秋から冬へ。
ある日の学校からの帰り道。
家も近いカナとは、ほとんど毎日一緒に帰っている。社交的なカナは、なかなかの情報通で、いつも色んな話を聞かせてくれる。誰と誰が付き合いだしただの、誰はどこの高校を狙ってるらしいだの。
ところが、今日に限ってどうにも大人しい。
試験の結果が、悪かったのか。体調が悪いのか。
「何、カナ、今日大人しくない?」
「そう?そんなことないよ?」
分かりやすすぎるよ…。
しばらくの沈黙の後、カナが口を開いた。
「んー…あのさ?」
「うん?」
「聞きたくないかもしれないんだけど。」
「聞きたい、聞きたい」
「いや、そういう話でもないんだけど。」
どうも今日のカナは歯切れが悪い。そんなに私が嫌がる話?誰か私の悪口でも言ってたか。
「うん、大丈夫だから言ってみて?」
「言うよ?あのね、ヒロね、キョーコと付き合うんだって。」
「へぇ。」
「で、何でそんなに、歯切れが悪いの?」
「だってユウ、ヒロのこと好きなんじゃ…。」
「なんで?そんなこと言ったことないじゃん。」
「だって、いつもヒロのこと見てるし…。」
「そりゃぁ、あれだけ目立ってればねぇ。…って、そんなこと気にしてるってことは、カナこそヒロのこと…。」
「ユウが、ヒロのこと好きだと思ってたから言えなかったんだけど…。」
「言ってよー。」
そう言って、笑う私。
その後、カナの失恋話に付き合う私。
しまった…。10分前の私を返してくれ…。
カナからヒロが付き合い始めた話を聞いた瞬間は、カナの話の「ヒロ」は自分の好きな「ヒロ」ではないような気がしていた。だから、すぐに「へぇ。」と返事ができた。実際、その話の「ヒロ」を認識したのは、カナと別れて一人で家に向かう時だった。そして、本当に「ヒロ」が付き合いだしたと認識したのは、彼らが一緒に帰るのを目撃した時だった。
照れくさそうに、ズボンのポケットに手を突っ込んで歩く。一回り小柄な彼女が、彼の少し後を追う。
本当に付き合ってるんだ…。
こう目の前にさせられては、信じざるを得ない。「心に穴が空く」とよく言うけれど、「心にバズーカ砲」だ。でっかい穴に、風邪がびゅうびゅう吹きすさぶ。
季節は、秋から冬になろうとしていた。