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クッタリアの魔物  作者: 赤異 海
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8/鍛冶師タカード②

「まさかここまでやるとはな。」


 今町はかつての活気を取り戻す以上に人で溢れている。町の閑静であった酒場は今や毎夜人々で賑わい音楽を奏でる者や見世物をする者までいる。


付近で猛獣に行商キャラバンがやられたとの噂を聞いた貴族モルチスは国から一つの町を守るには十分すぎるほどの傭兵を雇い入れ、さらには音楽家、大道芸人など娯楽となる集団まで連れてきた。


さらにその噂を聞きつけた商人たちが大量の食糧や酒、日用品を運搬してきている。


これも遺跡とやらの愛しさの賜物であるのか。


私たち鍛冶師も毎日傭兵の剣の手入れを頼まれては町の最盛期以上に働かされている。


本来私たち町人はモルチスの調査隊の人員として雇われたのだが、町の歴史や文化の話を一通り聞くとふんふんと独特のリズムの鼻息を漏らしながら中央砦やその周辺の古代からの建造物の調査に一人で今も夢中に取り組んでいる。その手伝いとして力仕事ぐらいはできるだろうと行っても、モルチスの執事であるアイン率いる使用人勢に丁重に断られるだけである。


食事や身の回りの世話はアインが少数の使用人としているようで、町では毎日のように同じような服装の人間が買い付けにくるので、商人たちにも当然顔を覚えられた。


執事のアインが町中にいるとやれいい茶葉が入っただのいい酒が入ったから貴族様にどうかなどと売り込みの話が絶えない。そのあしらう様子を見るにアインの方がモルチスより貴族に向いているように見える。


まあ、顔が整っていることもあるのだろうが。アインが町へ出てくるたび町娘たちも黄色い声援を彼に送っている。


私の娘のメレはそんな彼にはさほど興味はないようだが事ある毎にモルチスの話を振ってくるのでこれはこれで少しというか、とても心配である。いや、今も傭兵の鎧の直しが手に付かず落ち着かないほどに心配である。これならアインに夢中になられている方がずいぶんと安心できる。


町長も始めはモルチスをやっかいな変人が来た程度に思っていたようだが、町の賑わいとそれに伴う大量の金の流れに今やご満悦である。


町の入り口の矢倉を通行料を取り立てる関所に変化させた時はついに耄碌したかなどと思ったが、商人たちも気前のいい貴族と直接商売ができることと天秤に掛けた結果、しぶしぶながらも通行料を払っている。


さらには町長はモルチスが遺跡と古いものがなによりも好きだという噂を流し、商人たちに再度通行料を払わせることにも成功した姿を見て――この村長は炭鉱員よりも商人に向いていたのだ全く人生の大半を無駄にしたな――と笑い話にする町の者たちもみんな笑顔である。


アインに怪しげな置物や古い硬貨などを見せて貴族様にどうかと勧めても全て断られてしまうのだが、運よく町中をうろつくモルチスに古代の石像を思いのほか高値で買い取ってもらえた者はそのことに味をしめ適当に周辺の町から怪しげな物掻き集めてきてはモルチスの到来を今か今かと待ち構えている。


アインの話によれば本物であるという確信が持てたのでモルチスは適正価格で買ったのであろうということだが、安く買えるなら買い叩いてしまえと思うのはやはり俗人特有の物なのであろうか。


モルチスの拘りなのであるとアインは言う。


古い物への愛着が募り募って、相応しい取り扱いをしなければならないと盲信しているのだそうだ。


彼の実家には複数の遺物を保存した保管庫が存在するが既に溢れており、新たな保管庫を建築しているという。


自分がいない間でも遺物の保管への執着は凄まじく、それの手入れなどを家の使用人へ細かく指示し、時には専門家仲間を寄越したりなど彼の実家はさながら見世物小屋と変人の巣窟となっているため親族などからは煙たがれられているらしい。まっとうな感覚があれば当然である。


 ある時、私の下へアインが訪れた。中央砦内の何やら怪しげな部屋への入り口が見つかったのだそうだが、どうにもこうにも扉が破れないらしい。


それで町の鍛冶師たちに先端が薄いが丈夫で扉の隙間に差し込んで梃子の棒として使うにちょうどいい物を作ってほしいと依頼しに来ているらしい。


スコップやクワで試してみたのかと聞くと、隙間に挟まりはするのだが、傭兵たちに指示し、持ち手の気が木がへし折れるほど力を加えてもびくともしないらしい。


それではただの溝か何かなのではないかと聞いても、空気も漏れる音がしたので絶対に扉なのだとモルチスは言い張っているとアインは答えた。


「たぶんその扉俺達でも開けられないぞアイン君。前に試しに建物自体を打ち壊そうとした時があってな。うちの町で作ったハンマーやら何やら使ってみたが傷一つ付けられなかったよ。凹んだのは丹精込めて作った道具と鍛冶屋の心だけだった」


「タカード様。では鉄や鋼でなく他の鉱物で作るのはいかがでしょうか。この土地には多岐で豊富な鉱物資源があると主人からも伺っております」


「いや、それなんだが――」


 私は正直にここに眠る鉱物のほとんどが今の技術では使える物に出来ないことを伝えた。


熱が足りないのだ。塊として掘り出し、たたら場で丁寧に叩き鍛えても不純物が残ってしまっているのかひびが割れたり、ぽきっと折れてしまう。


きちんと鍛錬すれば強靭な金属骨格を作ることもできるのは特火点の骨組を解体した際に調べはしたのであるが、王国へ持ち帰っても今も尚、その性質は分かっていない。なので掘り当てた未知の鉱物は使い道もないので全てが国に保管されている。


「では、ここにその金属は無いのですか」


「いや、だからあるにはあるが鍛錬できる者がいない」


 そんな私たちの会話を見兼ねて娘が割って入ってきた。


「じゃあ、残ってる骨組を解体してモルチスさんが欲しい物に鍛え直せばいいじゃない」


「あれは全て国に提出したんだよ。国から取り寄せるにもいくらモルチス殿が貴族でも出来るものか分からんよ。」


「お父さんも馬鹿ね。そんなことしなくてもここには山ほどあるじゃないさ」


「は?そうか!」


 あるにはあったのだ。解体していない特火点が何棟も。モルチスの解体への強い抵抗から失念していた。


「アイン君。モルチス殿に解体の許可を。メレは町の鍛冶師をみんな集めてくれ。後、たたら場の準備を。いくらすでに完成しているといってもたたら場の熱でも鍛え直すことは出来るんだ。幾らか不純物が混入してしまうかもしれないが、これでいい物が作れるぞ」


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