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媚び諂い、心中。

作者: 薔薇の人


寂しさ、孤独が嫌ならば人に媚びなさい。


そう言って彼女はため息をついた。

半ば、自分はそれを諦めたけれど、といった表情で。

達観にもよく似た絶望の境地。

他人に期待しないことがどれ程に楽であり、哀しいものなのだろうか。

自律に自律を重ねて生まれたのがそれだったとして、

彼女の芯(心)はどれ程に堅く……閉ざされてしまったのだろう。

核融合のように自己で自己を温めて生きている彼女に聞いても答えてはくれない。

一体どうしてそんなに傷付いては殻に閉じこもってしまったのか。

まぁ、そうは見えないように振舞うのが彼女なんだけれども。

僕にはとても痛々しくて見ていられないよ。

でも、目を離せないでいる。


(気付いてよ、僕の存在に。)


僕だってそうなれたら良いのかな。

まったく思ってもいないことを考えてみる。

生きてきてそれなりに裏切られることはあった。

でも、それを掬ってくれる人がいたから今の僕はいられるんだ。

あの時に孤独だったら僕は折れてしまっていたかもしれない。

多分、彼女にはそういう救いがなかったのだろう。

もしくは自分から遠ざけてしまったのか。

いずれにせよ結果として救いの手は彼女に届かなかった。


(人に媚びなさい。)


ハウリングするその言葉に喉を鳴らす。

僕の知っている著者の作品に”お道化”という言葉が幾度も出ている。

その人は、孤独と他人に対する違和感を痛烈に感じながらも尚、お道化の道を進む人だ。

そうして人間モドキを演じては世間の疑問や人間の浅はかさに嘆息していた。

お道化という薄っぺらい演技の裏には、底深い闇があったに違いない。

その人の生まれた星が偶然に孤独を甘受しなければ生きていけない人生だったのか。

まぁ、最期には酒と、薬と、女とで、溺れて死んでしまったけれど。

きっと、他人に媚びて延命することに疲れてしまったのだろう。

そして、けれども孤独には耐えきれなかったのだろう。

赦せる存在にたった数回、共に死を臨んだだけであって。


僕はその人みたいに上手くお道化なんて出来ないよ。

媚びへつらい、それで更にバレない笑顔をみせるなんて芸当は。

他人の表情を敏感にいち早く察知して、ベストな行動を取るなんて出来ない。


でも……、僕は馬鹿だから、人の悪意に鈍感でいられる。

彼女も、その人も、鋭敏な感受性を生まれ持ち苦しんでいるのかもしれない。

顔色を窺う、ではなく、見えてしまうのだろう。

きっと彼女にだって人間に媚びるように求愛する過去があったはずだ。

そうでなければ諦めたりなんてしないだろうから。

何があったのかは分からないし、聞いてしまって過去を穿り返すのも無駄だ。

だから想像でしか理解したつもりになれない。


(薄い壁が、彼女との間にいつもあるのを感じていた。)


どうにかして掬いあげたいと願う。

他人なんか信じなくていい。僕だけ存在を認めてくれればいい。

固く冷たくなったその心にもう一度だけ、生命の息吹を与えられたのなら。

その為に必要なものは何だろう。思考が渦を巻く。

きっとずっと寂しかったのだろう。孤独だったのだろう。

凡人より遥かに鋭敏な感受性を持ってしまった彼女は、

他人よりも弱虫になりがちだったのかもしれない。

それは仕方のないことだと思う。

悪意、裏のある善意、がいつもそれ単体で寄って来るわけではない。

大体カモフラージュされていて、良い友人が急変することだってあり得る。

そういうものに傷付けられ避けてきたのなら、純粋な愛すら知りえないはずだ。

彼女目線の純粋な愛があるのかも分からないけれど。


でも、僕なら言える。僕ならそれを実現させてあげられる。

根拠も理由もない自信と、お道化ゼロの答えをようやく見つけた。

媚びではない求愛を。裏のない真実の魂の言葉を。










「一緒に、死んでくれませんか?」


その一寸後、彼女の表情に光が灯るのを見た。


君は、愛とは死を共に別ち合うことであると知る。



結局のところ、人間なんていつか死んでしまうものなのだ。

産まれる時は1人でも、死ぬ時は、魂を割るその時くらいは、

貴方を孤独になんてさせないから。


もう二度とそんな思いはさせないよ。


さぁ、悪意蔓延るこの世に、さようなら。

永久の愛を貴方に預けます。



手折る花よ、存在は ここに在り。


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