①ー8
コチラの世界に来て、およそ一月が過ぎた
最初こそメソメソと泣いてばかり居た私だが、心優しいココアさん一家のお陰か一月も経つと泣く事は無くなった
それでも寂しく思う時も有るが、何とかコチラの世界には慣れて来た
アチラの世界での事がコチラでほぼ役にたたない現状
何でも周りに揃ってる便利な環境で何不自由無く過ごして来た私に出来る事は少なかった
それでも何とか出来る事を必死で探し過ごす内に様々な事を学んでいく
アチラの世界では得られない知識を日々淡々と吸収していく
しかし、やはりコチラでも危ないと包丁やら、火やらは扱わせて貰えず、私が出来る事と言えばお皿を洗ったり、洗濯したり、ココアさんの補助的な事しか出来ない
それでも必死で出来る事を探し過ごす
結構逞しくなったと思いながら、農作業に精を出す
大きな大根に似た植物を必死で引き抜く作業を繰り返す
少し離れた場所にアスナの姿が見える
泥まみれのその姿は健康そのものだ
一見優男の様に見えるセラムさんは元は王宮騎士だったと聞く
確かに言われて見れば農作業をしてる様に見えない
でも、王宮騎士にも見えない
セラムさんは、そう、小さな町医者が似合う
優しげな風貌で聴診器が似合いそうだ
ココアさんとセラムさんの良い所だけを集めて出来た様なアスナ
柔らかな茶色の髪質と薄緑の瞳はセラムさんそっくりで形の良い薄い唇と少し気が強そうに見える真っ直ぐな気質はココアさん遺伝だ
メソメソ泣く私を何度も励ましてくれたのもアスナだ
コチラの生活に早く慣れる様にと私を連れ、街の子供達に紹介してくれたり、何かと面倒を見てくれるのだ
農作業すらした事が無かった私に丁寧に教えてくれたのもアスナだった
今では何とか様になってると思う
せっせと朝の早い時間に収穫作業を終わらせると朝ご飯が待ってる
遠くでセラムさんが朝ご飯にしようかと手招きする
野菜が入った籠を抱えるとそれを横から奪う様に持ってくれるアスナ
「チビが無理すんな」
顔を少し赤らめソッポを向いたアスナにチビじゃないと頬を膨らませる
口が悪いアスナの後を追って家に帰る
手を洗い、お皿を運んだりしたら美味しい朝食にありつけると知ってる私は手伝いをする為イソイソとココアさんの元へ行く
お帰りと頭を撫でられヘヘヘと笑う
一通り手伝うとテーブルに付く様に促される
アスナの横に腰を降ろすとアスナに手ぇ洗ったか?と聞かれる
アスナはなんだかんだと世話好きなのか構いたさんなのか口煩い
口煩いのはコウちゃんだけで十分だと思った所で現実世界の事を思い出す
思い出せば寂しさが募り、ココアさん達が気にし、心配させるからバレない様に涙を引っ込める
正直、まだ夢の可能性を捨てきれないでいる
あのオーブの夢を見れたら帰れるんじゃ無いかと思ってしまう
けど、夢は見ないのでどうしようも無い
今、此処で精一杯過ごすしか出来ないのだ
目の前に並ぶココアさんお手製の手の込んだ料理を見つめ歓喜の溜息を漏らす私
そんな私を見つめアスナがセラムさんそっくりな微笑みをしてるなんて知らない
ココアさんは凄く料理上手で、その昔、王都の一流店で働いてたと聞く
ソコにセラムさんが客として来て恋に落ちたと聞いた
貴族のちょっとした良い所のお坊ちゃんだったセラムさんと、しがない見習い料理人のココアさん
交際に反対された二人は手と手を取り合い駆け落ちしたと何とも恋愛小説かドラマみたいな馴れ初めを話してくれた
うっとりする様なラブロマンスを語ってくれたのはセラムさんの方でココアさんはと言うと
「何が手と手を取り合って駆け落ちだ!話しを捩じ曲げるんじゃないよ!」
セラムさん談とココアさん談では大分話しが違って来るらしく、ココアさんが言うにはセラムさんは
「この人ね、気持ち悪い位私の事が好きなんだよ」
指差して、嫌そうに教えてくれた
ココアさんに一目惚れしたセラムさんは毎日の如く通い詰めたと聞く
ストーカーの如く通い詰めたセラムさんと流されるまま付き合う様になったココアさんだが、結婚の話しになり、セラムさんのご両親に猛反対されたらしい
ココアさん本人も結婚はしないと断ったらしい
「当たり前だ!この人、三日でプロポーズして来たんだよ!何て言ったと思う?攫うって言ったんだよ!?頷かないなら攫うって!」
ああ、頷かなかったから攫ったんだなと生暖かい眼差しをココアさんに送る
ハッキリと攫う宣言したセラムさんは半ば強引に攫うとこの地までやって来て家庭を築いたんだと笑う
それは幸せそうにココアさんを見つめ、うっとりと微笑んだ
セラムさんとココアさんはとっても仲が良くてココアさんに嫌がれながらも引っ付いて行く姿を何度も見た
ココアさんも、鬱陶しいと言いながらも嬉しそうに見えるのは見間違いじゃないと思う
そんな二人の息子のアスナだが、最近様子がおかしい
この前、街の子供等と鬼ごっこをした日からセラムがおかしいのだ
真っ赤になったと思ったら次の瞬間うろたえたり、挙動不審な行動をしたり、ジーッと見られてると思って振り返ると慌てた様に反らされたり...
時に兄であり、弟であり、友の様であったアスナ
何か思い悩む事でも有るのだろうかと、聞いてもはぐらかすばかりだ
朝食が終わると教会へ行く予定で、食べたモノを片付ける
まぁ、行くと言っても子供だけでだ
王都や、上流階級の御子息や御令嬢は家に家庭教師を雇うらしいが、こんな片田舎の庶民や下級貴族なんかは教会へ学びに行くのが一般的らしい
教会で文字書きなんかを教わったり、下級貴族の御令嬢なんかは礼儀作法なんかを学ぶ
庶民は学べ、教会は国から報償金が出ると言う仕組みだ
今日も今日とて例外なく教会へ行く
勿論、私も一緒にだ
「ヒナは直ぐ転ぶから俺が手を引いてやる」
そう言って手を持たれるのも何時もの光景だ
何度転ばない、大丈夫だと伝えた所で聞いてくれず、あまりしつこく言うと機嫌が悪くなるから今ではしたい様にやらせている
家を後にする私達をココアさん達が見つめて何やら会話をしてる
「あの子は確かにアンタの子だね....」
「自分の息子ながら見てられないね.....あれは周りに牽制してるんだよ?」
「あーヒナコの未来が痛溜まれない...」
「僕達は反対何てしないでおこうね?だって駆け落ちしたら溜まんないしね」
「当たり前だ!でも、これから先はヒナコの気持ち次第だろう!」
「うーん.....でも、アレは逃がさないと思うよ?だってあの子は僕にそっくりじゃないか」
「その問いに否定はしないでおくよ」
夫婦の会話はコチラまで届かず聞こえない
鼻歌交じりに歩く私をアスナがジッと見てるなど気付かなかった
えっと、明日、見直して誤字やおかしな所がないか確かめます。話しの内容は変わらない予定です