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対話するスライム

 本当に何者なのだろう。

 人間か、それとも人形の魔物か。

 スライムはいつでも動けるように身構えつつ、その内に宿す眼球で目の前の少女の観察を続ける。

 

「困りましたね。本当に害意はないのですが……」


 それはきっと嘘ではない。

 実際、魔物を前にしているのに少女からは何の意思も感じ取れない。害意も敵意も、目玉を浮かべたスライムを前にしたことに対する恐怖も。

 何もかもが読み取れない。それがまた不気味である。


「まあいいでしょう。それよりスライムさん。警戒はそのままで構いませんが一つだけ聞いていいでしょうか」


 何だ、とスライムは思う。


「スライムの住処は西の平野だったはずですが、何故ここに?」


 少女は問う。が、声帯を持たないスライムにはそれに答える術はなく、ただ全身をぷるぷると波打たせるだけ。

 そのことに直ぐ思い至った少女は、


「あ、すいません。そうでしたね。ちょっと待ってください」


 ゆらりと掌を前に突き出す。と、その掌の中心に白い輝きの波紋が生まれ、虚空を蝕んだ。


「"翻訳魔法"」


 白い光がスライムの総身に降り注ぎ、広がる陽光のように包み込んだ。

 

「!」


 この力をスライムは知っている。

 よく知っている。

 

(……これはまさか魔法)


 ある一定のレベル以上の魔物のみが扱うとされる異能。

 それがこの魔法という力だ。

 勿論スライムには使うことはできないし、あの狼の魔物も魔法を使うことはできない。

 そんなスライムにとっては絶対に手の届かないような遥か彼方の位の力を、目の前の少女は事も無げに使ってみせた。


「よし、これで大丈夫でしょう」


 完全にレベルが違う。

 その気になればスライム程度では瞬殺。

 あの狼の時のように何とか一撃を与えて、逃げ切ることなどは不可能。

 無理だ。


「それでは君のことを教えてください。どうしてここにいるんでしょうか」


 もはや従うほかないだろう。

 折角あの狼から逃げ切ることができたのに今ここで目の前の少女の不興を買って殺されてしまうのは絶対に避けたい。


「勇者が襲ってきたので逃げてきた」


 スライムの内側から意思が音として表出した。

 これが少女の使った魔法の効果なのだろう。


「……ああ、勇者のレベル上げに巻き込まれたというわけですか。ということは大量に仲間を殺されたでしょう」


「っ」


 スライムは思わず憤怒に全身を震えさせる。

 勇者に同胞を虐殺された光景がフラッシュバックしてきて、憎悪に身を焦がす。

 と、その荒々しい思いを察した少女は成程と得心する。

 恐らく勇者から逃げ果たせた後にこの森で狼の魔物と遭遇し、運良く眼球だけを喰らうことができたのだろう。

 実際はスライム程度ではこの森の魔物に一撃でも与えることなどは難しい。だが、喰われてる最中を狙えばあるいは……。

 可能性だけはある。

 ただ、喰われてる最中に捕食者を逆に喰らい、逃げ果せるほどの生き汚さ。

 そこまでの生への執着は本来魔物にはない。

 ならば何が彼をそこまで生汚くしているのか。

 答えは簡単。



(スライムの分際で勇者への憎悪、ですか)


 少女は思わず笑う。



(身の程知らずで実に滑稽。愚かというべきか)


 ですが、と少女は笑みを大きく広げてゆく。


(面白い。最弱のスライムが神の使徒たる勇者を打ち倒す構図、興味がありますね)


 



 

 

 

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