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夢渡り姫と七人の男達  作者: ユウ
3/11

①ー2

ヒナコが引っ越して来て季節は巡り、様々な事があった


ソレは数えれば切りが無く、俺を困らせた



ヒナコの両親は過保護で近くの公園に行くのすら心配性を発揮させた



でも、ソレはヒナコを見てれば頷くモノで

ヒナコと出掛けた時には決まって迷子になる


そればかりか知らない奴に付いて行く始末


正しくは目が離せない状況で、ヒナコは俺を何度と無くヒヤヒヤさせる天才だった


危ない目に何度もあっては周囲をハラハラさせた


一緒に公園に行ったのに何時の間にか居なくなり、大捜索が行われ、夕方頃見つかったヒナコは泥まみれのぐちゃぐちゃな状態


泣きじゃくりながら歩いている所を巡回中のお巡りさんに保護されたりとか

犬を追いかけフラフラとし、居なくなったりやらを繰り返すヒナコ

好奇心旺盛もヒナコの場合、犯罪すら引き起こす


まずその容姿は人目を引く


人目を引くだけなら何も言わない


中には引かなくて良いモノまで引くからコチラは堪ったモノではない


俺を片時も目が離せない状況に陥らせる天才のヒナコ



その天才の涙を見ると怒るに怒れない大人達に変わり何度と無く声を張り上げる俺は間違ってない



眉間の皺が上準装備は言うまでも無い


眉間に皺を常に刻む子供ってどうかと思う...


ヒナコの涙にも笑顔にも弱いダラシの無い大人達に代わり、ヒナコが口煩い俺の言う事を聞く様になるのは当たり前の事で


俺の両親もヒナコの両親もヒナコを丸っと俺に丸投げする


自分らはヒナコを散々甘やかせるだけ甘やかせ、嫌な役回りを俺に押し付ける


ハッキリ言って狡いと思う



俺だって.....俺だってヒナコを甘やかせたい


でも、大人達が余りにもダラシが無いから俺が叱るしかなく....


ヒナコは俺が呼ぶと犬の如くやって来る


しかし、甘やかせられ育ったヒナコだが、我が儘で傲慢には育たなかった


ま、俺の躾がよかったと思う


俺が怒ればシュンとうなだれ、叱られた子犬の如く大人しくなるヒナコ


その姿がまた可愛いくて可愛いくて心の中で身悶える俺


しかし俺が叱ると、あの駄目大人達はここぞとばかりにヒナコを甘やかし、俺を非難する


俺が叱れば両家の親のどちらかが宥める



しかし、流石のヒナコも堪える出来事があった



あれはそう...ヒナコが四歳の冬の事


両家を交えて旅行に行った時の事、雪景色の綺麗な温泉宿で男女に別れ温泉に入ったまではよかった



身体も温まり、出て来た俺等を母親等が真っ青な顔して出迎えた


「あ、あなた...そっちにヒナコ来てないわよね?」



聞けば母親等が頭を洗っている間に居なくなったとの事



直ぐ様捜索が行われ、ヒナコは呆気なく見つかったが、薄着で外に出たヒナコは一週間高熱を出した



高熱の為、怒るに怒れなかった俺だが、熱が下がって、ヒナコに問いただした所


「だって.....」

「だって?」

「コ、コウちゃん怒らない?」

「ヒナコは怒られる様な事をしたんだよ?どれだけ俺が....皆が心配したと思う?」


ヒナコはその大きな瞳に涙を一杯溜めると、か細く謝って来た



「ごめん...なさ....い」



その姿は俺が虐めている様にも見えるだろう



仁王立ちし、腕を組みジロリ見下ろす俺


もちろんヒナコは目の前で正座だ


自身の太股の上で拳を握り締め見上げるヒナコは必然的に上目遣いになる



その破壊力と来たら凄まじいもので、今回ばかりは死の淵を行き来したと言う事でヒナコの両親も俺の両親も心を鬼にして挑んだ筈だった



筈だったのに!



ヒナコが泣き始めるとコロリと態度を返る駄目な大人達


「か、可.....ゴホン.....」



寄りにもよって今可愛いって言おうとしやがったな



ギロリと駄目な大人達を睨み付け、ヒナコの涙に負けそうになりながらヒナコを見下ろす


目付きを鋭く尖らせるとビクリと跳ね上がるヒナコ



人タラシのヒナコは無自覚で周りを巻き込む


巻き込まれた方はソレを喜んでニヤケル始末



現に揃いも揃って良い例が両親ズだ


ハァーと溜息を吐き出すと恐々としながらその時の事を話し出したヒナコ



「だってスミレちゃんに....」


「スミレちゃんってあのスミレちゃん?」



コクり頷くヒナコ


スミレちゃんとは数少ないヒナコの友人で、御歳95歳のおばあちゃんだ



もう、足腰が弱く遠くになど行けないらしいスミレちゃんはヒナコを孫の様に可愛がる老人の一人だ

 


「スミレちゃんに雪だるま見せたかったの...」



シーンと静まり返る室内



最近寝たきりのスミレちゃんの元へ足げ無く通ってたヒナコ



「スミレちゃんに雪だるま見せたかったのね...」



「雪を見た事が無いってスミレちゃんが言ってたから」シュンとうなだれ、ヒナコが呟く



発見された時の事が蘇る



一生懸命雪だるまを作ってたヒナコ



鼻の頭と頬を真っ赤にさせ、作ってた雪だるま



スミレちゃんはヒナコが高熱を出した三日目の晩、息を引き取った



ソレをヒナコに言うのにどうしても躊躇う



「コ、孝介.....もう、ソレくらいで許してやろう」



プルプル震えるヒナコ



ヒナコを優しく抱きしめる俺の母


その日から二日後、スミレちゃんの事を知ったヒナコ



スミレちゃんが大好きだったヒナコ



俺はヒナコが泣き喚くだろうと身構えてた



しかし、ヒナコは泣き喚く代わりに涙を一つ漏らした



ポロリと漏れ落ちるヒナコの綺麗な涙


小さな声で「スミレちゃん....」と寂しげに呟いたヒナコ



その日、ヒナコは少しだけ大人になった



スミレちゃんの口癖は「ヒナちゃんの笑った顔が大好きよ」だった



何かを堪えた様に泣き笑いするヒナコ



そんなヒナコの傍らでスミレちゃんの家族が声を張り上げた


「母さんっ!何で財産を寄付なんてするのよっ!」



スミレちゃんの家族を見た事はそれまで一度も無く、スミレちゃん自身家族は居ないと漏らしてた


スミレちゃんは所謂....淋しい老人で、発見された時、死後三日が経っていた



スミレちゃんは心配性の一人でヒナコの高熱の事を伝えに行くのに遅くなり、それでもヒナコの高熱がピークで危ないかもしれないとスミレちゃん宅を訪れた


何か予感があったのか、遺書が枕元に置いてあった



少しだけ大人になったヒナコは五歳の春同じ幼稚園に通う事が決定した



それも偏に俺の努力のたわものもあると思う



スミレちゃんの事もあり、少しは成長したヒナコだが、危なっかしい事に代わりは無く、本人は無自覚なまま、何かとやらかす



だから俺も目が離せない






  



あー孝介君苦労人です

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