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平等院籠愛は罰を与えたい(結)

 それは平等院籠愛の先輩である兵藤佐助が女子生徒とふたりで図書室に入ったのを見た時のことだ。


(お、兵藤先輩にもようやく春が訪れたってことですね!)


 スクープ、スクープとばかりにスマホ片手に彼らに近づく。


(普通なら空き教室を狙うんでしょうけど、先輩ってば大胆ですねー)


 イチャイチャする瞬間を狙ってカメラを構える。

 しかし、一向にそういうことをする気配がない。

 おかしい。


(だったら兵藤先輩はなにを……)


 分厚い本で顔を隠しながら、徐々に近づいていく。

 そして、彼女は衝撃を受ける。


(兵藤先輩が勉強しているううううううううううう!)


 明日は雪でも降るんじゃないかと籠愛は思う。

 と、いうよりも。

 ぷるぷると彼女の身体が小刻みに震える。


「う、裏切り者おおおおおおおおおおおおおおお!」


 ここが図書室であることも気にせず、大声を上げて裏切り者である佐助を指差す。


「うお、なんだよ平等院か」

「この裏切り者! なにが勉強しない、ですか! めっちゃしているじゃないですか!」


「いやこれには訳があってだな」

「そんな言い訳聞きたくないです! 兵藤先輩正気ですか? まだテストの一週間以上も前ですよ?」


「こちとら事情が変わったんだよ。補習とか絶対受けらんないの」

「ふうん。補習が嫌で勉強を……」


 事情を聞いたにもかかわらず、籠愛の瞳は侮蔑のそれだ。


「そんなものバックれればいいじゃないですか! 兵藤先輩の専売特許でしょ!」

「俺のことをなんだと思ってんだよ!」


「童貞です!」

「いやなんでそっち系にいった!?」


「あ、童貞なんですか。へえ……」

「やめろその目! 童貞とは認めていないだろ!」


「え、違うんですか?」

「……う、うるさい。平等院だって似たようなもんだろうが」


「やめてくださいよ。わたし経験あるんで」

「え?」


「わたし処女じゃないんで」

「へ、へえそうなんだあ。ふうん」


 ショックというか、敗北感というか、なんだかよくわからない感情に押しつぶされる佐助。


「あはっ、兵藤先輩信じたー」

「なっ――う、嘘だったのか!」


「どうでしょうかねー。一度やってみたらわかるかもしれませんよ?」

「だれがやるか!」


「あー、いいんですかー? もうこんなチャンスありませんよー?」

「……い、いいっつってんだろ! というかそんな簡単にそういうこと口にするな!」

「あははー、そういうところですよ。兵藤先輩の優しさなのかなんなのか知りませんけど、女の子からの誘いを断るからいつまでもチェリーボーイなんですよ」


 どこまでも人をおちょくってくる相手に佐助のはらわたは煮えくり返っていた。

 なので、こっちから攻めみようと考えた。


「じゃあ、お望みどおりやろうか」

「ほらほらー、わたしが待ってます――え?」


「やるんだろ? ならさっさとやろうぜ?」

「いやいや待ってくださいよ。そういうのは然るべき手順を踏んだのちにやるものであって」


「おいおい、もうこんなチャンスないんじゃなかったのか?」

「なーんて、兵藤先輩ならまだまだいくらでもチャンスありますって。だからそういうのやっぱやめません?」

「ここまで来てやらないって選択肢はないぜ? ほら、脱いでみろって」


 下卑た目を後輩に向ける最低な先輩だった。

 冗談でやったつもりが、結構効果があり、大満足だった佐助は「なーんちゃって」と言おうと口を開きかけたが。

 周りの目が自分に向いていることに遅まきながらに気づく。

 そのすべてが軽蔑の眼差しであることは言うまでもない。


「ち、違う。これはただの冗談で。有栖川もなんとか言って――」


 救いを求めた少女のほうを向くと、彼女はものすっごい遠くにいた。

 一歩どころではない、引かれようだった。


「ごめん、兵藤くん。今日はもうわたし帰るね」

「ちょ、有栖川待ってくれ。誤解だって!」


 逃げるようにして図書室から出ていく彼女を追って佐助も出ていく。その際にうるさくしたことを謝ることも忘れず、「誤解ですからね!」と一応の言葉を残していった。


 ふたりがいなくなると、ふんと鼻を鳴らす。


「わたしを裏切って勉強とかやっている兵藤先輩が悪いんですからね」


 お灸をすえた籠愛は今日も今日とて能天気に過ごす。

 ちなみに彼女は一年生の中でトップ10入りを果たした。

 平等院籠愛、なかなかの秀才である。


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