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ハイイロセカイ

作者: 五月憂

 私には、私のルールがあった。

 ――思考にも、日常にも、人生にも――



 ひび割れたコンクリートの壁に、幾つもの掻き傷のついた木製の床。そこに木霊すように響く笑い声。

 ……うるさい

 時刻は、十一時。授業の真っ最中だ。しかし、教室の空気はそれに似つかわしくなく騒がしい。他愛のない会話をするもの、大きな笑い声をあげるもの、居眠りに勤しむもの。

 教卓の教師は、注意をすることなく淡々と授業を進める。

 私は、この劣悪な環境が嫌いだ。両の耳を塞ぎたい。両の目を閉じたい。……そう思うのはおかしいことなのだろうか。静かに授業受けたいと思うのはおかしいことなのだろうか

 


 終業のチャイムが学校全体に響き渡る。

 「はぁー疲れた」

 疲れるのはこっちだよ

 伸びをする生徒に、思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。

 休み時間は嫌いだ。話しかけてくる男子はたいして面白くないし、女子は自慢と欺瞞で塗り固められている。正直言って関わると疲れる。

 友達がいないわけじゃない。ただし、休日一緒に遊ぶほどの仲でもない。それは本当に友達かと聞かれるかもしれないが、愚問だ。友達に明確な定義がないのだから――

 雨……ふりそうだな

 何もすることがなく、頬杖をついて机上から外を眺める。空には鉛色の雲が立ち込め、校庭には体育の授業の準備をしている。

 代わり映えのしない光景。

 面白味のない光景。



 「おい、早く帰ろうぜ」

 放課後――自由な時間なはずなのに、授業中とは打って変わって教室は静寂に包まれた。6限目の終了とともに、互いに声を掛け合った生徒達は、あっという間に教室を出て行った。遊びに行くもの、部活に行くもの。

 学生という時間を有意義に使う為出て行った。

 取り残されたのは私だけ。

 乱雑な机をなんとなく並べてみる。汚れた黒板を綺麗にしてみる。

 何でこんなことをするんだろう

 自分の意思で行動しているはずなのに、ふと疑問を抱く。

 いつのまにか、私の日課になっていた。

 彼らは気づかないだろう。またずらし、汚してしまうだろう。それでも、もっとまじめになってほしい。周りに目を向けてほしい。そういう一縷の望み――期待が、心のどこかにあるのだろうか

 そう思うと、自分の愚かさに思わず苦笑してしまう。

 一通りの作業が終わるころには、空は晴れ、夕焼けの日が差し込んできていた。

 ……帰るか

 徒労感を感じながら教室を後にした。



 夕焼けに向かうように、私は帰路を歩く。

 帰路は、嫌いだ。たった一人で帰るから、余計なことを考えてしまう。

 いつからだろう、あの夕日が綺麗に見えなくなってしまったのは。いつからだろう、耳に入る全ての音がノイズに聞こえるようになったのは

 私の世界は、壊れたテレビのようになってしまった。

 日常に絶望し、周りに興味を失った。

 あの綺麗であろう夕焼けも、私には色の抜けた白黒に見える。懐かしく穏やかな夕方のチャイムも、ただの不快なノイズにしか聞こえない。

 こんな日々をもう何年も過ごしている。

 最初は、頭がおかしくなるように感じた。それも、もう慣れてしまった。

 それでも……それでもやっぱり、胸が苦しい、痛いそう感じる。

 


 気が付くと、家に着いていた。

 玄関先の電灯には灯りがともっていない。

 私が悲観的だからだろうか、冷たく歓迎されていないような雰囲気を感じる。

 そういうわけではない。そんなわけがない。なぜなら、家には誰もいないのは分かっているから。私を歓迎するも何もない。それを分かっていても不思議といつもそう思う。

 ひゅっと、冷たい風が、家の前でいつまでも立ち尽くす私の頬を撫でた。

 ……入るか

 鍵を開けて家の中に入ると、電気もつけずに、着替えもすることなく、真っ直ぐ自分の部屋のベッドに倒れこむ。

 閑散とした部屋。青い壁紙に青い敷物、青いカーテンに青い布団。

 青が好きだからこんな部屋になったが、より一層部屋は寒く感じる。そういえば、授業で青色の効果について習ったっけ

 どうでもいいことを思い出して、すぐに考えるのをやめた。

 静かな部屋。電子時計にわざわざして、針の刻む音すらしないようにした。

 それなのに……それなのに、ノイズが止まない。耐えられない。堪えられない。 クラスメイトが、教師が、家族が、そして、私自身が、私の決めた生き方。ルール。それを、否定しているように聞こえた。

 もう楽になった方がいい。自分が否定した人、嫌いな人たちと同じになったら。って、言っている気がする。

 そんな雑念から目を背けるように目をつぶり、世界を拒絶するように――外界を断絶するように、ヘッドホンを耳にかける。


 初めまして、初投稿させて頂きます五月憂です。

 ハイイロセカイを読んでいただきありがとうございます。

 この作品の、主人公は私に似せて作ってみました。私も、結構悲観的で悩んだり迷ったりすることがよくあります。ネット掲載もすごく悩みましたが、自分が好きな事だからやろうと決心しました。

 まだまだ拙い作品ですが、温かい目で読んでください。

 最後になりますが、最初の作品がこういった作品になってはいますが、ジャンルはいろいろ書いていこうと思いますので他の作品も読んでいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 学生の頃の悩みのひとかけらを思い出せるような作品でした。 [一言] この主人公の世界にいずれ、色が付いていくことを見守りたい、そう思いました。
[良い点] 読んでいて、自分のことで脳裏に甦るものがあるような、ないような、不思議な感じです。 周囲の人や物に対して異様に過敏な上に否定的で、自分自身は落ち窪んだようなこの感じ、身に覚えがあって共感…
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