

 合田は真剣な面持ちで頷いた。「帰ったら母に聞いてみます。いい報告ができるといいですけど」


 その日の深夜、合田から届いたパシェのグループメッセージには、一件の電話番号が載せられていた。当時、優佳の母親が主導してPTA委員名簿を作成していたらしく、それが運よく残っていたとのことだった。

 番号が変わっていない限り、これで優佳の親と連絡がつくはずだ。聡恵は玲と菱田に、パシェでそう報告した。

 もう日が変わってしまっている時間なので、さすがに今から連絡するわけにもいかず、電話は朝になってからユーコーがかけることになった。

 聡恵は一抹の不安を覚えた。誰でも、見ず知らずの男性から電話がかかってきたら、どうして番号を知っているのかと不審に思うだろう。しかし、こちらには優佳と連絡がとれない状況を知らせるという真っ当な目的があるわけだし、きちんと事情を話せばわかってもらえるはずだ。

 問題は、ユーコーがそれを誤解のないように伝えることができるかだ。突飛な物言いをして、話がこじれることにならなければいいのだが――。

 それと意外だったのは、優佳の母親がかなりの教育ママだということだった。親が厳しいと、その子どもはある程度真面目くさって育つように思う。どちらかというと、自分もその部類に入るだろう。だが、優佳からはそういうところはまったく感じられなかった。むしろ、かなり自由奔放に育てられてきたような印象だった。それはもしかしたら、厳しくされすぎたことによる反発の結果なのかもしれない――と、聡恵は勘ぐった。

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