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視覚得るスライム

 少しでも狼から距離を取るために延々と跳び続けた。

 ただ移動を続けた。

 だが、狼の一部を喰らったとはいえ所詮はスライム。

 その鈍足では、ほとんど距離を稼げない。

 それでもただ移動を続けるのは、あの狼の魔物の脅威が完全に消えたわけではないからだ。

 いや、あの狼の魔物に限らない。

 恐らくこの森を縄張りにする魔物にとって、この余所者(スライム)は邪魔者で、ただの捕食の対象だ。

 見つかれば一貫の終わり。

 あの狼の時と同じく為す術もなく喰われるだけだろう。

 まだ一瞬たりとも気を抜けない。


 それ故にスライムは今、移動しつつも同時に身を隠せる場所を探していた。

 

(どこに隠れれば……)


 出来れば水辺がいい。

 スライムにとって水分は薬のようなもので、多少の時間はかかるが取り込めば失われた部位を再生させることもできる。

 これはスライムがスライムの身体だからこそ持ち得る自己再生能力だ。

 この能力を生かすため、身を隠すのならば出来るだけ水辺がいいと考えているのである。


 そうしてスライムは転がるように移動を続け、その先に一つの光を見付ける。


(あれは、なんだろう)


 木々の合間の果てから漏れるそれは純白の輝きだった。


(綺麗……)


 スライムには目はなく視覚もないが、にもかかわらず目を奪われてしまいそうなほどの美しさ。

 その輝きにスライムは、気が付けば夜の街灯に群がる羽虫のように白い光の元に身を進めていた。

 無意識に……。

 歩みを進め、その先の光の中まで突き進むーーと、そこには巨大な湖があった。


(……すごい)

 

 スライムは本心からそう思いながらも目の前の巨大な湖の存在に圧倒されていると、不意に一つの声がかかる。


「おやおや、このような場所にスライムとは珍しいですね」


「!」


 びくりとスライムは全身が波打った。

 

(み、つかった)


 ぷるぷると震えながらもスライムは、声の方向に意識を向ける。と、そこにあるのは人間の気配。


(……ニンゲン?)


 だが、スライムはその気配が本当に人間のものか判断に躊躇われた。

 

(本当にニンゲンか?)


 スライムは視覚の代わりに別の感覚機能として視覚に近いような対象識別能力を持っており、その感覚機能で察した気配は人間のもので間違いはないはず。だが、今目の前にいるそれは人間のものにしてはあまりにも、禍々しい。

 気配こそは人間のものだが、その性質はどちらかといえば自分たち魔物に近い。

 そんな異様な気配だった。


(あ、そうだ。あれを試してみよう)


 と、そこでスライムはそのことを思い出して、一つの試みに挑む。

 ぶくぶくとスライムの半透明の体の内に気泡が生まれ、それと同時にギョロリと眼球が浮き出た。


「!」


 この眼球は先ほど喰らった狼の目だ。

 その目を使った瞬間に目の前に景色が鮮明に映り出した。

 

(これがセカイ)


 煌々と湖が光を反射して輝き、湖畔の一面には花が咲き乱れ、それらの神秘を背景に、一人の少女が目を見開いて驚きの様子を見せていた。


(そして、これが禍々しい気配の正体か。ただの人間の子供だ……)


 白雪のように白銀の髪を腰まで伸ばし、切れ長の目に、白い肌。背丈は小学生低学年ほどしかなく華奢で見た目は普通の小学生のようだが、その上から羽織った大人ものの白衣だけが少女の違和感を全面的に押し出していた。


 少女は見開いた目を直ぐに細めて、眼球を体内に泳がせるスライムの姿を見下ろして「これは……」と呟いた。


「中々に面白いですね」

 

 少女は鈴の音のように耳心地の良い声で、言葉を紡ぐ。


「まさかスライム如きがこの森の中で魔物を喰らうとは……、いや見たところ一部しか同化してないようですが、それでもただのスライムが」


 くすくすと少女は笑う。が、しかしスライムは目の前の謎の存在に警戒心だけを強める。

 人間か、それとも魔物か。

 どちらにしてもスライムにとっては最悪な存在であることは間違いはないだろう。

 すると、そんなスライムの警戒に気が付いたのか少女はにこりと微笑む。


「安心してください。ボクは別に君をどうにかするつもりはありません」


 そうは言うが、そんな程度で警戒を解くほど今のスライムの警戒心は甘くはない。


「やれやれ、困りましたね。本当にどうにかするつもりはないんですが……、まあそれをただ言葉で述べたところで信じられるわけもないのは当たり前かもしれません」


 肩を竦めて呆れた風な素振りを見せる。だが、どこか白々しい。

 まったくもって掴み所のない気味の悪い女の子である。

 



 



 

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