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至福のとき

作者: 菅井一星




「おはよう」の一言ではじまった幸せな一日。





ベッドから起きるとエアコンで温まった部屋のテーブルにはご飯、ちょっと焦げた卵焼き、そして僕の大好きなじゃがいもの味噌汁。料理が苦手な彼女ががんばって作ってくれた朝ごはん。

僕はしょっぱい卵焼き派だが、今日は甘い卵焼きがおいしく感じた。質素に見えるかもしれないがとてもおいしかった。それは二人で食べるという隠し味が入っているんだとニヤニヤしながら食後のお茶を飲んだ。



彼女は大学の後輩。




出会いはサークルの新入生歓迎会。彼女と出会い僕はサークルにまた参加するようになった。髪はショートカットの焦げ茶色。身長は150センチくらいの細見。そしてあの子供のようなまぶしい笑顔。僕の理想だ。それを見た僕はトイレに何回も行くふりをして彼女との席の間隔を詰めていった。





でも彼女の周りには新入生の男たちが歌舞伎町のキャッチのように人が集まっていく。「大学デビューのガキが群がるな、お前らなんかにあの子は落とせねーよ」と大学デビューが心の中で叫んだ。




その日結局彼女とは一言も話せなかった。翌日からグループLINEの彼女のアイコンをタッチし追加のボタンと見つめあう日々が続いた。新入生歓迎会の時に心で叫んだことが自分にブーメランでかえってきたなんて恥ずかしくてゆえない。




こんなんだから彼女出来ないんだなと思いながら僕は家の近くのスーパーでレジ打ちをしていた。深夜1時までのバイトは時給が高く、うるさい社員もいなくて同世代が多い。大学入学時から働いてベテランの僕にはそこが自分の居場所になっていた。





そんな天国のような場所に見覚えのある女の子がやってきた。その女の子はハーパンにクロックス、Tシャツの上にパーカーに濡れた焦げ茶のショートカット。その顔を見た僕はきっと彼女の笑顔以上のまぶしさをはなっていたと思う。

レジを離れて作業を命じられた僕はベテランの特権を使い拒否し彼女が自分のレジに来るのを待った。10分後僕の企み通りに彼女がレジに来た。




「いらっしゃいませ。ポイントカードはお持ちですか?」


と平然を装って接客した。





「あ、この前の新歓いましたよね?バレーサークルの」




と言ってくれないかと期待していたが彼女からの言葉は




「持ってないです。」



そんな都合よくいくわけないよなと黙々とレジを打った。

彼女は野菜、肉、卵、お茶、パン、調味料などを買っていた。スーパー店員あるあるだがカゴの中身をみてこの人が何を作るかを想像しながらレジを打つ。それをやっていたらますます彼女が気になっていた。レジが終わりお会計をしようとすると彼女が






「ポイントカードつくりたいんですけど」


今思うとこの言葉がなければ今の関係はなかったと思う。





「ポイントカードはサービスカウンターで作れますよ。お会計終わったらご案内しますね。」


お会計を済ませサービスカウンターに案内すると担当の人が電話対応していてため新人にレジを代わってもらい僕がポイントカードを作ることになった。


「こちらに記入してもらってよろしいですか?」と記入用紙を書き始める彼女。どのお客さんでもこの時間は沈黙になる。でもここしかないと思った僕はありったけの勇気を振り絞り彼女に話しかけた。







「この前の月曜のバレーサークルの新歓いたよね?」




すると彼女はこう言った。





「あ、やっぱりそうですよね?新歓にいた先輩だってレジで思いました。」






「好き」






言えるわけもないけど言ってしまいそうなくらい感情が高まった。


もうここからはポイントカードのことなんかどうでもいい。


お互いの名前、住んでる場所、サークルのことなど話盛り上がってしまった。




「一人暮らし始めたばっかでこの辺に友達いないんで仲良くしてください!サークルも入ろうと思てるんで」


と彼女は万弁の笑みで言ってきた。




バイトが終わり喫煙所で一服しながら僕はLINEを開きずっと押せなかった「追加」の画面をどや顔で押した。



家が近かったので夜散歩したり、公園で話したり。サークルでも会っていたけどそこではあんまり話さない。だけどそれが僕にはたまらなかった。


こんな日々が続いて迎えた5月の中旬。



初めてのデート。場所は鎌倉。5月にしては暑いと感じる。最寄りの駅で合流し電車で向かった。

鎌倉につき小町通りで食べ歩き。鎌倉揚げ、しらすたこ焼き、ソフトクリーム。

それをおいしそうに食べる彼女。それを見ているだけで幸せだった。

食べすぎたので歩いて江の島に向かう。音楽の趣味が一緒だった僕たちはお互いの好きなバンドを聞かせ良さをプレゼンしながら歩いているとあっという間に江の島についた。


江の島のタワーに上ったり、たこせんを食べたり、猫と戯れたりしているとあっという間に日が暮れてきた。






長い階段をおり海岸に向かうとちょうど夕陽がきれいに見えた。

海岸を歩きながら僕は彼女に言った。








「ねぇ、お前のこと好きだわ。俺と付き合って?」








前日いろいろ考え結果シンプルに告白を決意した僕に対しての彼女の答えは





「うん!!!」






と万弁の笑みで答えてくれた。





帰り道の電車ではずっと手をつないでいた。周りに何と思われようと僕は手を離したくなかった。



そのまま彼女はうちに泊まることになった。映画を見ながらソファーでウトウトしていると彼女が




「ねぇねぇ」





目を覚ますと唇が重なり合っていた。お互い照れながらももう1回。





そしてそのままベッドへ。

しかしお互い疲れていたのもあって寝ることにした。




彼女は僕の腕を枕にし眠そうな顔でこう言った





「おやすみ」







僕は眠りについた。幸せだった1日を噛みしめて。










朝、起きてみると彼女の姿がなかった。温もりすらなかった。







しかし僕は何事もなかったように大学に向かい授業を受けバイトに向かう。

















そう、彼女との思い出はすべて妄想。こういうことしたいなというただの妄想。







彼女が今どこで何をしているか僕は知らない


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