51/傭兵カルベス②
下手な事思うんじゃなかったな。カルベスは後悔していた。
猛獣でも狩って暇を潰すつもりがこちらが狩られる側である。今や町は中に侵入してきた怪物たちの数は凄まじく、その猛攻に晒されていた。
みなモルチスが用意した銃とやらの試し撃ちは済ませており、初めはなれなかったが俺だってかなり的に当たるようになってきた。あの銃はとても威力がある鉛玉を発射するがまるで怪物たちには効いていないようであった。威力は十分知っているつもりである。
それをここで見た事がある顔をした人間の姿の怪物に撃ち込むが少し吹っ飛んだりはするが、怯むことなく襲いかかってくる。
この銃とやらは一発一発が威力が高いが弾を込める作業が面倒で時間がかかるのが難点だ。しかもご自慢のその威力はこの怪物には通用しない。
眉間を狙って一発撃つ。
少し狙いを外れたが見事に右頬に命中した。だが怯まない。
「全く使えねぇな」
つい思った事をそのまま言ってしまった。
俺があそこでこの顔の傷を受けた物はこんなちゃちな代物ではなかった。こんな物しか買わなかったのかあの貴族は。いや売ってもらえなかったのか。
そんな事を思っている間にも怪物たちに近くの傭兵がやられる。弾を込めている時間が惜しい。
カルベスはそう考えるや否や銃を放りだし、肩にかけた弓を構えだす。足を動かし始める。距離を詰められないように。
今は馬がない。距離を詰められるな。
カルベスは力を入れひとっ飛びに石で出来た丈夫な家屋の屋根に舞い降りた。舞い降りたというのが正しい。飛び乗ったや飛び移ったなどという表現では足りないほどに人間離れした動きを見せた。そんな彼の動きも今の状況では注目されはしない。
「まずあいつか」
酒場で見かけた男。小遣い稼ぎに出て行った、女と俺を馬鹿にした口の悪い傭兵だった怪物に狙いを定める。
矢を手に持つと素早く弦を引き放つ。
銃と同じように見事に眼窩に突き刺さった。だが怪物は歩みを止めない。
駄目か。
次に心臓を狙う。命中。しかし歩みは止まらない。
これも駄目か。
カルベスは少し困った。急所を射っても全く効き目がない。これではどうすればいいのか。
そんな彼の目に一つの闘いが見えた。あの馬車から下りてきた兵士風の男である。
弩から放った矢が膝に命中し、怪物の動きが鈍くなった。矢は直ぐに折れてしまったが、それで時間稼ぎができるのか。感心した。
すかさず動きの鈍った怪物の腕を斬り飛ばす他の兵風の男たち。
経験があるのか。直ぐにこんな対処を思いつく訳がない。
しかし、こんな戦い方は風来坊の傭兵たちにこんな連携は出来ない。味方を盾にする程度が関の山だ。
困った。
その困った果てにカルベスはモルチスのいる遺跡に向かうことにした。雇い主を守るのが自分の金を守ることになると思っての事だ。